スクールバスのラブレター
タイトル負けしてる内容ですが、一応女性バス運転士×女子校生の、ビギニングストーリー的な感じです
2020/03/02の2OLイベントで発刊した物をうpします
「ご乗車お疲れ様です。学校到着しました。忘れ物や落し物しないでね。いってらっしゃい」
目的地に着き、私の案内音声をきっかけに三々五々バスを降りる生徒達。
「いってらっしゃい。頑張ってね」
生徒一人ひとりに声をかけていく私、鹿川来海。さくや観光所属で、市内にある女子校のスクールバス専属運転士やってます。背は少し小さいけど、少し長めの髪を束ね、スカートではなくパンツルックで仕事してます。流石に仕事中にヒールは履けないけど。
……え、女性ですけど何か?
今の時代、女性だってバスの運転出来ますよ。ちゃんと、免許だって取りに行ったんですから……会社のお金でね(笑)。
三年前までガイドをやってたんですけど、どうしてもバスを運転してみたくなりまして、会社に相談したら、「よしわかった。金は出してやる」と社長が言ってくれたので、一念発起して取りましたよ。かなーり苦労しましたけどね。鋭角とか、鋭角とか、鋭角とか……(遠い目)。
いまや、さくや観光初の女性ドライバーという事で、注目され始めているらしい……近所限定だけど。
一応、スクールバス専属となっているけど、一般の送迎仕事もやっている。配車場所へ行く度に「女性ドライバーだ!」って驚かれる。もう慣れたけど。まだ経験不足故に、観光仕事には行かせてもらえない。だから「専属」としてスクールバスにて修行中。大きいバスはメッチャ神経使うからねぇ。一日の運行が終わる頃には、精神がズタボロ。まだ、大きさに慣れていないせいだね。
「やあ、くるみん。頑張ってるかい?」
「タマちゃん。ボチボチでんなー(笑)」
車庫で休憩していたら、ガイド長の新澤珠美に声をかけられた。ガイド時代の同期である彼女。歳は私の方が上だが、もう一人の同期である蓼原秀美と、三人で切磋琢磨してきた間柄なので、何でも気さくに話せる関係である。
「しっかしまぁ、よくバスを運転しようなんて思ったねぇ」
「元から、車の運転好きだったからね」
「遊びに行く時も、大概くるみんの運転だったよね」
よく三人で遊びにも行った。運転はいつも私。それには、理由があった。
「タマちゃんの運転が怖すぎるからじゃない!ノーブレーキで交差点進入とか、命がいくらあっても足りないよ」
「テヘペロ♪」
「笑って誤魔化すな!」
「今はちゃんと安全運転してるってば」
「秀美ちゃんのおかげでね……というか、彼女が免許持ってない事の方が驚きだよ」
体育会系顔負けの外見を持つ秀美ちゃんだけど、免許を取らない理由が「怖くてアクセルペダルを踏めない」んだそうだ。難儀な性格をしてるよ、ホント。
「近いうちに、また三人で遊びに行こうよ。まだ観光仕事してないでしょ?忙しくなる前に」
たわいもない話をしていたら、タマちゃんから遊びのお誘いが。
「日帰りで温泉行きたいなぁ」
「流石はアラサー(笑)」
「何とでも言え」
「気持ちはわかるけどねぇ」
また連絡するねー、と言って彼女は去っていった。歳のことで弄られたが、流すことが出来るくらいには仲がいい。さて、午後のお仕事がんばりますか。
◇
「入庫完了。駐車位置確認。さてと、お掃除しながら忘れ物チェックといきますかぁ」
本日も、つつがなく業務終了。バス車両を定位置に停め、お掃除を始める。床を箒で掃きながら、落し物が無いかをチェック。スクールバスをやっていると、意外と物が落ちている。筆記用具やら消しゴムやら、ヘアピンやらヘアゴムやら……色んな物を落とし過ぎぃーっ!稀にコームやらシュシュまで落ちてる場合がある。オシャレに気を遣うのはいいけど、落としていっちゃ意味無いでしょ。ま、大きい落し物は大概、次の日に当事者が現れるけどね。
