青春にはやっぱり
「・・・恋人、だと?」
夏季はゴクリと唾を呑み込んだ。
すぐに気を取り直し、首をブンブン横に振る。
「い、いや。そんなのなくたって青春は」
「2人での登下校。そわそわしながら手を繋ぐ2人」
「!!」
「2人だけでお昼休み。彼女がお弁当を作ってくれれば尚良し」
「・・・」
「そして、デート。別れ際に寂しくなって見つめ合い、そして2人の唇は・・・」
「・・・」
「ふっ、これでも青春に恋人が必要でないと言えるかしら?」
夏季はプルプルと震え出した。
気づいた。
気づかされてしまった。
足りない。
そう、足りないのだ。
そうか、青春には。
「そ、そうか。僕には恋人、彼女が必要・・・」
激しく動揺する夏季に満足し、朱希は優雅に笑う。
「分かったかしら。君に青春は謳歌出来な」
「僕、彼女作るよ!」
「・・・え?」
朱希の表情が固まる。
今度は朱希がプルプル震える番であった。
「ち、ちょっと待ちなさい。貴方に彼女なんて」
「よーしよーし。僕頑張る。気づかせてくれてありがとう四季さん!」
「え、う? ち、ちょっとおに・・・草村君?」
朱希は続けようとしたが上手く言葉になってくれない。
その間に夏季のテンションは上がっていく。
「よーし。僕は彼女を作るぞー!!」
しまった。
話が変な方向に行ってしまった。
後先考えずに夏季をからかおうとして失敗するのは朱希の悪い癖だ。
お忘れかもしれないが、朱希は成績優秀。
しかし、兄が絡み、感情が優先されると途端に思考がわたあめみたいにフワフワになる。
朱希はお得意のポーカフェイスで心を仮面で隠して自分の席に戻った。
「あはは、なんだか面白いことになっちゃったね」
かおりが苦笑いしながらやって来る。
面白いことなど何もないので、朱希は斜め下を向いた。
「ふん。あんな男がどれだけ頑張ろうと、彼女なんか」
「そうかな? 出来るかもよ。草村君人気あるし」
「・・・・・・はい?」
どうも鼓膜にノイズが紛れ込んだらしい。
聞くところによると、昔のテレビにはよくあったらしいが、今は令和である。
「え、なんの冗談かしらかおり? 草村君がモテる? つまらないわね」
かおりはなんでもなさそうに夏季の方を見た。
「ホントだよ。明るいし、困っている人がいれば助けてくれるし。あたしとか、多分他の人も日直手伝ってもらったことあるんじゃない?」
「え、う」
「女子だけじゃなくて、男子でも手伝うってところが逆にポイント高いよね。下心がない感じで。もっとも、女子にはちゃんと気遣ってくれるけど」
「それは、うう」
「かと思えば、高梨君みたいな人にも臆面なくキッパリ言うこと言うし。多分、あの時キュンときた子いるんじゃないかな?」
朱希は固まった。
そして、同時に思う。
(そんなこと、あたしが1番よく知ってるわーーーーーー!!)
兄が魅力的な人柄だということは朱希が誰よりもよく知っている。
意外だったのは他の女子が(朱希の十分の一程度であろうとも)分かっていた点だ。
これは不味い。
非常に不味いですよ?
「そ、そうかしら? そんなに人気なの、草村君は?」
「あはは。朱希ちゃん、草村君が嫌いだもんね。あんまり皆も朱希ちゃんの前で草村君がイイって言えないんじゃないかな?」
(だからあたしにはなんの情報も入ってこなかったわけか。おのれ)
「でも、彼。イケメンというでは・・・」
「うん。まつ毛長くて鼻は高いんだけど、整った顔立ちとは違うかな。確かにファッションに気を使ったイケメン男子とは違うけど、人間、外見だけじゃなくて内面も大事でしょ?」
(ちっ、分かってるじゃねーかよこの野郎)
というかだ。
この女さっきから・・・。
「貴方、随分と彼を誉めるじゃない。もしかして、貴方も草村君を?」
(きっちり答えろやコラァ!)
ボッと、かおりは顔を赤くした。
「え! いやいやあたしなんか。そんなそんな。え、でも・・・。あれ? あれれ? もしかしてあたしって・・・」
(おいこら親友ぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!)
なんということだろう。
自分が余計な一言を言ったせいで、無自覚だったかおりの恋心を気づかせてしまった。
「ま、待って。落ち着いて。ないない。あは、あはは!」
(そんな真っ赤な顔して言われても説得力皆無なんだよぉ!)
朱希は顔を覆った。




