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あたし  作者: 秋野さくら
1/3

そういう場所

(1)


(1)

ネオン瞬く細い路地。

所狭しと立ち並ぶは、けばけばしい看板、看板、看板。

客引きは競うように声を枯らし、女たちは精一杯の媚びをうる。

ここは、そういう場所だ。

「お兄さん、ねぇ寄ってかない?」

あたしは、見るからに女慣れしてなさそうな、そんな若造に声をかけた。


ここはメインの通りから1本奥まった路地。

行き交う人もまばらな廃れた通り。

それなのに、煌々と明りを灯す店の数々。

「ねぇ…いいでしょ?」

あたしは、すっかり冷え切った身体で男にすり寄った。

自然と身に付いた上目遣いと、鼻にかかる声。

今や息を吸うように嘘をつき、今日の食い扶持を稼ぐ。

あたし達は本気なんだ。


男はぱっと顔を赤らめ、無言であたしを見下ろす。

どの男だって同じ。

冷やかしだろうが、大真面目だろうが。

彼らは決まって同じ顔をする。…品定めの顔だ。

この瞬間だけは、いつになっても慣れない。

あたしは内心の冷汗を笑顔で覆い隠し、男の瞳に映る自分を見つめた。


こくりと男の顔が縦に振られ、あたしは笑みを深めた。

ここまで来たら後は同じ。

近くで待機しているボーイに目配せし、男が案内されていくのを見送るだけ。

「先に入っていて。」

お決まりの台詞を耳元で囁き、絡めていた腕をするりと解いた。

男は更に赤みを増し、舐めるようにあたしを見てくる。

あたしの仕事はここまで。

後は、店内にいる鬼たちに骨の髄まで貪られ、泣きながら帰っていくのがあの男の未来だ。

「バイバイ坊や。」

届かないと分かっていながら、呟かずにはいられなかった。


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