後は、スマホなど携帯端末の忘れ物が割とある。座席に忘れていくのは、まぁまだ分かる。しかし、網ポケットに入れたソレを忘れていくかなぁ。大事なモノでしょうに。これに関しては、ほぼ帰りの回送中に、会社からの無線連絡で発覚する。場合によっては、会社まで親同伴で取りに来る。この前は、「また君かぁー」という事で、前科三犯の娘が会社に来ていたっけ。その娘に対しては、最近は下車する度に「スマホ持った?」と聞くようにしている。今度忘れたら、スマホ取り上げられるとかナントカ、という友達との会話が聴こえちゃったからね。
とにかく、何でこれを忘れるかなぁ……という事案が時々発生するので、忘れ物チェックは隅々まで行う。どうか、お弁当箱の忘れ物が出ませんように……。
そんな事を思いながら、車輌中程まで掃き掃除が到達した時だった。
「何だこれ……メモか何か?」
ある座席の、シート裏に付いているテーブルを見やった時、何かの紙がテーブルとシートバックの間に挟まっているのを見つけた。ゴミなら、網ポケットに丸めていれてある(そういう事をしてもらいたくないんだけどね)ので、忘れ物だったらまずいよねー、という事で紙をテーブルから取って、中身を確認する。そしたら、ある一文が書いてあるだけだった。
「あなたが好きです。I Love you. 我??. Je t'aime.」
「……翻訳の宿題か何かですか?」
全部同じ事言ってる、って事でいいんだよね?日本語、英語、中国語、フランス語……でいいのかな?仮に宿題だとしても、例文がこれか?教師のセンスが問われるんじゃないか、これ(笑)。
それよりも、これをテーブルに挟んで置いていく生徒の気が分からん。イタズラか否か……少なくともゴミではなさそう。取り敢えず、これは、個人的に保管しておく事にしよう。コレを会社へ忘れ物報告しても、ゴミとして処分されること間違いないから。次の運行時に、車内でマイクを使ってそれとなく聞いてみよう。心当たりありませんかー、って。
あれからしばらくの時が経ったけど、メモ?の犯人は特定できず。まぁ、素直に名乗る訳ないよね(苦笑)。それはいいんだけど、それを上回る頭痛のタネが発生。
実は、あれから同じ手口でのメモを見つける事が頻繁に起きるようになった。
頻繁……というより毎回?
私がスクールバスを運行する日には、必ず見つける。置いてなかった日はなかった……と、記憶している。さらに頭痛に拍車をかけるのが、同じ仕事をした事がある他のドライバーに聞くと、そんなメモを見つけた事はない、という点。
何かの嫌がらせですか?
文面は、多少の違いはあれど、ほぼ同じ内容。「あなたが好きです」というのが基本の文面。わざわざ置いていく事を鑑みて、どう見ても生徒から私へ一種のラブレター……という事になるのかな?自惚れてる訳じゃないけど。過去にも貰ったことないけど。考え方飛躍しすぎかなぁ(笑)。
でも、仮にそうだとして、何故に私?
乗せてるお客様は女子高生だし、私も女性ドライバー。生徒に好かれているだけなら良いが、からかわれているという側面も否定出来ない。だって、生徒から見たら、私はアラサーのオバチャンですよ?……自分で言ってダメージ喰らった。グハァっ。
同性という点には、突っ込まないのかって?相思相愛という訳じゃないし、大人の女性に憧れるっていう感情はよくある事。これはそういう類のものじゃないかな。あ、別にLGBTを否定するわけじゃないよ?個人的には無問題だし。今回の件は、そこまでいってないんじゃないかな、という見方をしている。
何れにしろ、一度キチンと言った方がいいかな。あまり長く続くと、双方にとって良い結果になるとは思えないし。よし、今日の帰りの運行で一言放送しておくか。メモが見つからない事を期待して。
……そう思っていた時期が、私にもありました。
運行が終わって車庫に戻り、掃除を始めた矢先に見つけてしまいました。例のブツ。
やんわりと言ったのが良くなかったのかなぁ。
取り敢えず、掃除を先に片付けてから、中身を確認しよう。
掃除も終わり、終業点呼も受け、自宅へ帰り一息つく。
そして、例のブツに目を通す。今回はちょっと長いなぁ(と言っても、普通に比べれば短文だが笑)。
「ご迷惑なようなので、これで最後にします。今度の日曜日に、プライベートでお会いできませんか?」
そんな文面と共に、待ち合わせ場所が記されてあった。
……さて、どうしよう?
