表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神と死に逝くモノたち  作者: あかり
1/4

case1

「お前さんは、誰だい?」


目の前に立つ青年に問いかける。


クールビズが叫ばれている昨今、真夏にスーツをきっちり身につけた姿は多少異様に見える。


青年は、オレの問いには答えない。無言で、オレを見ているだけ。


青年が答えなくとも、その正体をオレは知っている。


青年は、オレの顔を一瞥したあと、壁に溶けるようにして消えていった。


あぁ、やはり青年は

「死神か‥‥‥」




オレは、第二次世界大戦が始まった年に、生まれた。


豪商の次男として生まれたオレは銀次と名付けられ、なに不自由なく育った。


17年ぶりに産まれた男児に、両親も兄も3人の姉もオレの誕生を喜んでくれた。


戦時中だったが、両親はオレに可能な限りな色々な物を与えてくれた。


珍しい舶来品

一流の教育

一流の品々

誕生日には、たくさんのプレゼントをもらった。


戦争特需で父親の事業は、とても儲かっていた。


この時は、戦争なんて遠い国の話だと思っていた。

この幸せはいつまでも続くものだと思っていた。


しかし、成長するにつれて日本中の空気が変わった。


暗い顔をする事が増えた両親。


いつの間にか消えている高価な調度品。


いつの間にか、軍人に嫁いで行った1番上の姉。


そして‥‥‥


「お国のために戦ってきます」


凛々しい表情で戦場に行く兄。


数学が得意で優秀な兄は、日本最高峰の大学で勉強していた。


近所のお兄さん達が次々と戦場に行くなか、優秀な兄は戦場に行く必要はないと、父親は言っていた。



兄の見送りは家族全員で行ったら。

誇らしげな表情の父

涙で目を真っ赤にした母と姉たち。

口を硬く閉ざし、目に涙を浮かべているオレ。


戦場に行く前に、一度だけ兄と2人で出かけた。2人だけの秘密と言いながら、2人で甘いものを食べた。


小さくなっていく兄の背中。


これが、最後に見た兄の姿だった。


兄が戦場に行って、しばらくしてから、家族で母方の祖父母の家に行くことになった。


そして、夜になると敵国の飛行機が日本の空を飛ぶようになった。


警報が鳴る度に飛び起き防空壕に逃げ込んだ。


そして、あの晩


東京は空襲にあった。

住んでいた屋敷は跡形もなく燃え尽きた。



広島と長崎に大きな爆弾が落とされて、戦争が終わった。


その後、焼け野はらとなった東京に戻った。


そこで、兄の死を知った。

家族皆で泣いた。

なぜ、兄を戦場に送ってしまったのか後悔だけが残った。



財産のほとんどを戦争で失ってしまい、両親と共に必死になって働いた。


今までのように贅沢な暮らしはできない。毎日が生きるので精いっぱいだった。

しかし、そんな中で小さな幸せがあった。


妹が生まれた。


妹のおかげで兄を失った悲しみから立ち直ることができた。


妹のための、家族のために必死頑張った。


残っていた2人の姉も、それぞれ裕福な家にお嫁に行った。


しかし、妹は14で亡くなった。


妹のあとを追うように、父と母も亡くなった。


悲しかった。


家族が誰もいなくなってしまった。


何もできない自分が悔しかった。


オレはまた悲しみに暮れた。


そんな時、オレを支えてくれたのが彼女だった。


お見合いで知り合ったが、彼女を一目見て惚れてしまった。


とても朗らかで、聡明て、笑顔が妹に似ている。


必死なアピールの結果、彼女と結婚することができた。

嬉しかった.。


彼女との間に子供はできなかったが、それでも幸せだった。


彼女との結婚後も色々あった。


父親の跡を継いだ会社は、高度成長期で、働け働くほど利益が出た。


しかし、高度成長期が終わり、会社が倒産しそうになった。


だが、従業員が支えてくれてなんとか乗り切ることができた。



退職後は、彼女とたくさん旅行に行った。


国内だったら北海道に沖縄、京都。イタリアやフランスなど外国にも行った。


そんな彼女は、4年前に亡くなってしまった。


兄妹が亡くなったときと同じくらい悲しかった。




何故、こんなに過去のことを思い出すのだろうか


今まで、忘れていたことまで、鮮明に思い出すことができる。


ああ、きっとこれが「走馬灯のように」という物か‥‥‥


「千代‥‥‥」


死を覚悟したとき、妹が目の前に現れた。


亡くなったときと同じ14才の姿のままだった。


妹は一瞬驚いた表情をしたが、妹はオレに微笑み、そして白い道を歩いて行った。


きっと、死神が冥土の土産で妹に会わせてくれたのだろう。


『塚原銀次、時間だ』


いつの間にか戻ってきた死神。その手には、長い棒が握られている。


死神は棒を振り下ろす。


すると、空に伸びる白い道が現れた。


『死神さん、ありがとう』


妹に会えたお礼を言い、白い道を歩き始めた。


10歩進むと、病室に心臓が止まった事を告げる音がなった。


ああ、オレは死んだのか、



**********

調査書

塚原銀次 79才

死因 老衰


特記事項

父親の事業を継ぎ、その事業を発展させた。有名な篤志家。福祉事業やボランティア活動、恵まれない子供達への支援などに尽力をする。

死後、裁判無しで天国行きが決まっている。


この作品では死神は鎌を持たず、魂を導く者です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