野球
今日の体育の授業は野球だ。
サッカー同様、男子だけではポジションを全て埋めることが出来ず、適当に感覚を空けて位置についている。
既に授業時間の終わりに迫っており、教師から「じゃあこの回までー」と、適当に言われた。
つまり、この回が最終回。
裏の攻撃。
夏季のチームである。
「かっとばせーー!!」
夏季が大声で威勢の良い声を張り上げた。
7割程が微笑ましく笑い、残り3割はウザそうにしている。
ここで大きなヒットが出る。
打者は走り、一気に三塁まで進んだ。
ここで三塁が帰れば夏季達の勝ちである。
「ここで真打ち登場!」
夏季はバットを持って素振りを始めた。
ベンチから大きなため息が溢れる。
「うわー。ここで草村かよ」
「終わったわ」
「まあ、同点で終わりでいいんじゃね?」
「ち、ちょっと、まだ終わってないよ!」
半端、いや、9割は勝負が決まったと決めつけたチームメイトは片付けを始めた。
それも仕方がない。
サッカー同様、夏季は野球も経験がなく、運動神経がいいというわけでもない。
前の打席では三振だった。
期待しろと言うのが無理な話だ。
「よーし、見てろよ。僕が三塁を帰してやるぜ」
まったく期待されていなかったが、夏季は意気揚々とバッターボックスに向かった。
第一球目。
「ストライク!」
第二球目
「ボール」
こんな調子でカウントは進む。
現在ツーストライク、ツーボール。
「おーい草村。突っ立ってねーでバット振れよ」
「そうだ。振らないと始まらねーぞ」
何人かの生徒はそう言って夏季を囃し立てる。
「あいつ、配球読んでね?」
「「「え?」」」
野球部の生徒がポツリと呟いた。
前の打順では夏季はバットを振り回していた。
しかし、今回はまったく振る素振りを見せない。
土壇場で緊張しているのだろうと思うが、狙い球を待っている気がした。
そして、第五球。
「うおおおおお!!」
大きく空振り。
三振であった。
「「「はーーー」」」
ベンチから大きくため息が溢れる。
「誰が読んでるって?」
「そんなわけないだろ。草村だぞ」
「さっ、片そうぜ」
生徒達が片付け始める中、未だ悔しそうに地団駄を踏んでいる夏季を野球部の男子は見続けていた。
(最後のボール。ボール球だったよな)
だが、あれは意図的にボールを置きにいったわけではない。
明らかにコントロールミスだ。
そもそも体育の授業での寄せ集めチーム。
投手にしても、野球部員というわけではない。
コントロールミスも当然あるだろう。
だから、もし、最後のボールがミスなく投げられていたなら、それは夏季が狙っていた球ではないのか。
そういえば、以前のサッカーの授業。
夏季はやけにボールが転がってくる位置にいた。
もしやあれは、フィールド内を完全に把握し、溢れてくるボールの位置を読んで動いていたのではないか?
無論、サッカー部の中に混じって同じことが出来るとは思わないが、帰宅部、文化系の生徒が混じっている体育の授業であればあるいは・・・。
「はっ、馬鹿馬鹿しい」
それが出来れば夏季は極めて優れたブレインとなるだろうが、夏季の成績はお世辞にも良いとは言えない。
中間で赤点回避できるかどうかと以前話していたほどだ。
そんな頭脳プレイが出来る筈がない。
野球部員生徒は首を振って片付けを始めた。
*********
「いやー、汗を流すのは気持ちがいいねー」
「夏季が最後打ってくれたら気分よかったのにね」
健太はそう苦笑した。
「次は打つよ。なんか、打てる気がする!」
「はいはい」
ジャージから制服へ着替え終わった夏季達は、楽しそうに教室に戻ってきた。
女子は既に着替え終わって教室に戻っている。
夏季の気分は上々で、また朱希に話しかけそうになったが、同じ愚は犯さず、横目で見つつスルーする。
皆で協力し合って何かに取り組むのは良いものだ。
もっとも、和泉あたりは嫌で堪らないだろうが。
いつか、彼が楽しめるようになればいいと思う。
「ふふー、青春してるなー」
気分良さげにそう言うと、それに反応する者がいた。
やはりというか朱希である。
「青春? ふふ、面白いことを言うのね。草村君」
(またこいつはー。頻度ってもんを考えろよ。一々反応して突っかかってきてんじゃねーよ!)
朱希は涼しげに笑っているが、夏季には悪魔の尻尾がチョロチョロ生えている様に見えた。
また面倒なことになる。
それを察した生徒達がさーっと引いて行った。
「貴方、ちょくちょく青春を口にするけれど、貴方には青春において、無くてはならないものが足りないわ!」
「・・・なん、だと?」
夏季は愕然とした。
学生生活を青春に注ぎ込む。
そう思っていたのに,足りないものがある?
これは由々しき事態だ。
青春の為にはなんとしても手に入れたい。
「あ・・・四季さん。それは何? 僕には何が足りないの?」
「決まっているわ。恋人よ!!」