メモの犯人が特定出来ていないので、お断りの返事をしようがない。無視してもいいが、相手に待ちぼうけ喰らわせるのもどうかと思うし。これはもう、最初から選択肢が無いよね。指定の日が休みで良かったァ。観光業界は、曜日なんか関係ない。基本、休みは運行課長の胸三寸……は言い過ぎか(笑)。日曜日に休めるなんて、まずあり得ない。この子、私が休みじゃなかったら、どうするつもりだったんだろう。
◇
そしてやってきた、日曜日。
私は指定されたとおりに、地元駅前の噴水傍にある時計塔の脇に立っていた。待ち合わせ時間は午前十一時。歳上(しかも大人)が歳下を待たせちゃいかんだろうと、かなーり早めに現地へとやってきた。長い時間立ちっぱなしかなぁ、と覚悟していたが、傍らにベンチがあったので、これ幸いとそれに座ることにした。それにしても、三十分前は早すぎたかな(苦笑)。
「……あのぉー」
「ウヒャイ!!」
ベンチに座るか否やのタイミングで、同じベンチで少し離れて座っていた女性にいきなり声をかけられたので、私は飛び上がるほどビックリした。心臓バクバクだよォ。
「すみません、ビックリさせて……あの、運転手の鹿川さんですよね。さくや観光の」
「え、は、はい、そうですが」
苗字を呼ばれたので、二度びっくり。
「急なお誘いに応じてくだり、有難うございます」
という事はこの人……いえ、この子が例のブツの犯人なわけね。学校の制服じゃなかった(そら当たり前だ笑)から、事前に気づかないのも無理はない。
「わたし、新富士高校三年の須河暁菜と言います。いつもスクールバスで一番最後に降りてるんですが……見覚えありませんか?」
「……ごめんなさいね。ドライバーって、人の顔を覚えるの苦手なんだよ」
一日に何十人もの生徒さんを見てるもの。余程の特徴でもない限り、個人を覚えるなんて無理。これは、ガイド時代からの私の弱点。
でも、一番最後に、という件で何となく見覚えはある。そういえば、いつも一番最後にうつむき加減で、小声で何か言って降りていく娘がいたなぁ。おかっぱに近いミドルボブなヘアスタイルも記憶がある……気がする。あくまでも気がするだけ(苦笑)。
「それで?私を此処へ呼び出した理由は……教えくれるのよね」
「……」
そこで、ダンマリかいっ!!こんな人が多い場所では話し難いのかな。
「場所変えようか……」
駅から程なく歩いた所にある、少し大きめのデパート。その屋上に、私達はやってきた。昔は、遊具とかイベントスペースとかがあって、賑わってた記憶があるけど、今はだいぶ寂れてるね。人も疎らにしかいないし、此処なら話しにくい事も話せるでしょう。適当なお店でお茶でも……と思ったけど、それこそ気軽にお喋り、という雰囲気ではないし、逆にこっちが緊張しちゃう。話題が合わなそうで……。
「お茶で良かったかな?コーヒー飲めるかわかんなかったから」
「あ、ありがとうございます……」
傍にあった自販機でお茶を買い、暁菜ちゃん……だっけ?に渡す。二人でお茶を啜り、落ち着いたところで本題に入る。
「貴女が当事者……って事でいいのかな?例のメモ」
「……はい」
そりゃ、ああやってあからさまに呼び出されれば、そういう結論になるよね。
「よくもまぁ、毎回毎回置いていってくれたわよねぇ」
「……すみません」
「あぁ、別に怒ってはいないよ。ずっと気になっていただけだから」
「……そうですか」
怒っているように取られたようなので、慌ててそれを否定する。
「そもそも、何故に呼び出されたのかが疑問なんだけど」
「……」
「そもそも、あれは何のメモ?」
「……」
うーん、返事がない。困った。話が進展しない。言いたくない理由でもあるのかな。ちょっと、聞き方を変えてみますか。
「……嫌がらせ?」
「そんなんじゃありませんっ!!」
ぅをっ!びっくりしたぁ。迫力ある全否定に、身をたじろぐ。
