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草原演義  作者: 秋田大介
巻六
329/783

第八 三回 ①

ダルシェ赤流星を撃ちて喪神を(わら)

ハレルヤ赫彗星と語らい飛礫(ひれき)を誘う

 さて赫彗星カンシジ・ソラは、梁公主の策謀によりダナ・ガヂャル攻略を命じられた。逡巡していたところに四頭豹ドルベン・トルゲが甘言を弄したため、神風(クルドゥ)将軍(ン・アヤ)アステルノの反対も押しきって出陣を決した。


 四頭豹から借り受けた亜喪神ムカリの狼藉は(はなは)だしく、軍監小スイシの掣肘(せいちゅう)にも悩まされたが、ソラ率いる赤流星は気概(ヂルケ)に燃えて進軍した。


 一方のダルシェも盤天竜ハレルヤに命じて全軍を送り出した。黒鉄牛(ハラ・テムル・ウヘル)の掲げる大将旗を押し立てて、堂々と平原(タル・ノタグ)に布陣する。


 ソラはうるさい小スイシを退けたあと、盛んに斥候(カラウルスン)を放って敵情を探った。その慎重な様子は、さながら薄氷を踏むがごとくであった。


 今までは己の才略(アルガ)(たの)んで雷霆(アヤンガ)のごとく攻めかかるのが常であったが、さすがに相手が()()となると事情が異なる。これを見て諸将は改めて気を引き締める。(ブルガ)布陣(バイダル)が判ると、思わずううむと唸って言った。


「敵は広く展開している。絶対敗れぬ自信があるらしい」


 諸将は憤然として口々に叫んだ。


「ならばその自信を打ち砕いて(エムブルー)やりましょう!」


 ソラは莞爾と笑うと、両の掌をぱちんと合わせて、


「よし! 赤流星の威力を知らしめてやれ」


 諸将は一斉におうと応える。(カラ)は下り、一兵卒まで勇躍(ブレドゥ)したジョシ軍は、再び進撃を開始する。それはまさしく流星の群れ(スルグ)を成して飛ぶがごとくであった。


 (ツァサン)を蹴散らして、たちまちダルシェの眼前に躍り出ると、ついに両軍は対峙した。ソラは敵陣を望見して一部の隙もないことにおおいに感心すると、


「まるで鬼神(チュトグル)の群れだな」


 そう呟いて不敵に笑う。対するハレルヤも赤流星の威容に接して言うには、


「まさに名は虚しくは伝わらぬものだな。(ガル)のごとき戦意を感じるぞ」


 傍ら(デルゲ)の黒鉄牛は不安そうにこれを仰ぎ見る。ハレルヤは豪快に笑うと、


「臆したか。お前には流星の(ほころ)びが見えないのか」


 黒鉄牛は(ニドゥ)を円くして首を振る。ハレルヤは(ガル)にした大刀で指し示して、


「中に異物が雑じっているではないか。なぜそんなことになっているのか知らぬが、あの部隊だけ規律がなく、戦意も乏しい。あれを衝けば流星は瞬く間(トゥルバス)に四散しよう」


「はぁ……」


「ふふふ、実際に見せてやろう。しっかりと(トグ)を持ってあとに続け」


 ハレルヤは目を(いか)らせると、大刀を掲げて叫んだ。


「ダルシェの戦闘(カドクルドゥアン)を見せてやれ。狙うは最左翼(ヂェウン・ガル)にある雑軍のみ!」


 盛んに金鼓が打ち鳴らされ、全軍どっと喊声を挙げて馬腹を蹴る。先頭をハレルヤの巨躯が駆ける。刃渡り三尺の大刀は陽を浴びて(きら)めき、漆黒の大馬(トビチャグ)は真白な息を吐いて雪を蹴る。


 ソラは魔軍がいきなり突撃に転じたことにも動じる気配すら見せず、


「ふん、蛮族どもめ。赤流星を侮ったな」


 合図とともに金鼓が轟き、真っ向から迎撃する。ソラ自身はまず待機して戦局を窺った。両軍が交錯した瞬間、ソラは驚くべき光景を見た。敵の先駆け(ウトゥラヂュ)たる大将は、群がる騎兵をまるで子ども(クウヘド)のごとくあしらって突き進んできたのである。


 その大刀が(ひるがえ)るたびに、盛んに血飛沫が揚がる。あるいは首が飛び、あるいは胴が断たれ、人馬の別を問わず無造作に斬殺されて、たちまち屍の山(ウクレン・アウラ)が築かれる。続く将兵も悪鬼のごとき形相で、いずれも一騎当千のはたらき。


 その勢いにジョシ軍は早くも浮足立つ。ソラは知らず(オロウル)を震わせて、


「あの猛将(バアトル)は何ものだ……」


 呟いたところではっと我に返ると、


「よもやあれこそ超世傑の語った猛将ではないか!」


 ソラは周囲の精兵を集めると、おおいに鼓を打たせてどっと押しだした。


「一人でかかるな! 大勢で囲んで矢をかけよ!」


 叫びながら駆ければ、前線の将兵も何とか踏み止まる。ハレルヤはほうと嘆声を漏らすと、笑みを浮かべて、


「敵将も単なる阿呆(アルビン)ではないらしい。しかしもう遅い」


 大刀を(めぐ)らせれば、応じて一斉にジョシ軍の左翼に襲いかかる。そこにあったのは亜喪神ムカリとその百騎(ヂェウン)であったが、ムカリはもともとあまりまじめに戦う気がなかったため、矛先を向けられるとあっと言う間に(きびす)を返して逃げだした。


 そこを怒涛のごとく攻め立てれば、ジョシ軍の戦列(ヂェルゲ)は衣の糸を抜いたように崩れていく。

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