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あたし  作者: 秋野さくら
3/3

不機嫌な声

(3)


あたたかい。

久しく忘れていた温もりと、それに伴い感じる浮遊感。

ああ…あたし死んだんだ。

あたしはあっさりと受け入れた。


27…20代で死んだのか。

人生100年時代なんて言われる昨今、こうも早く死んじゃうなんて。

あーあ、もったいないことした。

自分でも驚きの早さで受け入れはしたものの、後悔がないかと言われれば話は別である。

沸き上がる後悔の念は、やはり多い。

しかしその反面、あのまま生きてたってどうせ碌なもんじゃなかった、とも思った。

早い段階でリセット出来てよかったと思えば、少しは救われる。

そう結論付けたあたしは、不意に聞こえた声に心底驚いた。


(次は、なにがしたい?)


え…?

まさか誰か居たなんて。

驚いたあたしは、ひとまず声の主を探して辺りを見渡した。

そして気付いてしまった。

“あたし…身体がない!”

いわゆる魂という状態なのか、自分を視覚的に捉えることは出来ないが、薄らとそこだけ空間が歪んで見えた。

“なるほど…へぇー”

もの珍しく、しげしげと眺めているとまた声が聞こえた。


(ここはね、あるようでない場所。あなたもいるようでいないんだ)


哲学か。

残念ながら、勉強と名のつくものにアレルギーを発症して幾年。

今のあたしには耳こそ無いが、心の扉は既に閉まりかけだ。

もっとも、生前のあたしなら軽く病院搬送される単語だ。

ケッと悪態をつくあたしを見透かしたのか、声の主はケラケラと笑いだした。


(むずかしいよね)


その口調があまりにも幼くて、あたしは動揺した。

子供…なのか?


(ちがうよ。そもそもニンゲンとおなじ概念じゃないんだ)


ますます訳が分からない…そもそも概念ってなんだ!

あたしはとうとう頭を抱えた。

いや、ないんだけどね、頭。

そこで試しに、あなたは誰?と聞いてみることにした。


(あなたの想像が及ばないナニカだよ)


なんだコイツ。

言葉のキャッチボールが出来ないタイプか。


(それで?次はなにがしたいの?)


あたしの白けた視線に気づいているのか否か、声はしれっと最初の質問に戻った。

そして…気のせいだろうか、薄ら態度が悪くなった。


(まだ決まらない?)


もはや隠しようのない苛立ちが立ち込め、あたしは只々戸惑った。

声は何をそんなに焦っているのだろうか。


(まだ?…あ、もうほら!早く答えないから来ちゃったじゃないか)


え…?

どうやら、あたしには見えない何かが来たらしい。

声はあからさまな溜め息をついた。


(さすがにもう決まったでしょう?ほら早く、どうしたいの?)


もう、なんでもいいから早く答えなくては。

あたしは、半ばやけくそ気味に答えた。


(はーい!それじゃあ、いってらっしゃーい)


先程までの不機嫌から一転、声は満足そうに言い放った。

その瞬間、ガコンと何か重機が動いた音が聞こえた。

“え、”

気が付くと、目の前に空気の渦が見…え…


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