第七 六回 ③
サチ渾沌郎と倶に勝形を解き
スク麒麟児と与に剛将と争う
そうして論功行賞もことごとくすみ、部族の新制も定まった。アサンとヒラトがあらかじめ整えておいたものである。すなわち、
部族の太陽たる大カンにしてスンワ氏族長
衛天王 カントゥカ
軍民両政に亘ってカンを輔弼する丞相
聖 医 アサン・セチェン
財政・司法を司る執政にしてカオエン氏族長
潤治卿 ジュン・ヒラト
近隣部族との折衝に当たる外交官
奇 人 チルゲイ
軍を統率して人衆・家畜を守る大将
花貌豹 サチ
民事を統轄する執政の補佐官
雪花姫 カコ・コバル
軍の先鋒を務める将にしてネサク氏族長
麒麟児 シン・セク
カムタイを宰領し商旅を保護する守護官にしてカムタイ氏族長
一角虎 スク・ベク
イシを宰領しメンドゥ防衛を司る守護官にしてウラカン氏族長
竜騎士 カトメイ
軍の布陣および牧地の敷設を指導する参謀長
知世郎 タクカ
軍の機密を司り戦略の決定に携わる軍師
渾沌郎 ボッチギン
情報収集および伝達を司る将領
矮狻猊 タケチャク・ヂェベ
武具の工廠を司る将領
蒼鷹娘 ササカ
軍馬の厩舎を管理する将領
妖豹姫 エミル・ガネイ
旌旗や軍袍の支給を司る将領
娃白貂 ジュチ・クミフ
北辺防衛を司る将領にしてチダ氏族長
牙狼将 カムカ・チノ
糧食の確保および兵站を司る将領
笑破鼓 クメン
遊軍を率いる将領にしてダマン氏族長
急火箭 ヨツチ
以上、十八人がウリャンハタ部の諸将である。このほかに、
カムタイにて政務を司る客将
紅大郎 クニメイ・ベク
双城を結ぶ駅站を管轄する客将
銀算盤 チャオ
イシにて政務を佐ける客将
─ ミヤーン
イシにて内政を管掌する文官
瑞典官 イェシノル
イシにて防衛を指揮する武官
鉄将軍 ヤムルノイ
これら五人が大カンの名の下に改めて登用された。またミクケルに与して敗れた諸氏族の人衆および家畜は、それぞれ分配された。
ヒラトらが行った諸々の改革はひとつとして民意に違うことがなかったので、人衆がこれを敬慕して奉った名こそ「潤治卿」である。
戦後処理を了えたカントゥカらは意気揚々と東帰した。途中、タケチャクがムカリとミクケルの遺児の行方を探るため列を離れたほかは、うち揃って凱旋した。
さて、興奮冷めやらぬ彼らのもとに一騎の早馬が至ったのは、ドゥルガド台地を出てまだ三日目のことであった。拝謁した騎兵は、祝辞もそこそこにあわてて言うには、
「クル・ジョルチ部の先鋒、およそ五千騎が南下中です! カムカ様はパンヤン高原に拠って援軍を待っております!」
この報は諸将をおおいにあわてさせた。しかしアサンは冷静に言った。
「おそらくその五千騎は、我らを探るためのものです。隙を見せれば好機と判断されて大軍が発せられるでしょう。あわてることはありません。我が軍は渾沌郎君と花貌豹のおかげで健在です。その五千騎を撃てば、侵攻は見送られるはずです」
カントゥカは麒麟児シンに命じて北へ向かわせることにした。すると座中よりスク・ベクが立ち上がって、
「俺も行くぜ。まだ暴れ足りない」
無論大喜びで許されると、二将は勇躍して勝利を誓う。結局二将に加えてタクカが五千騎をもって援軍に向かうことになった。