サウナ4
「ロウ・・・なんだそれ?」
夏季が説明しようとすると、会話を聞いていたのか、従業員さんが夏季達2人に、他にも入っているお客にも聞こえるように説明を始めた。
「ロウリュウはこの熱した石にアロマ水をかけて、暑い蒸気を味わってもらうアトラクションです。水だけの店もありますが、うちではアロマ水を使っています。今日はライムです」
「へー」
和泉は納得する。
なるほど、夏季はこのロウリュウのタイミングを計っていたのか。
ロウリュウをやってくれる店は、何処にでもあるわけではない。
珍しいのだろう。
「皆さん。手を上に上げてください」
なんだなんだと、和泉は言われるがままに手を上に上げる。
「はい。その温度を覚えておいてください。それではロウリュウを開始します」
従業員さんはアロマ水を熱した石にかけ始めた。
ジュ~~という音がサウナを満たす。
濛々とアロマ水の蒸気が立ち込めて来た。
すると従業員さんはタオルをブンブンと振り回し始める。
何事かと思った和泉であったが、すぐに理解した。
舞い上がった蒸気を室内に満遍なく広げているのだ。
「はーい。では皆さん。もう一度手を上に上げてください」
和泉は手を上げて驚いた。
感じる暑さがまるで違うのだ。
「あっつ!」
隣の夏季はニコリと笑い、従業員さんは頷く。
「では、これから熱波を送っていきます!」
「熱波? うおおおおおおお!!」
なんと従業員さんはタオルを思い切り客に向かって振り回し、暑い蒸気を送ってきた。
「うおっぷ。な、なんだこれ!」
「あの人は熱波師と言うんだ。こうして暑い蒸気を送ってくれるのさ」
「うおっ! あつっ! 暑いなおい!」
「考えるな。感じろ!」
「昔のカンフー映画か!」
体感だが、今このサウナは100度を超えているかもしれない。
バスンバスンとタオルを上下へ振り回した従業員さんは汗をべったりと服に張り付け、一礼するとサウナを出て行った。
他の客は暑さに参ってしまい、すぐにサウナから退散。
和泉もそれに倣おうとする。
「な、夏季出よう」
「待って、もう少しこのアロマを感じていたい。ほら、いい匂いがするだろう?」
「ええっ!」
「あと1分」
「う、うう」
「先に出ていいよ」
「い、いや。我慢するよ」
「そう? 無理しないでね」
「こ、これくらいなんでもない」
和泉は人生で最も長い1分を味わった。
今までで一番のぼせた和泉は、水風呂を心ゆくまで堪能した。
最初は寒くて震えていた和泉だが、これだけ体を熱せられれば、気持ちがいいというものだ。
しっかりと体を冷やした後は外気浴。
これも一番爽快だった。
「夏季がサウナを進める理由、解った気がするよ」
「そうか。じゃあ、あれがクルかな」
「あれ?」
「目を閉じて、リラックスして」
「? 分かった」
和泉は言われるがままに目を閉じて体の力を抜く。
するとどうだろう。
どう表現すればいいのか分からないが、ふにゃふにゃ~とした不可思議な感覚が和泉を襲った。
(な、なんだこれ? あ、なんか知らんが、すげー気持ちいい)
「どうやらキタみたいだね」
「な、夏季。この得も言われぬ感覚は・・・?」
「これが俗にいう〝整う〟だよ」
「え? 何が整うんだ?」
「さあ、よく知らないけど、この不思議な感覚をそう言うんだ。気持ちいいでしょ?」
「あ、ああ。なんだろうふにゃ~ってなる」
「ふっふっふ。そうでしょうそうでしょう」
夏季はノリノリだ。
この感覚を知ってほしいが為に、連れてきたと言っても過言ではない。
「・・・あの、さ。夏季」
「ん?」
和泉は言いにくそうに口をもごもごさせた。
「あ、ありがとな。誘ってくれて」
「いや、いいんだよ。というか、僕が誘いたかっただけだし」
「いや、さ。俺なんかと友達になってくれて、その、ありがとう」
いつか言わなければならないと思っていたのだ。
タイミングが難しくて言えなかった和泉は、勇気を振り絞って言った。
「自分を『なんか』なんて卑下するのはよくないと思うけど」
「あ、いや。ごめん」
和泉は居心地が悪そうに頭をかく。
「僕も和泉君と友達になれて良かったよ。たくさん友達を作りたいと思っていたし、和泉君と話してると、知らないゲームとかラノベの話も出来るし」
「俺・・・感謝してるんだ。ずっと休み時間とか下向いてて、スマホいじってて、周りは楽しそうにしてて、自分が酷く惨めに思えて、高梨みたいな奴にはいじられるし。だから、あの時夏季が俺を認めてくれて。キャラクターじゃなくて、俺を見てくれていて。凄く嬉しかった」
「いや、まぁ。はっはっは」
これだけストレートに感謝の意を述べられると、夏季の方が照れてしまう。
和泉に倣って頭をかく。
「そ、それで、あれだな。サウナって思ってたよりずっと良い場所だな。今度は健太も連れてこようぜ」
「勿論さ! しっかり布教するよ!」
夏季は親指を立てて、歯をキラッとさせるのだった。




