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草原演義  作者: 秋田大介
巻六
313/783

第七 九回 ①

タケチャク奇人を(もと)めて奔雷矩の言を伝え

ナオル叡慮を量りて衛天王の信を得る

 ウリャンハタ部の(シネ)カン、衛天王カントゥカの使者として中原を訪れたチルゲイ、シン、スクの三人は、ジョルチン・ハーンの手厚い歓待を受けた。


 黄金の僚友(アルタン・ネケル)と呼ばれるジョルチ部の好漢(エレ)たちも方々から集まり、二日に(わた)って盛大な酒宴が開かれる。それがすんだあとも三人は引き止められて、今日はナオル、明日はセイネンといった個人的な招待が続く。


 そうこうするうちにいつの間にかひと月近く経ってしまった。すでに(サルヒ)は冷たく、(オブル)は目前である。三人は(はか)ってインジャに(まみ)えると、


「そろそろ西原に帰ろうと思います」


「では最後に送別の宴を開きましょう」


 早速四方に使者が送られる。応じて続々と諸将が馳せ参じる。タムヤのマタージ・ハーンも報せを受けたが、呆れ顔でゴルタに言うには、


「奇人殿はまだいたんだな。タムヤに寄らずに帰るわけがないから、妙だとは思っていたんだが」


 そこへ一人の文官(ドゥシメット)が入ってくると奏して、


「ウリャンハタ部よりタケチャク・ヂェベなるものが来ております」


「ははあ、あんまり遅いんで迎えが来たか」


 笑って謁見を許す。通されたのはひと目でそれとわかる好漢。拱手して挨拶すると言うには、


「ハーンはチルゲイたち三名の所在をご存知ではありませんか」


 思わず大笑いしてジョルチ部にいることを教えると、ほっと安堵の息を漏らす。ちょうどジョルチへ行くことを告げれば、同行を望んだので快く承知する。


 準備整い、タムヤの主従はタケチャクを伴ってタムヤをあとにした。道中は格別のこともなく目指すアイルに到着する。


 オルドにはすでに数多の好漢が集って、彼らを心待ちにしていた。マタージはインジャに挨拶を終えると、チルゲイに向き直って、


「ウリャンハタから迎えが参っておるぞ」


 チルゲイは左右を顧みて、


「やや、長居しすぎたか。で、誰が来ましたか」


「タケチャクなる好漢。何やらかなりあわてていたようだが」


「おお、矮狻猊(わいさんげい)か」


 インジャが言った。


「その方もここにお通ししてください」


 応じて早速タケチャクが招き入れられる。まずは諸将に丁重に挨拶すると、チルゲイらを睨みつけて、


「大事なときにふた月も留守にしよって。みな怒っているぞ」


「すまぬ、すまぬ。変わったことでもあったか」


「お前の留守に訪ねてきたものがあった」


「ほほう、誰だ?」


「ヤクマン部のオンヌクドという男だ」


 その名を聞いておおいに驚く。


奔雷矩(ほんらいく)が? 遠路はるばるやってきたということは、重要な用事だったのではないか」


いかにも(ヂェー)。恐るべきことを報せてくれた」


「恐るべきこと? 何だそれは」


 するとタケチャクは言葉(ウゲ)を濁して、


「ここではちょっと……」


「では外で聴こう。ハーン、ちょっと中座いたします」


 チルゲイはタケチャクを(うなが)して外に出る。居並ぶ諸将は唖然としてこれを見送ったが、やがて再び喧騒に戻ろうかというころに二人は戻ってきた。見れば常にない険しい表情。インジャが心配して、


「何かありましたか」


「容易ならざることです。ここにはちょうどジョルチ部のみなさんがお揃いです。是非聴いていただきたい」


 前置きすると、一旦言葉を切って周囲を見回す。もちろんみな黙って注視している。おもむろに(アマン)を開いて言うには、


「ヤクマン部のオンヌクドは、奔雷矩という渾名(あだな)を持つ好漢です。以前ミヤーンとジョナン氏のアイルを騒がせたときに、族長(ノヤン)のムジカとともにとてもよくしてくれた男です」


 さらに続けて、


「彼が密かにもたらした報によると、何とミクケルの遺児がヤクマン部に投じたとのこと。かの遺児の行方については、ここにある矮狻猊が手を尽くして(しら)べていたのですが、よもやヤクマンにいるとは思いも寄りませんでした」


 ジョルチの諸将もおおいに驚く。さらに続いて放たれた言葉に驚きは倍増した。何と言ったかと云えば、


「トオレベ・ウルチはこれを厚く保護し、……()()()()()()()()()()()に補佐を命じたそうです」

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