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草原演義  作者: 秋田大介
巻四
189/783

第四 八回 ①

インジャ野人を囲んで佞姦の徒を裁き

コヤンサン先鋒を請いて空陣の計に落つ

 さて、インジャはついに草原(ケエル)に討って出ることを決め、吉日を選んで諸将とともに山塞をあとにした。従う将は二十四人、率いる兵は四万数千騎である。その軍容はと云えばすなわち、


  前 軍(アルギンチ) ベルダイ氏 六千騎

   主 将 トシ・チノ

   先 鋒(ウトゥラヂュ) チハル・アネク

   副先鋒 カトラ

       タミチ

   参 謀 サイドゥ

   部 将 ナハンコルジ

   斥 候(カラウル) オガサラ・ジュゾウ


  右 軍(バラウン・ガル) ジョンシ氏 四千騎

   主 将 ナオル

   副 将 シャジ

   参 謀 トオリル


  左 軍(ヂェウン・ガル) ズラベレン氏 三千騎

   主 将 コヤンサン

   副 将 イエテン・セイ

       タアバ


  中 軍(イェケ・ゴル) フドウ氏・キャラハン氏・カミタ氏 六千騎

   主 将 インジャ

   軍 師 イェリ・サノウ

   参 謀 セイネン・アビケル

   部 将 ドクト

       オノチ

       タンヤン

   軍 政 ハツチ

   軍 医 キノフ


  後 軍(ゲヂゲレウル) タロト部 二万五千騎

   主 将 マタージ・ハーン

   副 将 マジカン

       ゴルタ


 以上、二十四人の英傑好漢である。


 斥候に任じられたジュゾウは、軽騎兵五百を率いて先行した。サルカキタンの正確な居処を知るためである。ベルダイ右派(バラウン)はオロンテンゲル(アウラ)から撤退後、以前より(ウリダ)に拠っていた。


 ジュゾウが任務(アルバ)を果たして戻ると、インジャはサノウらと(はか)って、後軍(ゲヂゲレウル)よりマジカンを一万騎(トゥメン)とともに残して、ウルゲンらに備えさせた。その他の三万数千騎はことごとく出立し、アネクを先頭に一路サルカキタンのアイルを目指す。


 そもそも三万数千もの軍勢が誰の(ニドゥ)にも触れることなく移動するのは至難の業である。山塞軍の出兵は、ほどなくサルカキタンに知られることになった。


 アイルは途端に混乱に(おちい)り、女衆(ブスクイ)は急いでゲルを畳み、幼児(チャガ)を抱き、老人(ウブグン)(ガル)を引いて逃げだした。また戦えるものは一人残らず(アクタ)(また)がり、悲壮な決意で出陣する。


 サルカキタンの怒り(アウルラアス)(こと)(はなは)だしく、口汚く呪い(ハラアル)言葉(ウゲ)を吐きながら側近(コトチン)を怒鳴り散らす。


 そうしてベルダイ右派が掻き集めた手勢は、締めて四千騎である。とても(かな)わぬと考えた彼は、進んで険阻(ケルテゲイ)(ガヂャル)(デム)()いた。


 (ようや)く用意が成ったところに、トシ・チノ率いる六千騎が押し寄せた。アネクは(ブルガ)が険阻な地に拠っているのを見て、副先鋒の二将に言った。


「野人も多少は(ソオル)を知っているらしいね。サイドゥに(はか)る必要があるわ」


 応じてタミチがサイドゥを連れてくる。ひと目、敵陣を窺うと言うには、


「とりあえず攻めかかってもらおう」


 アネクは金鼓を打ち鳴らさせると、二条の鉄鞭(テムル・タショウル)を手に、軍勢を率いて突撃した。右派の陣からも一手の軍勢が飛び出す。両軍は正面から激突した。


 左派(ヂェウン)軍の猛攻は凄まじく、まさに「勇将(バアトル)の下に弱卒(アルビン)なし」の言葉どおり、散々に敵を蹴散らした。アネクは鉄鞭を縦横無尽に振るって、当たるを幸い片端から雑兵どもを薙ぎ倒す。そうするうちに敵の部将の一人に出遭った。


「そこのもの、一方の将と見た! 手合わせ願おう!」


「いかにもわしは右派の先鋒、ウシャジン! この小娘(オキン)が!」


 ウシャジンは怒りに(ヌル)紫色(カラムバイ)に染めて、棍棒を振り(かざ)す。アネクはせせら笑うと声高らかに言うには、


「私を知らないのかい。アネクの鉄鞭、味わうがよい!」


 さっと手を返せば、二条の鉄鞭はびゅんと音を立ててウシャジンを襲う。


「あわわ!」


 ウシャジン程度の将がどうして避けることができよう、あっと一声挙げると()()って落馬する。己を知らざれば戦うごとに必ず(あや)うし、ウシャジンは戦場の(シウデル)消える(ブレルテレ)。それを見て右派の軍勢はどっと浮足立ち、先を争って逃げだした。

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