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過保護な兄と奔放な妹

「買ってきたぞー」


 家に戻って来た夏季は、雑誌とラノベが入った袋を朱希に向かってぷらぷらと振った。


 すると、待っていた朱希の目がギラリと光った。


「うお!?」


 電光石火。

 朱希は夏季が持っていた袋を強引にもぎ取ると、先程まで寝っ転がっていたベッドに再びダイブ。

 雑誌を袋から引き抜いた。

 まずは読むのに時間がかかるラノベよりも雑誌から先に攻めるつもりらしい。


「買ってきた俺に対し、一言の礼もなしか」


「ありがとーお兄ちゃん」


 朱希はこちらを見ずに、適当な礼を言った。


 夏季はため息をつく。

 この妹から本当に礼を貰えるとは思っていないし、正面切って言われるとそれはそれで気恥ずかしい。

 これくらいのスタイルがこの二人にはいいかもしれない。


「なあ朱希。それ持って帰っていいからさ。そろそろ戻れよ」


「えー」


 雑誌を読んでいた朱希は、ここで初めて顔を上げ、面倒くさそうに夏季に向かって不満を言った。


「や」


「『や』って、お前・・・」


「言ってるじゃーん。自分の家だとくつろげないんだよ」


「それは解ったが、自分の部屋はちゃんとあるだろう?」


 やれやれと朱希は首を振る。


(こういう態度がイラっとするんだよなぁ)


「家じゃいつ、誰が部屋に入って来るか分からないじゃん。そんな部屋でビクビクしながら本を読んだって全然楽しくないよ」


「それは、そうかもしれないけどさ・・・」


 あれか、男子がエロ本を部屋で読むような感覚か。


 確かにビクビクして読むのは辛いものだな。


 しかし、この妹のせいで、夏季は男子が欲しいその手の本をこの部屋に置くことが出来ない。

 いや、絶対にほしいわけではないのだが。そう、ないのだが。


 だが、学校で男子達がそれとなくそんな雑誌の話をしているとどうしても気になってしまう。

 だってしょうがないのだ。

 男の子だもの。


 その全てを見透かした朱希は。


「お兄様だってあたしの気持ちが解るのではなくて? 男の子特有(・・)の本が読めない辛さが」


「んな!」


 夏季は一歩後ろに下がった。

 いや、下がらされた。


 それを好機と捉えたか、朱希はニマニマと笑う。


「あれあれ~。お兄ちゃんは何を想像したのかな? その特有の本てワードで何を思い描いたのかな?」


「ぐ、こ、こいつ」


 からかわれてしまっている。

 夏季は顔を赤くした。

 男の心を弄ぶとは、許すまじ。


「こ、この、馬鹿言ってないで、さっさと帰れ!」


「む~~。はーいはい。わかりましたー」


 調子に乗ってしまったと自覚した朱希は、しぶしぶ帰宅の意思を示した。


「じゃあ、着替えるから」


「そういえば、そのシャツと短パン、俺のじゃないか。お前の服はどうした?」


「ん。そこー」


 朱希は指さし、視線を伸ばしたその先に、先程まで着ていた服が無造作に脱ぎっぱなしで置かれていた。

 せっかくのいい服が、しわになったらどうするのだと、夏季はげんなりだ。

 朱希は夏季が目の前にいるのも構わずに、服を脱ぎだしたので、夏季は慌てて後ろを向いた。


「んー? 見ててもいいよ?」


「もっと恥じらいを持てよ!」


「持ってるよ。ただお兄ちゃんはその範疇じゃないでしょ」


「まあ、そうだが・・・」


 不思議なもので、どんな美少女であろうと美男子であろうと、家族というだけであまり意識しなくなるのはなんでだろう?


 とはいえだ。

 妹の着替えをずっと見ている趣味はない。

 後ろを向いたままでいると、衣擦れの音がピタリと止まった。


「ゴホ、ゲハ、ガハ!」


「!?」


 夏季の身体がビクリと震えた。


 ふざけた声を出しているが、朱希が咳をしたのだ。

 夏季は思わず振り返ると、そこには上着を脱いで、ブラジャー丸出しの朱希のあられもない姿があった。


 しかし、そんなものは今夏季の眼中にはない。

 朱希に歩み寄ると、ゆっくりと背中をさすった。


「朱希。大丈夫か?」


「大丈夫だよ」


 朱希は意図的に喉を一、二度鳴らし、調子を確かめると、小さく深呼吸した。


「ほら。なんでもない」


「・・・そうか。やっぱり俺の大きめの服を着ていたから、空気が身体を抜けていったのかもな。今度からはパジャマか何かを着てくれ」


「だーいじょうぶだってば。ちょっと咳しただけだよ」


「いや、だけどな」


「ストーップ」


 朱希はズズイと夏季に向かって掌を前に突き出した。


「外でも言ったじゃん。お兄ちゃんは過保護過ぎ。昔と違ってあたしはもう大丈夫だから」


「だが、実際に咳を・・・」


「喘息持ちなら仕方ないでしょ。ほんと平気だから」


「・・・」


 朱希は小学校の頃、本当に病弱だった。

 すぐに熱を出し、月に半分は学校を休む事もしばしばあったので、夏季が家庭教師となり、朱希の勉学面でのフォローをして支えていたのだ。

 幸い、頭のよかった朱希はそれで十分成績を維持できたが、ある理由で、夏季は朱希が小学校高学年になる頃には、家にいなかった。

 だから、夏季にとって、朱希はあの小学校低学年の頃のままなのだ。

 ちょっと咳き込めば、先程のように慌ててしまう。

 それが、朱希にとっては煩わしいと解っていても。


「それよりもー。あたし上はブラ一丁なんですけど?」


「あ、すまん」


 朱希はニヤリと笑いながらも、流石に若干顔が赤い気がする。


「お兄ちゃんのえっちー」


「わ、悪かった。後ろ向いてるよ」


 夏季は再び回れ右をした。


 衣擦れの音はしばらく続き、それが聞こえなくなると「もういいよ」と、朱希が言ったので、夏季は振り返る。


 出かけた時に着ていたワンピースを身に着けた朱希は、そのままベランダに向かう。


「なあ、やっぱりそこから飛ぶのは危ないぞ」


「手を伸ばせば届く距離じゃない」


「だが、万が一ってことも。やっぱり玄関から帰れよ」


「こっちに来てたって分かったらまた何かお小言言われそうだもん。それに靴がないよ」


 行きはベランダから飛んできたのだから、そもそも玄関に朱希の靴はない。

 徒歩ではそもそも帰れないのだ。


「じゃあ、おぶっていこうか?」


「やめろー! 裸足でおぶられて帰るってどんな罰ゲームだ。死ねるわ!」


 これ以上兄の過保護に付き合わされたくないと思った朱希は、さっさとベランダの手すりに掴まり、自宅のベランダへ渡る。


 ほんのちょっと宙に浮いただけなのだが、夏季は心配で思わず何もない宙を掴んだ。


 その様を見ていた朱希は、ニコリと笑った。


「ありがとう、お兄ちゃん。いつも心配してくれて」


 それは、


 外では決して見せない、とても柔らかくて、真っ直ぐな、夏季だけに見せるとびっきり可愛らしい笑顔だった。


「それじゃあ、また学校でね。草村君(・・・)


「・・・ああ、また明日。四季さん(・・・・)

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