GWの予定を決めよう
「夏季。ゴールデンウィークはどうする?」
健太がそんなことを聞いてきた。
もうゴールデンウィークは間近に迫っている。
だが、夏季はまだ予定を決めていなかった。
高校生活は3年間。
つまり、ゴールデンウィークは3回しかない。
ならば有意義に過ごしたいものだ。
さて、どうするか。
夏季は思案する。
ちらりと夏季は朱希を見た。
こちらの話が聞こえていないのか、あえて無視しているのか、朱希はこちらを見ようとしない。
何を考えているのか分からなかった。
代わりに、朱希と一緒に雑談しているかおりがこちらに気がついた。
「あ、何なに? ゴールデンウィーク何処に行くか話し合ってるの?」
(いい食いつきだ宮崎さん。これで朱希がこっちを見ても不自然じゃない)
かおりに釣られて、朱希もこちらにやって来た。
相変わらず、学校では夏季を冷めた目で見ている。
「そうなんだよ。夏季と何処か行くのかって話をしてたんだ」
健太がかおりに話題を振った。
かおりは笑顔で話に加わる。
「あたし、お母さんの実家に帰る予定なんだけど」
「へえ。実家どこ?」
「静岡」
「割と近いね」
夏季は顎に手を当てた。
実家。
複雑な家庭である夏季は気持ちが少し沈んだ。
だがしかし。
遠出の旅行というのは悪くない。
「旅行とかいいね!」
「夏季。どっか行きたいの?」
「うーん。特に何処というのはないけど」
せっかくの長期休みだ。
普通の連休では出来ないことをやってみたい。
ここで今まで黙っていた朱希が口を開く。
「止めておきなさい」
夏季は朱希に視線を移した。
「なんで、四季さん?」
聞き返すと、あからさまに馬鹿にした顔をした。イラ。
「わからないかしら? もう新幹線も飛行機も予約でいっぱいよ。今更予約してどうにかなると思っているの?」
「うーん。確かにそうか」
相変わらず憎らしい口をきくが、確かに朱希の言う通りである。
しかし、夏季は諦めなかった。
「まだ席はあるかも知れないよ」
「草村君。旅行行くの? もしかして海外?」
かおりに尋ねられ、夏季はふと、口元に手を当てた。
海外。
夏季は海外で生活していた期間がある。
久々に行ってみるのもいいかもしれない。
もっとも、予約が取れればだが。
「海外に行くの、草村君・・・」
夏季は考えを中断して朱希を見た。
それは夏季にしか分からない微妙な変化であったが、朱希は寂しそうにしていた。
朱希は海外旅行の経験がない。
今からではパスポートの申請は間に合わないだろう。
夏季はフッと笑う。
「いや、海外はいいかな。日本にいるよ」
そう言うと、朱希はほんのりと笑った。
「そうしなさい。日本の恥を世界に晒したくはないし」
(こんにゃろめ)
夏季は顔を引きつらせた。
こっちが気を使ったというのになんという言い草だろう。
「そういう四季さんは何処かに行く予定はあるの?」
健太が尋ねると、朱希はふるふると首を横に振った。
「あまり出かけたくはないわね。何処もかしこも人だらけ。疲れてしまうわ」
「そうだね。朱希ちゃんはあまり出ない方がいいよ」
朱希の身体が弱いというのをかおりは知っている。
人酔いにあうのではないかと、かおりは危惧したのだ。
が、これに朱希は敏感に反応した。
「それはどういう意味かしら、かおり?」
不機嫌を前面に出して朱希はかおりを睨んだ。
「別に私は人が多くても平気よ。ただ動きにくいし煩わしいというだけで、なんともないわ」
「あ、ははは。そ、そうだよねー」
かおりは笑って誤魔化す。
朱希は自分が病弱であると、周りに認識されているのが気に食わない。
夏季には鬱陶しいほど過保護に扱われるし、腫れ物扱いされたくない。
そもそも、病弱。
つまり『弱い』と思われたくないのだ。
だから心配してくれているといえど、気分が良くない。
かおりは睨まれてタジタジだ。
