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死神と死に逝くモノたち  作者: あかり
3/4

case3

!!閲覧注意!!



津波表現あり・胸糞表現ありのため閲覧には注意が必要です!!




「はい、ジュンです」

「井上です」


俺、ジュンこと桜井順一は中学時代からの友達、井上彰と共に近くの漁港にやって来た。


「今回の動画のタイトルは『地震後の漁港にやってきた』です」


「ライブ配信なので、リアルタイムでのコメントよろしくお願いします」

俺のタイトルコールに、カメラで俺を写しながら、井上は合いの手を入れてくれる。


今日、漁港にやってきたのは、動画のライブ配信のためだ。


数分前に大きな地震があり、テレビで津波警報が流れた。

急いで、井上に連絡を取り、漁港にやってきた。


「現在、海はいつもと変わらない様子です」


地震後の海は危険だと認識はしている。

しかし、動画配信者として多少無理なことやバカなことを売りにしているオレたちにとっては、絶好の撮影日和だ。


「テレビだと、あと10分で津波が来る予定です。

おぉ、ジュン早速コメント。世界王さん『ジュンさん、井上さん超クール』、山茶花さん『津波、危ないから早く逃げて!!』ほか多数コメント来てるよ


「世界王さん、いつもご視聴ありがとうございます。テレビだと、津波の高さ60センチなので、大丈夫です。山茶花さん心配ありがとうございます」


「オレもジュンも、泳ぎ得意だがら、つなみに巻き込まれても大丈夫」


コメントに返事をしている間も、たくさんのコメントが寄せられる。


称賛するコメント

非難するコメント

心配するコメント


称賛や心配するコメントには積極的に返事をするが、非難するコメントは基本的にスルーする。


バカなことをやっている俺たちは、非難するコメントにいちいち返事をしていたら、動画配信は行えない。


まあ、非難する人も動画観てくれるから立派なリスナーなんだけどな。



俺と井上が動画を撮るようになったのは、中2の頃からだ。


ふたりで撮った初めての動画は、生意気の新任女教師の机に牛乳で溶いたヨーグルトを垂らしたものだ。


その動画を、SNSで仲間内だけに公開したら、仲間から称賛された。


牛乳溶きヨーグルトを精液のように垂らしたことが、当時中学だった俺たちにはウケた。


それ以降、もっと友達を楽しませようと、色々な動画を撮影した。


中学時代は、

学校のガラスを全て割った動画。

気にくわない、がり勉野郎の机を、金属バットでぼこぼこにした動画。


高校に入ってからは、キモい店員がいるコンビニでの万引き動画


バイト先の居酒屋で、食器で溢れるシンクで髪を洗った動画。


それらの動画を仲間内でシェアして楽しんでいた。


過激な動画を撮れば撮るほど、友達は喜んでくれた。


凄いと称賛してくれた


もっと注目を浴びたい

もっと凄いと言ってほしい

もっと楽しんでもらいたい


だから、動画の内容はどんどん過激になっていった



今は、チェーン店の居酒屋で全商品を注文して、食べ物を机に並べるだけ並べて、そのまま帰る動画を撮影したり、マンホールに油を塗って、そこを通る人が転ぶところを撮影したりした。そして、その動画を動画配信サイトに投稿してお金を稼いでいる。


当然、動画は炎上するが、それも計算のうち。動画が盛大に炎上すれば、ネットニュースで取り上げられ、ニュースを見た人が興味持ってくれる。


炎上のおかげで動画の再生回数が20万を越えたこともある。


『こんなバカなことやめろ』と言われることもあるが、需要があるからやめられない。


そして、今回は津波の動画。津波が来たら、走って近くにある建物の5階に逃げ込む予定だ。


どうせ、津波と言っても数十センチくらいだろうから、逃げられる。


今も、動画に寄せられるコメントは俺たちがしているバカなことを称賛するものよりも、俺たちをたしなめるコメント、早く逃げるように促すコメントが増えてきた。


だけど、この漁港にいるのは俺たちだけではない。


俺たちみたいなカメラを海に向けている若者、スーツを着たサラリーマン、船の様子を見に着た黒いレインコートを着たジジイ。野次馬に来た近所に住むであろう人々、港に住み着く猫。


まだ、誰も逃げていないから大丈夫だろう。本当にいざとなったら泳げばいい。


「おい、ジュン。海が引いていくぞ」


「おお、これが引き波か‥」


目の前にあった海は、いつの間にかなくなり遠くに見える。今まで海水で見えなくなっていた海底が見え、海に置いていかれた魚が、ピチピチ跳ねている。


コメントに溢れる逃げろの文字。


まだ大丈夫。誰も高台に逃げていない。それに、たった数十センチの津波だ。死ぬはずがない。


遠くに波が見える。


大丈夫、まだ誰も逃げていない。


その波がだんだんと大きくなってくる。


大丈夫、大丈夫。きっと、ここにつくまでに小さくなるはずだ。


小さくなる様子がない津波


大丈夫‥‥‥


「ジュン!逃げるよ!」


井上の声に我にかえり、全力で走った。逃げ込む予定の建物に向かって力の限り走った。


後ろから聞こえてくるゴゴゴという波の音。


迫り来る死の恐怖


死にたくない

死にたくない

死にたくない


死への恐怖が、俺たちを走らせる。



足下に感じる水


津波がすぐそばにまで迫っている。


だが、目の前にやっと高い建物が見えたら。


助かった。


建物を見て安堵した。


建物に逃げ込んだあと、なんと言おうか。

やはり、大したこと無い津波だったと言おうか。


"これから"について考えていた。





その時、後ろから濁った水に呑み込まれた。


息ができない、苦しい。

必死に泳ごうとするが、流れが速すぎて泳ぐことができない。


服が重い


体が動かない


そして、勢いよく何か固いものにぶつかった。


身体中に強い痛みを感じた。


しかし、その痛みは一瞬にして消えた。


『ジュン‥‥‥』


『井上、俺たち助かったのか?』


いつの間にか、隣に立っていた井上。井上の体は津波に巻き込まれたとは思えないほどキレイだった。


「いや、君たちは死んだんだよ」


黒いレインコートを着たジジイが目の前に立っていた。


ジジイが長い棒を取り出した、それを振り下ろすと空に続く道が出来上がった。


「さあ、この道を歩けば、迷わずに行けるよ」


この道を歩いていくと、あの世に行けるのか?


目の前に突きつけられた死。


『いやだ、死にたくない!』


『オレもいやだ!』


子供のように、二人して《死にたくない》と駄々をこねた。


「仕方ないな」


ジジイはため息をつくと、俺と井上の首根っこをつかみ、白い道を歩き出した。


ジジイは歩きながら、「南無阿弥陀仏」と唱えている。


だんだんと小さくなっていく町。町は完全に水に飲み込まれていた。


俺たちが逃げ込む予定だった建物は完全に流されていた。


何で、こんなことになってしまったのだろう。


何で、コメントの言うように早く逃げななかったのだろう


何で、動画のために死ななければならないのだろう




いまさら後悔しても、もう遅い。






もっと生きたかった。



*****

調査書

名前 桜井順一 22才

死因 溺死


名前 井上彰21歳

死因 溺死


特記事項

二人とも動画配信者として活躍。

マンホールに油を塗って、人々を転ばせた件が、傷害罪として、捜査対象になっていた。



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