ゲーセン
電子音とコインが奏でるBGMの中、夏季達は何から手をつけて良いか悩んでいた。
なんといっても数が多い。
夏季としても、これだけ大きなゲーセンは初めてである。
「えーと。あたしあれやってみたい!」
かおりが指さしたのはUFOキャッチャーだった。
その景品は可愛らしいぬいぐるみだ。
かおりはもう既に、財布から硬貨を抜き取り闘志満々。
3人はそれを見守る。
硬貨を投入。
かおりは見事お目当てのぬいぐるみをキャッチ。
しかし、バネが弱いのか、すぐにすり抜けてしまった。
「ああー!」
悲しそうに声を張り上げ、即座に第二の硬貨を投入しようとしている。
しかし、見る限りこのクレーンは相当ガバガバだ。
上手く取れるか難しいところだろう。
「待ってかおり」
そう夏季が思っていると、朱希がかおりの手を優しく包んだ。
「待って朱希ちゃん。今度こそ取れる気がするの!」
(その今度こそが錯覚じゃなければいいけど)
その予感を頼りに今までどれ程のギャンブラー達が散っていったことか。
かおりもそうならないように祈るばかりだ。
「かおり。ここは私にやらせてもらえないかしら?」
「朱希ちゃんが?」
意外な申し出に、かおりは目を丸くした。
「やってみる? これ結構難しいよ?」
「ええ。要領はかおりを見て学んだわ。上手くいくか分からないけれど、ここは任せてもらえるかしら?」
「うん。分かった!」
かおりはそう言うと、朱希に場所を譲った。
硬貨投入。
UFOキャッチャーから可愛らしい電子音が鳴り出した。
朱希は真剣そのものの瞳で、かおりが取り損ねたぬいぐるみを凝視する。
クレーンがゆっくりと移動する。
そして、ぬいぐるみの頭上に来ると、
「今!」
タン! と朱希はパネルを叩く。
クレーンはゆっくりと降りていき、ぬいぐるみを掴んだ。
「よーし。今度こそ今度こそ」
かおりは祈るように見つめる。
バネは相変わらず力がない。
すぐに落ちてしまいそうだったが、うまい具合にぬいぐるみの脇に引っかかった。
プラプラと危なっかしいが確かに掴んでいる。
「わっ、わっ!」
かおりは興奮してUFOキャッチャーにへばりつく。
そして、ストンと、ぬいぐるみは穴に落ち、UFOキャッチャーの外に転がって来た。
「や、やった! 朱希ちゃんやったよ!」
「なんとか上手くいったみたいね」
朱希はふぅと、息を吐く。
なんというか『俺、やり遂げたぜ』感が凄い。
「凄いね朱希ちゃん。上手いんだね!?」
「たまたまよ。かおりが見せてくれたから真似ただけ」
朱希がそう言って涼しげに受け答えしている横で、夏季は苦笑いをしていた。
あれ程の腕前になるまでに、何枚の硬貨が呑まれていったことだろうか。
実は使い過ぎでお小遣いを夏季にねだって来たこともある。
「はい、かおり」
「え?」
朱希はかおりに取ったぬいぐるみを渡した。
かおりは目を丸くする。
「これはかおりの物よ」
「ええ、いいよいいよ! これは朱希ちゃんが取った物じゃない」
「気にしないで。欲しかったんでしょ?」
「そ、そうだけど」
朱希はにっこりとほほ笑んだ。
夏季は感心して頷いた。
てっきり自分の物にすると思ったが、ちゃんと朱希にも友達想いな優しさがあると分かって夏季は嬉しくなった。
「だから、はい」
「えっと、でも・・・」
「ふふ、遠慮しないで。私は」
チャリーン。
朱希は硬貨を取り出した。
「また新しく取るから」
朱希の猛攻が始まった。
*********
「朱希ちゃんてほんと凄いよね。初めてやったゲームでまさか3連続で取っちゃうなんて」
「ふふ、偶然よ」
朱希はあの後、かおりが言った通り、2体のぬいぐるみを手に入れた。
更に取ろうとしたので、夏季がそれとなく「四季さん。もうやめとこう? そんなにいっぱい何処に置くのかな~、あはは」これが効いた。
実は夏季の部屋にいくつか朱希はぬいぐるみを置いている。
ぬいぐるみは女子らしくていいという理由で、朱希の自宅にも置いているにはいるが、限度というものがあるだろう。置ききれないのだ。
思わずぬいぐるみに目が行ってしまうのは解るが。
次に4人は格ゲーが出来る筐体機へと向かった。
健太が硬貨を投入する。
「俺これやったことあるんだ」
そう言うとCPU相手に、健太は連勝している。
確かに、やり込んでいることが伺えた。
そわそわ。
そわそわそわ。
(めっちゃやりたそう・・・)
朱希は実に分かりやすくそわそわしていた。
健太は無論のこと、かおりもゲーム画面に釘付けなので、朱希の様子には気づいていない。
朱希がチラっと夏季を見た。
なんとかしろということだろう。
「はぁ」
ため息一つ。
夏季は朱希に話を振る。
「四季さん。やってみたら?」
「私に?」
朱希は訝し気に夏季を見た。
これにはかおりも2人を見て、健太も耳だけは意識を向ける。
「私にこれをやれというの?」
「そうそう。さっきはUFOキャッチャーで見事に吊り上げたじゃないか。もしかしたらゲームが得意なんじゃないの?」
(さあ、乗ってこい!)
夏季は目線で朱希に合図を送るが、
「ふん。さっきはかおりの為にやったことよ。格闘ゲーム、というのかしら? あまり趣味ではないわね」
(おいこら妹ーーーー!!)
夏季は頭を抱えた。
なんでここで意味なく見栄を張るのか意味が分からない。
朱希はそっけない態度を取っているが、夏季には分かる。
『もう一押し。もう一押し頂戴!』
(なんて面倒な妹だ!)
もうこんな奴は放っておいて、自分が楽しんでしまおうか。
そう思ったのだが、なんだかんだで夏季は朱希にとことん甘かった。
「ふっ、さては負けるのが怖いな?」
「・・・なんですって?」
これは最初に打合せしていた煽り作戦だ。
これなら負けず嫌いの朱希もやれるだろう。
「そんな安い挑発に私が乗るとでも?」
流石にイラっとした。
もういいんじゃねと思ってしまう。
「ああ、じゃあ俺とやろうか?」
健太が声をかけてきた。
「乱入しておいでよ四季さん。相手をしてあげる」
朱希の目がすぅっと細まった。
「へぇ。随分と上から目線ね橘君。いいわ、その挑発乗ってあげましょう」
2人の対戦が今、始まる。
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