そういう場所
(1)
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ネオン瞬く細い路地。
所狭しと立ち並ぶは、けばけばしい看板、看板、看板。
客引きは競うように声を枯らし、女たちは精一杯の媚びをうる。
ここは、そういう場所だ。
「お兄さん、ねぇ寄ってかない?」
あたしは、見るからに女慣れしてなさそうな、そんな若造に声をかけた。
ここはメインの通りから1本奥まった路地。
行き交う人もまばらな廃れた通り。
それなのに、煌々と明りを灯す店の数々。
「ねぇ…いいでしょ?」
あたしは、すっかり冷え切った身体で男にすり寄った。
自然と身に付いた上目遣いと、鼻にかかる声。
今や息を吸うように嘘をつき、今日の食い扶持を稼ぐ。
あたし達は本気なんだ。
男はぱっと顔を赤らめ、無言であたしを見下ろす。
どの男だって同じ。
冷やかしだろうが、大真面目だろうが。
彼らは決まって同じ顔をする。…品定めの顔だ。
この瞬間だけは、いつになっても慣れない。
あたしは内心の冷汗を笑顔で覆い隠し、男の瞳に映る自分を見つめた。
こくりと男の顔が縦に振られ、あたしは笑みを深めた。
ここまで来たら後は同じ。
近くで待機しているボーイに目配せし、男が案内されていくのを見送るだけ。
「先に入っていて。」
お決まりの台詞を耳元で囁き、絡めていた腕をするりと解いた。
男は更に赤みを増し、舐めるようにあたしを見てくる。
あたしの仕事はここまで。
後は、店内にいる鬼たちに骨の髄まで貪られ、泣きながら帰っていくのがあの男の未来だ。
「バイバイ坊や。」
届かないと分かっていながら、呟かずにはいられなかった。