ここは助け舟を出そう。
「まあまあ四季さん。そんなに責めたら宮崎さんが可哀想だよ」
「おに・・・お、お、鬼のような人ね貴方は!」
「ええ!?」
感情が荒ぶって思わず『お兄ちゃん』と言いそうになったのだろう。
それにしても雑な誤魔化し方だ。
「・・・貴方にそんなふうに言われたくないわ草村君」
「うん。でも宮崎さんも悪気があったわけじゃないしさ。ね?」
「・・・いいわ。かおり、言いすぎた。ごめんなさい」
「いいよいいよ。こっちこそごめんね」
2人が謝りあって、これにて一件落着かな。
と思ったら健太が意外な爆弾を落とす。
「でも意外だね。四季さんが、夏季の言うことを素直に聞くなんて」
「「!!」」
(やばい。どうやって誤魔化そう)
咄嗟のことで夏季はテンパった。
基本。朱希は夏季の言うとこなら素直に聞く。
それが裏目に出た。
朱希をちらりと見ると、ここは任せろとばかりにドヤ顔を作る。
「橘君。貴方は誤解しているわ」
「誤解?」
健太は首を傾げた。
「草村君の言うことを聞いたわけじゃない。私が自分の意思でかおりを責めすぎたと感じたの。誰が草村君の言うことなんて聞くものですか!」
流石に言い過ぎではなかろうか?
夏季はムスっとした。
「ふん。自分の非を認めるのは殊勝なことだね。このまま僕への態度も改めてほしいな」
「それはあり得ないわ」
(そんなつれないこと言うなよ妹ー!)
割と冷たく言われる度に夏季はダメージを負っていた。
「話を戻そうか。夏季、それじゃあゴールデンウィークは家にいる?」
「せっかくなら何処かに行きたいなー」
旅行は無理でも家に閉じこもっていたくはない。
せっかくのゴールデンウィークなのだ。
「じゃあさ。この間出来た大型複合スポーツアクション施設に行かない?」
「ああ、あそこか。興味はあったんだ」
確か、ボーリングやビリヤードにダーツ。
ボルダリングにバッティングセンター、卓球も出来たはずだ。
あそこなら十分に楽しめるだろう。
「いいね。行こうか」
「よし、決まりだ!」
話はまとまった。
楽しみだ。
そこに、かおりものってきた。
「いいなー、あたしも行きたい」
「宮崎さんは実家に帰るんでしょ?」
夏季が聞き返すと、かおりは何やら考え込んでいる。
「ねっ、それ行くのゴールデンウィークの後半にしてよ。そしたらあたしも行けるから」
なるほど、後半には帰って来るわけか。
「僕は構わないよ。旅行ってわけじゃないし。予約も必要ないしね。健太君は?」
「いいさ。3人で行こう」
「やったね♪」
かおりが喜んでいると、その横からゴゴゴゴゴと、凄まじいプレッシャーを感じた。
「あたしも行きたいあたしも行きたいあたしも行きたい」
もし、声に出したなら、朱希はそう言っているだろう。
だが、夏季がいるために上手く言えないのだ。
「・・・いいわ。私も行く」
「えっ!? 朱希ちゃんも?」
ギロリと朱希がかおりを睨む。
「何かおり。私が行っては行けない? 私は仲間外れかしら?」
「いや、そうじゃなくって。その、草村も来るよ?」
言いにくそうにかおりは小さく言った。
夏季と朱希は犬猿の仲。
それは学年中では周知の事実だ。
だから本当にいいのかと、確認したのだが。
「勘違いしないで。わたしは貴方と行きたいのかおり。私達親友でしょ?」
朱希とかおりは中学からの付き合いだという。
そろそろ長い関係だ。
友情も深まっているだろう。
ちゃんといい友達が出来て夏季は嬉しかった。
思わず『これからも朱希と仲良くしてあげてね』と言いそうになってしまう。
「じゃあ、4人で行くってことでいいね。それじゃあ計画を詰めようか」
夏季がそう言うと「貴方が仕切らないでくれるかしら草村君」と、朱希がツッコんだ。
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