「イジメを受けていて、やらされてる……とか?」
「それもありません」
ふむ、そうなると……もう、アレしか考え付かないんですけど。
「もしかして、本当に私に気がある?」
「!!……っ」
そう聞いた途端、迫力顔でこっちを見ていた彼女が、顔を真っ赤にしながらそっぽを向いてしまった。やっぱソッチでしたかぁ。
でもなぁー、気があるとは言っても、私何もしてないよね。何かをした、という記憶が無い。
「私の事が好き……ってことでいいのかな?」
「……(コク)」
なんとか頷いてくれた。
「何が切っ掛けなのかな。おばさん、わかんないなぁ」
また、自分で言って自分にダメージを与える私。取り敢えず、わからないものはわからないので、本人に聞いてみる事にした。
「おばさんじゃありません。格好いいお姉さんです!」
ありがとう。幾らか救われたよよよ。
「あの時、助けてくれたじゃないですか……」
「え、いつ?」
何か、この子を助けたことあったかしら……。
「全校での遠足の時に……」
話を要約すると、夏前の全校遠足の日、目的地についてバスを降りてる時に、ステップを踏み外して転げ落ちてしまい、ドアの傍に立っていた私に助けられた……らしい。遠足……転げ落ちた……ぁあ、そんな事あったなぁ……記憶が朧気に蘇ってきた。でも、私と彼女とでは、記憶の齟齬がある。
「あの時かぁ。私、押し倒された記憶しか残ってないんだけど(苦笑)」
確かにあの時、転げ落ちそうになった一人の女子校生を助けようとした。だけど相手を支えきれず、下敷きになる格好でもんどりうって倒れた、と私は記憶していた。
「概ねそれで合っています」
「記憶の齟齬はどこへ行った!?」
「でも、お姉さんのおかげで怪我をしませんでした」
「あぁ、それは良かった」
おかげで、私の制服が一部損害を受けましたが。あぁ、思い出した。その後、裁縫道具を持っていたタマちゃんと、バスの中でチクチクお直ししてたわ。
「あの時、運命を感じました」
運命論者ですか、貴女は。
「それ以来、ずっとお姉さんをずっと見てきました。運転する姿、同僚の方々と談笑している姿……屈託のない笑顔にだんだん惹かれていきました」
時折感じていた妙な悪寒は、貴女のせいですか……何、主観の違いですかそうですか。同僚との談笑は、ただ単に弄られていただけですけどねぇ。それこそ主観の違いですよ。
ははーん。読めたよ。彼女は三年生だから、この春に卒業する。逢えなくなる前に、積もりに積もった想いをぶつけよう、と。青春だねー、アオハルだねー。でもそういうのは、先輩後輩とか恩師に対してやってください。
「お姉さん、わた「ちょーっと待ったーっ!」」
ここぞとばかりに空気を読んで、告白しようとした彼女を制する。
「どうして止めるんですか。告白させてください。私のこの想いを」
必死になって、私に嘆願する彼女。
「だって、告白したところで、私は貴女の気持ちには応えられない」
「え……」
彼女の告白を遮っての、私の先制パンチに、暁菜ちゃんは落胆する。しかし、眼は諦めていない様子。
「歳が違いすぎるし」
「恋愛に歳は関係ありません!」
「同性だし……」
「気にしません!」
「女子校特有の、一時的な気の迷いだよ」
「運命を感じたので、それはありません!」
「世間から白い目で見られるよ?」
「構いません!」
「まだ学生だし……」
「この春に卒業なので、無問題です」
私は、ありとあらゆる懸念材料を使って、彼女を否定するが、全てに対して反論してくる。
「そもそも、私は貴女に興味を持ってないし」
「将来、振り向かせてみせます。いいですか。これは宣戦布告です。お姉さんの方にその気がないのはわかっています。これから、あの手この手でアタックしていきます。今までのメモもその一環です」
そうだったのね。やっぱり、ラブレターのつもりだったんだ。
