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その日の兄妹の一幕

「なんだあれはぁーー!!」


「あはははははははー!!」


 夏季は本気で怒っているのだが、朱希は夏季を指さして大爆笑。


 今日も今日とて、朱希は夏季の家にベランダから侵入していた。


 夏季は何度も注意しているのだが、聞く気配を見せない。


 現在、朱希はジャージを着ている。


 昨日、夏季に言われたので、空気が入って来る薄い服装は止めたようだ。


「お前、健太君と宮崎さんの前でああいうこと止めろよ」


「はっはっはー。これが止まらないのですなー」


 朱希は昨日腹の中に放り込んだポテチとは別の物を、一階のリビングから引っ張り出して、夏季のベッドの上でパリパリ食べながら答えた。


「・・・なんでだ?」


「面白いからー」


「OK上等だこの野郎!」


「やん。暴力反対!」


 朱希は自分を抱きしめて涙目になる。

 どうやってこの一瞬で涙目になれるのか、夏季は不思議に思う。


「まあまあ、聞きたまえよお兄ちゃん様よ」


「言ってみたまえ妹よ」


 夏季はむんと腕を組んだ。


「あたしらがこんなに仲が良いなんて、学校の皆は思ってもいないだろうね」


「まあ、そうだろうな」


 この関係で仲が良いのか悪いのかは甚だ疑問だが、少なくとも学校での関係を知る友人達はたまげるだろう。

 2人が兄妹だと分かって2度驚く。

 いや、朱希の本性を知れば3度か。


 そう。

 学校での2人の関係は昼休みの一幕に集約されていた。


 つまり、非常に仲が悪いのだ。

 もっとも、一方的に朱希が夏季に突っかかっていくだけなのだが。

 夏季もあれだけからかわれては一言二言言い返したくもなるので、自然、言い合いになる。

 2人の不仲はクラスだけでなく、学年でも有名であった。


 クールビューティーで通っている朱希であるが、誰彼構わずキツく接しているわけではない。

 あれだけ口撃するのは夏季ただ1人なのだ。

 だからこそ、学校の連中は今の2人の関係など想像もできないだろう。


「燃えるね!」


「や、意味わかんねーから」


 朱希は指をチッチッチと振る。


「絶対に知られてはならない秘密を抱えた2人。この秘密は隠し通さなければならない。それがたまらなくわくわくするんだよ!」


「・・・あっそう」


 朱希のテンションについていけない夏季は、気力をごっそりと持っていかれた。


 夏季を構わずに(置いて行って)朱希はまだまだ突っ走る。


「この秘密を守り通せるのか? それを想うだけであたしのハートはメラメラ高まっているわけ」


「なんでわざわざハードルを上げるんだ? お前が俺に突っかかって来る必要なんかないだろうに」


 なんだかんだと妹を溺愛している夏季としては、例え演技であろうとも(そうであってほしいと信じたい)朱希からあれだけキツく当たられると心にクルものがある。


 暗に止めてほしいと告げたのだが、これに朱希は目をキラキラ輝かせる。


「あたし、クーデレ目指してるから!」


(それはもう聞いた)


 夏季はガクンと頭を下に向ける。


「クーデレはツンデレの派生形。好きな人ほどツンツンしちゃうものなのさ。だからそう寂しがらないでお兄ちゃん。これは愛情の裏返しだよ?」


「・・・別に寂しがってなんかない」


「嘘が下手だー。あはは」


「ぐ」


 妹に辛く当たられるのが寂しい。


 なんとも当人の前では言いたくない感情であるが、朱希はそれをあっさりと見抜いてしまう。


 気恥ずかしい思いがして、夏季はそっぽを向いて、顔を赤らめた。


「まあ、そんなわけで、これからもこのスタイルを止めるわけにはいきません。終わり!」


「あ~、そうかい」


 げんなりと夏季は更に項垂れる。


 くきゅりゅりゅる~~。


 その時、お腹が鳴る音がして、朱希は腹をさすった。


「お兄ちゃん。あたしお腹減った」


「ポテチ食ってるだろ」


「これはおやつだよ」


 そう言いながら、朱希はまた一枚ポテチをつまむ。


「思ったんだが、何故お前はそれだけ食べて、その細さを維持できるんだ?」


 薄弱の令嬢。


 そんなあだ名が名付けられるように、朱希は細身で、この年代の女性平均体重よりも軽い(実際に夏季は体重を教えてもらったわけではないがおそらくその認識は正しい筈だ)

 ポテトなんてカロリーの高いものを食べて太らないはずがないのだが、一体どうなっているんだろう?


「体質?」


「それだけか?」


「じゃないかなー」


 それは大変に羨ましい体質だ。

 だが、夏季には一つ気がかりなことがある。


「お前、吐いてないよな?」


 朱希は身体が弱い。


 幼いことは、食べた物をもどしてしまうこともあった。


 夏季はそれが心配なのだ。


 朱希はそれを聞き、目を丸くしてケタケタ笑う。


「ないない。それって子供の頃の話じゃない」


「俺達は十五だ。まだ大人とはいえない」


「揚げ足とりみたいに言わないでよー。とにかくね、小学校の頃のあたしじゃないんだよ」


「・・・」


 それは解っている。

 当時に比べ、朱希は驚くほど健康になった。

 病弱といっても、治る見込みのない不治の病を患っているわけではない。

 だからこれは夏季が心配し過ぎなのだ。


「分かったよ。だけど、お前を心配している俺の気持ちも分かっておいてくれ」


「はいはい。お兄ちゃんの愛情はじゅーっぶんに感じてますよ」


「そっか。それじゃあ何食べたい?」


「あたし唐揚げ食べたい」


「ふっざけんなよお前!!」


 夏季はベッドに寝転ぶ朱希に突撃した。

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