表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/46

クラスメイトのトラブル

 夏季は学食で弁当を食べた後、教室に戻りつつ、健太と他愛もない話をしていた。


「それでさ。夏季はそろそろ前にうちの店で買ったラノベ読んだの?」


「えっ。あー、ほら、あのシリーズって本厚いじゃない。中々ね」


「んー、確かにあれは厚いよな。毎回厚いのに、定期的に出版出来てるもんな。あの執筆速度には舌を巻くよ」


「そうだね」


 夏季は朗らかに笑いつつ苦しんでいた。


(不味いな。全然読んでないぞ)


 そういえば感想会をしようという約束だった。

 しかし、あのシリーズは読んでいないし、既に何冊も出版されている。

 今から全巻読むには時間がかかり過ぎる。


「もうちょっと待ってね」


「そうか。まあ、気長に待つけど、次の巻が出るまでには話したいね」


「はは、そうだね」


 タラりと夏季は汗を垂らす。


(こうなったら、朱希に感想を聞こう)


 朱希にあらすじを教えてもらい、ついでに感想を聞いて、それをそのまま自分の感想として健太に話そう。

 その上で、今からでもあのシリーズに手を付けるしかない。

 

 いや、アニメは見ているのだ。

 ならば、最初から読む必要はないだろう。

 案外早く読み終わるかもしれない。

 夏季は知らず、拳を握り締めた。


 そんな話をしてクラスに戻ると、空気が張りつめているのを感じた。

 一体何がと思ったら、ある生徒をある生徒に絡んでいた。


 1人は、倉本和泉(いずみ)


 特に目立ったことのない生徒だ。


 そして、もう一人が、


「倉本。ちょっと机にぶつかっただけだろうが。なんで痛がるんだ、あ?」


 高梨勝也。


 暴力的な面があり、よく授業もサボる。

 この間も日直をサボっていた。


 所謂不良だ。

 この朝景学校は進学校なのだが、こういう生徒は何処にでも1人は居るものだ。


「いや、痛がるって言うか、机が足に当たったんで、思わず声に出ちゃったと言う、か」


「それを痛がってるって言ってんだよ。俺が虐めていたみたいだろうが」


「いや、そんなつもりは・・・」


 夏季は息を吐いた。


 このクラスではあまり見かけない光景だ。

 高梨は不良ではあるが、誰にでも噛みつくタイプではない。今日は気が立っているのだろうか?


 倉本は気が弱く、1人でいることも多い、ボッチの陰キャと言ってよい。

 今も誰も倉本を助けるでもなく、そっと見守るだけのようだ。


「とにかくだよ。俺が、誰にでも暴力振るう奴だと思われるのは嫌なわけだ。弱い者虐めとかやる人間には思われたくねーんだよ」


「それはもう、虐めの範疇じゃないのかな?」


 張りつめた空気を笑うように、誰かが声を上げた。


 夏季である。


「んだよ、草村。俺達は今大事な話をしてるんだよ」


 健太が隣で、息を呑んでいるのを感じつつ、夏季は笑顔で2人に歩み寄る。


「割って入ってごめんね。でも、君みたいに強い人間に迫られたら萎縮しちゃうよ。机の脚を倉橋君にぶつけたみたいだけど、思わず声が出ちゃっただけじゃない? そうムキにならなくてもさ」


 高梨は露骨に舌打ちした。


「お前が言うなってんだよ。それを言うなら倉本が言うべきだろ」


 そう言って高梨はあざ笑うかのように倉本を見る。


「まあ無理か。この陰キャにそんなことを言うのは」


「・・・っつ」


 倉本は下を向いて動かない。

 夏季は眉を寄せた。


 なんとか穏便に済ませたいが、上手い方法が思いつかない。

 こうしてクラスから注目されること自体、倉本にとっては苦痛の筈だ。


 このまま高梨だけ廊下に連れ出してしまうか?

 だが、どうやって?

 連れ出したとして上手く宥められるか?

 最悪、殴られることを念頭に置いて行動すべき。


「とはいえだ。俺は倉本に聞いてんだよ。俺らの会話にてめーが加わって来るんじゃ」


「会話? 高梨君。あなたのそれを会話と言うのかしら?」


 静かな。

 そして凛とした声がクラスに響いた。


 誰あろう、朱希が口を開いたのだ。


 一瞬の静謐とした空気が場を支配する。


 朱希はゆったりと夏季をすり抜け、2人の前に立つ。


「・・・なんだよ。四季」


 高梨は面倒そうに朱希に問いかける。


「私にはあなたが倉本君を一方的に絡んでいるようにしか見えないのだけれど。それを会話と言うのなら、あなた、国語をもっと勉強した方がいいわよ」


 クラス中が息を呑んだ。

 今のは明らかに挑発。

 この後、高梨がどう動くか、分かったものではない。


 夏季などはもう心臓がバクバクだ。


「あ? 聞こえねーぞ」


「あら、耳まで悪いの? 悪いけど同じセリフを二度言うつもりはないの。自分で思い返しなさい」


「てめえ・・・」


 高梨の怒気が強まっているのを感じる。

 かおりは口に手を当てて真っ青だ。

 倉本としても、どうなってしまうんだろうと、横でオロオロするばかり。


「強気に出る相手には何も出来ず、弱い者を甚振って粋がる軟弱者。そんな人間にせっかくの昼休みを台無しにされたくはないの。大人しくするか、出て行ってもらえないかしら? 勿論、1人でね」


 暗に倉本を連れて行くなよと釘を刺す朱希。

 言いたい放題言われて、高梨の顔が真っ赤になった。


「てめっ」


 高梨の拳が振り上がる。


 咄嗟に夏季は駆け出そうとするが、


「あら。殴るの? まあ、あなたはフェミニストには見えないわね。最後は女であろうと暴力に訴える。それがあなた」


「ぐっ」


 思わず高梨は周りを見た。

 その視線を感じ、高梨は更に顔を赤める。


「殴りたいのなら、殴りなさい」


 一歩も引かない朱希を前に、固まる高梨はゆっくりと口を歪め「くそが!!」と怒鳴りながら教室を出て行った。


 クラス中が脱力を起こし、息を吐いた。

 とんでもない一幕だ。


 かおりなど腰を抜かし、机にしがみ付いている。

 ぶっちゃけると夏季もそうしたい。


「あ、あの、四季さん。あ、ありがと、う」


 おどおどしながら訥々(とつとつ)と、朱希にお礼を言う倉本であったが、そんな倉本を朱希は目を細めながら見る。


「別に。あなたを助けようとしたわけじゃないわ。ただこの空気が嫌だっただけ」


「う、うん。そっか。そうだ、よね。ご、ごめんね」


 朱希は細い目を更に細め、眉間に皺が寄る。


「なんで謝るの? あなたももっとハキハキと喋れないかしら? そんなことだから」


「いやー、凄いね四季さん。かっこよかったよ」


 今度は朱希に絡まれそうになっているので、夏季は小さく拍手をしながら、快活に声を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