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草原演義  作者: 秋田大介
巻一
23/783

第 六 回 ③

セイネン兵鋒を用いず巧みに三将を降し

サルカキタン軍旅を興して(すなわ)ち六駒を(はし)らす

 騒ぎに気づいたものが、セイネンを捕らえるべきかと手に手に得物を持って集まりつつあった。


「コヤンサン!」


 セイネンの(ダウン)(ようや)く我に返ると、割れんばかりの大声で、


「手出しはならぬ! この俺が(たの)んだのだ!」


 みなわけがわからず手綱(デロア)を引く。さらに人が集まってきたので、


「聞け! ウルゾルは族長(ノヤン)でありながら我らの(エド)を守ろうともせず、それどころか我ら三将から(アクタ)を奪い取ろうとすらした」


 さらに続けて、


「そもそも昨今草原(ミノウル)が不穏であるにもかかわらず何の手も打とうとせず、人衆(ウルス)を危地に置くこと十年に及ぶ。常々憂えていたところ今回のことがあったため、族長(ノヤン)殺しの汚名を顧みず、氏族(オノル)のためにウルゾルを(しい)したのだ。今後は我々が統治する。異論のある奴は前に出ろ!」


 恐れて(ブルウ)を唱えるものはなかったので、ズラベレン氏は三将に率いられることとなった。三将は今後のことについて話し合ったが、そこでセイネンが言うには、


「もし敵人(ダイスンクン)がこれを聞けば、今を好機(チャク)とばかりに押し寄せてこよう。いかにしてこれを防ぐつもりか」


 良い知恵もなかったので、


「こうなったのもお主のせいだ。良い方策があれば教えてくれ」


 待ってましたとばかりに(ホロー)を立てて言うには、


「単独で立つのが(かた)ければ、連合するよりない」


「しかしつい昨日、(たの)みとする人物はいないと話したばかりではないか」


「ははは、近隣(サーハルト)(たの)むべきものが在るのを知らぬか」


 三将はお互い(ヌル)を見合わせて考えたが、どうしても思い浮かばない。


「もったいぶらずに教えてくれ。お主の言葉(ウゲ)(したが)おう」


「今のコヤンサンの言、相違ないな」


 念を押すと、高らか(ホライタラ)に言い放つ。何と言ったかといえば、


「然らば聞け、フドウ氏のインジャに投ずるがいい。彼はすでにジョンシと連合し、何よりタロト部の助力(トゥサ)がある。これと結べば、いかにベルダイ右派(バラウン)が強かろうと恐れることはない」


 タアバが疑義を呈して、


「しかしフドウは先ごろ復興したばかり。族長(ノヤン)のインジャはまだ二十歳にもならぬとか。(たの)みとするに足るとは思えぬ。タロト部の助力というのもあてにしてよいものやら……」


 そこでセイネンはさらに説いて、


若い(ヂャラウ)というならこの私とてまだ十七、何の不足があろう。君たちはインジャ殿が()()ダルシェを撃退したことを知らんのか。それが並の人物のできることか」


「その話は聞いているが(ウネン)なのか」


「もちろん。ジョンシ氏族長(ノヤン)ナオルの策を用いてダルシェを撃退したのだ。あのメンドゥの妖人ジェチェンですら、インジャ殿には一目置いているとか」


「ジェチェンが? 十七の小僧(ニルカ)に?」


 それまで黙って聞いていたイエテンが(アマン)を開いた。


「セイネン、ひょっとしてお主、インジャと面識があるのではないか」


「ははは、さすがはイエテン。よしよし、事の次第を話そう」


 とて、己がすでにインジャに投じてその盟友(アンダ)となっていること、自ら献策して三将を味方(イル)にせんと謀ったこと、さらにインジャがいかに(すぐ)れた人物であるか、またこれと結ぶことがいかにズラベレン氏に益するかなどを滔々(とうとう)と語った。


 初めは驚いたり怒ったりしていた三将も、やがて(したが)うほかないことを悟って、すべて委ねることにした。セイネンはおおいに喜び、翌朝早速アイルを引き払ってフドウ氏に合流(ベルチル)することにした。


 セイネンに与えた従者(コトチン)の報せでそのことを知ったインジャは、ナオル、ハクヒらを従えて、親しく三将を迎えた。インジャは自らコヤンサンの手綱を()き、三将を叔父(アバガ)として遇することにした。


 タンヤンによって歓待の宴が用意されており、諸将は膝を交えて相語らった。三将はおおいに感じるところがあり、以後インジャと道をともにすることを誓った。


 インジャはセイネンを呼び、その知恵を称賛した。これに答えて言うには、


「しかし義兄、草原(ケエル)でことを成すには、結局のところ(クチ)が必要です」


「解っている。そして得たものを守るには、力だけでは足りぬことも」


「さすがは義兄。余計なことを申しました」


 二人は顔を見合わせると呵々と笑った。


 インジャは諸将と(はか)って、ズラベレン氏を東方五十里の台地に置くことにした。以後、その台地はズレベン台地と呼ばれることになる。

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