「告白は出来ませんでしたが、宣戦布告は出来たので、良しとします」
「そんなんでいいの?」
「両想いになるとは思っていませんでしたから。私が好きだ、という事がわかってもらえればOKです」
強い子やなー。
「貴女の気持ちはわかった。好かれているのは、別にイヤじゃないから」
「その言葉が聞けただけでも嬉しいです」
「じゃ、こうしよう。卒業して、あなたの気持ちが変わらなかったら、もう一度気持ちを聞かせて。そうしたら、私も真剣に考えて返事をします。それでいいかな?」
「……わかりました。卒業したら、また会ってください」
「どこへ会うっていうのよ(苦笑)」
「それは秘密です♪」
また、駅前に呼び出されるのかな、私(苦笑)。
「玉砕するかもしれないよ?」
「その時はその時です」
高校卒業まで、もうそんなに日はない。三年生は、そろそろ自由登校の時期にもなるので、彼女と顔を合わせるのも数える程しかないはず。その間に、冷静になって気持ちに向き合えば、私の事も忘れるでしょう。そんな事を思いながら、デパートの屋上からの景色を眺めていた。その時、不意にお腹がくぅーっと鳴いた(恥)。
「お腹すいたと思ったら、お昼か。オバチャン奢るから、何か食べに行こう」
「お姉さんですってば!」
あくまでも、そう呼びますか。嬉しいねぇ。遠慮せず、高いもの頼みなさい。私は今、頗る気分が良い。こんな事滅多にないよ?
◇
時は過ぎ、三月。
巷の企業は、新入社員入社の時期。
我がさくや観光にも、新入社員が何人か入るらしい。
事務職二名、ドライバー三名、バスガイド一名……という布陣だとか。
ガイドは一人かぁ。今、一番下のガイドである鶴見美佐ちゃんに、後輩ができるのはいい事だね。タマちゃんが、指導の時に暴走しなければ良いんだけど。
「何か言った?くるみん」
「何も言ってないよー」
危ない、心の声を隣のタマちゃんに聞かれるところだったよ(滝汗)。
ということで、今は入社式後初の全体朝礼。ここで、初めて既存の社員達に新入社員が紹介される。シフトの関係で今日が休みの人もいるけど、そこはまた個人レヴェルで顔合わせするしかない。
色んな事を考えていたら、だいぶ紹介が終わっていたらしい。ドライバーが、三人目の紹介に入っていた。残るは、バスガイドのみ。ちらっと、ガイド制服に身を包むその子を見て、何故か既視感に襲われた。
(んん?何処かで見たことある……?)
そんな事を考えていたら、バスガイド紹介の番になった。
「さくや観光に入社させて頂きました、須河暁菜と言います。今まではスクールバスでお世話になりましたが、今度はバスガイドとしてお世話になります。一生懸命頑張りますので、よろしくお願いいたします」
その紹介を聞いた途端、私の顎が落ちた。
あの子か……!
まさか、ウチの会社に入社するとは……聞いてないよ!?
あの時、再会に含みを持たせたのは、この為か!
もしかして、あの時点で既に内定貰っていたの?
色んな意味で、動揺を隠せない私。
そして、目の前に彼女がやって来た。
「卒業後に、お会いできましたね♪」
「あ……ぅ……」
動揺のあまり、言の葉が上手く紡ぎ出せない。こ、こんなに早く再会を果たしてしまうとは……。しかも、これからはほぼ毎日顔を合わせる事になるだろう。スクールバスの時もそうだったし、あの時の延長みたいな感じだ。確か、一月位前に「今日がスクールバス最終日です」「卒業おめでとう」みたいな事をバスの中で言って以来か。まさか、その後に会社で再会するなんて……ホント想定外だよ。
「わたしの気持ちは、あれから変わっていません」
突然、そう告げられた。
「お姉さんの気持ちは、今はまだ聞きません。でもこれからは、振り向いてもらうために猛アタックさせて頂きます……先輩、お覚悟を♪」
改めてそう宣戦布告した彼女に、私はたじろぐ事しか出来なかった。
Fin