すれ違う想い
俺は宿から三日出なかった。始まりの街から北にあるここカイムの宿は一泊50ゴールドだった。福ちゃんは無料。
「福ちゃんは元気だな……」
ドアを開けてやるといつもトコトコどこかへ散歩してくる。その度にレベルを上げてくるのだ。街の外へ行っているようだ。
「たかちゃんはどうして外に出ないの?」
「だってさ……」
俺はノッポゴブリンに傷を付けるだけしかできない。その程度なのだ。
「成長の早い福ちゃんとは違うんだよ……」
「一緒に狩りに行こうよ」
「もう駄目だよ……」
福ちゃんは俺の頬を引っ掻いた。
「いたっ」
「バカ! それじゃいつまで経っても魔王なんか倒せないわよ!」
福ちゃんはドアノブにぶら下がって自分で開け、出ていった。
俺はふてくされて寝た。しばらくたっただろうか。
「駄目ですよ!」
「わっ!」
メルルがいた。
「どうして!?」
「福ちゃんに呼ばれたんです!」
「福ちゃんに?あいつ召喚もできるの?」
「召喚じゃないですけど、私の心に直接話しかけてきました!」
どんな特技だ……。
「こんなところでふてくされてたら福ちゃんの言う通り魔王は倒せませんよ!」
「何で福ちゃんはメルルさんを呼んだんだ?」
「それは……」
「なに?」
「ふ、福ちゃんが言ったんです。わわ、私があなたのタイプな女だって!」
「え、まあ……そうなんだけど」
「本当ですか……」
俺は緊張し始めた。あまり女性と話すのは得意ではない。
「私はあなたをスカウトしたのは、あなただったら魔王軍と戦えると思ったからです! それだけ毎日真剣に剣道の稽古をしていましたから!」
「ああ……」
学生時代が懐かしい。できるなら魔王軍なんかと戦いたくない。というかまだその辺のモンスターとしか遭遇していない。そんなモンスターだって倒せない。
「もう駄目ですね! これじゃ! 福ちゃんを見習ってください!」
「福ちゃん?」
「あの子はあなたのために今もモンスターを狩り続けているんですよ!少しでもレベルを上げてあなたを助けようと!」
「それが余計なんだよ!俺は福ちゃんがいないと戦えない!」
「じゃあ! 元の世界に戻ってもこの関係は修復できませんよ!」
元の世界……。福ちゃんと暮らしていたあの時間。
「福ちゃん……。福ちゃん!」
「やる気になりましたか!」
俺も、戦って、福ちゃんと帰るんだ……!
「わかった!」
その時街でアラートが鳴った。
「皆さん! 建物の中にお逃げください! 魔王軍の幹部が近づいています!」
「幹部!?」
「さあ出番ですよ!」
「でも俺この辺のモンスターも狩れない……」
「福ちゃんと帰るんじゃないんですか!」
俺は今度こそ覚悟した。
「ああ……!散々悩んでたけどもう吹っ切った!」
「じゃあ行きますよ!今回は私も参戦します!」
「メルルが?戦えるの?」
「私は攻撃魔法も使えますよ!」
「よし、行こう!」
その時またアラートが……。
「ただいま魔王軍と戦っている猫族がいます! 剣士がいたら助けてあげてください!」
「猫!?」
俺とメルルは同時に発言した……。