表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
草原演義  作者: 秋田大介
巻五
265/785

第六 七回 ①

ミヤーン(つい)に奇人に(うべな)い三策を示され

カトメイ密かに好漢を訪ねて二択を迫らる

 さてチルゲイは、蒼鷹娘(ボルテ・シバウン)ササカにヒラトらを迎えに行くよう指示したあと、スク・ベクとともに駆けに駆けてイシに入った。


 そのままミヤーンの家に乗り込んで叛乱(ブルガ)の兵を挙げたことを告げれば、おおいに驚く。協力を渋るミヤーンについに言うには、


「悪いが聞いてる暇がない。ミクケルを斬ってからにしてくれ」


 このひと言で諦めて(アマン)(つぐ)んだので、チルゲイは喜んでスクに言った。


「こいつはいつもそうなんだ。最後には必ず承諾(ヂェー)と言ってくれる」


 当のミヤーンはおもしろくなさそうに、


「承諾しなければ何をするかわからんからな、君は。で、何を企んでいるんだ?」


 すると沸きあがる笑みを(こら)えきれない様子で、


「イシの兵がミクケルの援軍となってはうまくない。これは君にも解るだろう」


「それはそうだ」


「だから我々の援軍に変えようと思う」


「は? どうやって」


 (フムスグ)(しか)めて問えば、呵々大笑して、


「ここにある四人でイシを落とすほかないではないか」


「無理を言うな!」


 ミヤーンは憤然として立ち上がる。チルゲイはこれを(なだ)めて、


「先年、不浄大虫バーリルを討ったとき(注1)は、ヒィ・チノと我ら三人だったではないか」


「あれとこれとでは話が違う! 奴はただの野盗(ヂェテ)の類だったが、イシにあるのはカンの代官(ダルガチ)、詰める兵は(トゥメン)を数えるぞ」


 奇人はからからと笑うと、


「ははは、まあ、座れ。これは私の言い方が悪かった。イシの知事(ダルガチ)は知っておろう」


「もちろん。ウラカン氏のツォトンだ」


「それなら話は早い。その長子(クウ)カトメイを覚えているか」


「タムヤ攻略に協力してくれた好漢(エレ)だ」


 (いぶか)しく思いつつも答える。と、言うには、


「今回もカトメイを(たの)む。すなわちイシを落とすとは、カトメイを籠絡することにほかならぬ。それなら相手は万の軍勢ではなく、ただ一人だ」


 (ようや)くミヤーンは腰を下ろすと、


「そうは言うが、カトメイが叛乱に荷担するということは、すなわち親であるツォトンに(そむ)くということではないか」


「タムヤの件ですでに親の(オロ)に反している」


「それは内密(ニウチャ)にしたからではないか。しかもあれは部族(ヤスタン)の利害にあまり(から)まぬ話だった。今回は違う。部族(ヤスタン)の根幹を揺るがす大事だ。おいそれと親を欺くことに同意しようか」


 疑念を連ねれば、チルゲイは嬉しそうに言った。


「おお、君は相変わらず(タルヒ)(めぐ)りが速い。君の言うとおりだ。まさにそれさえ解決すれば大慶、大慶という次第」


 それまでじっと黙っていたスク・ベクが不安そうな面持ちで、


「果たしてカトメイを籠絡することができようか」


 チルゲイは俄かに険しい表情になると言うには、


「できようか、ではない。しなければならぬ」


 三人は粛然たる思いで(うつむ)く。チルゲイはまた陽気な調子に戻ると、


「さあ、そこで君たちに尋ねよう。ここに策がみっつ(ゴルバン)ある。どれか選べ」


 スク・ベクはおおいに驚いて、


「さすがはチルゲイ、もうそこまで考えているのか!」


「たいしたことではない。策などいくらでも言えるぞ。ただ困ったことに、策というものには常に上策、中策、下策がある」


 ミヤーンが眉を(しか)めて、


「相変わらず前置きが長い。ならば上策を採ればよいではないか」


(はや)ってはいかん。よいか、上策は難く(ヘツウ)、下策は易い(アマルハン)。然るに上策は功は大にして身を(まっと)うし、下策は功は寡にして身が(あや)うい。そこで中策を顧みれば行うに便、功あるも(オロ)を失う」


 チャオが苦笑しながら、


「それぞれ難があることは何となくわかったが、内容がさっぱりわからん」


 チルゲイは徐々に身を乗り出す。連れて三人も(マグナイ)を寄せれば言うには、


「ひと言で云えば、心を攻めるを上と為し、謀を用いるを中と為し、乱を招くを下と為すといったところだ」


「前置きはいいと言っているだろう」


「待て、待て。ここからが核心、核心」

(注1)【バーリルを討ったとき】チルゲイたちが東原に遊んだとき、ヒィとともにバーリルを討って野盗(ヂェテ)を配下にしたこと。第三 三回①参照。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