始まった冒険
剣士登録所に着いたが、人は少ない。
「本気で魔王軍と戦う気があるのか」
「私が一人でスカウトしていますので……それにほとんどの剣士が今は前線に出ていますので!」
「言葉は通じるのか?」
「はい! 各言語は統一されて聞こえ、話せます!」
「じゃ剣士登録とやらをしてみるかな」
俺は受付に向かった。そこにいたのは黒髪のお姉さん。ニコニコしている。愛想は良さそうだ。
「メルルさん、またお連れになったのですか」
「はい。ノベイラさん登録お願いします」
「また死なせてしまったらどうするんです?」
メルルの顔が凍り付いた。
「そ、それはあの……」
「大丈夫だ。俺には福ちゃんを連れて元の世界に帰るんだ」
ノベイラと呼ばれた女性はまだ笑顔だ。
「魔獣をお連れですか」
「魔獣? 福ちゃんが?聖獣と呼んでほしい」
「聖獣で登録しますか?」
ノベイラさんはサラサラと字を書き始めた。知らない文字だが読める。
「ここの文字か?」
「そうです! 文字も誰もが読めます!」
「聖獣は福ちゃんと呼ぶんですね。そしてあなたの名は?」
「三上貴明だ」
「はい。お受付します」
「頑張ってください!」
「レベルが上がれば聖騎士になれます。ぜひ聖騎士団入りを目指し、そして魔王を倒してください」
「レベル? 今の俺のレベルは?」
「1です。聖騎士はレベル30からなれます」
「そ、そうか……。先は長いな」
福ちゃんは左後ろ足で左耳を掻きながら言った。
「ねえねえお姉さん。あたしのレベルは?」
「ん!?」
「どうしたの?」
「レベル20です」
「すごい!」
「さすがは福ちゃんだうちに迷い込んで生き残っただけある」
「さっき冷気も吐けるって聞いたけど」
福ちゃんは口から凍えるような息をふうっと吐いた。
「あ、ほんとだ」
「これから色々試してみような、福ちゃん」
「これが支度金です。この世界の通貨はゴールドです。とりあえず初心者には100ゴールド。レベル20となると……ベテランの域ですから、ごめんなさい。渡せません」
「まあいいさ。ところでこの世界には刀はあるか?」
「カタナ? ありますよ」
「よし! さっそく買いに行こう」
「じゃ私はここまでで! 頑張ってください! ワープ!」
メルルは消えた。またスカウトしに行くのだろうか。まあいいさ。俺が魔王を倒して元の世界に帰る。福ちゃんと一緒に。
「たかちゃん」
「どうした?福ちゃん」
「お腹空いた」
「わかった。肉でも食うか」
「うん」
「じゃ頑張ってくださいね~」
ノベイラさんはニコニコしながら言った。本当に魔王軍と戦っているのか?のんきだなあ。
登録所から出てカフェを見つけた。
「お、ここ旨そうだ」
「良い匂い……」
そして軒先の看板を見た。それは……。
「ただのトーストが200ゴールド!? 食えないぞ!」
「たかちゃん」
「ん?」
「たかちゃんがやってたゲームあるじゃない?」
「ああこういう世界が舞台のやつな。で、俺は剣士だからRPGってやつにあたるかな」
「それだとモンスターを倒せばゴールドが手に入ったよね」
「福ちゃんそこまで理解して観ていたのか。頭いいんだな」
「えへへ」
「じゃ、狩りに行くか。ついでに武器屋に寄っていこう」
俺達は街を歩いた。日本人の俺にはヨーロッパへ観光しに来た気分だ。通行人に道を尋ね、武器屋へと向かった。ドアを開けるとガタイのいいおじさんがいた。
「すいません、刀あります?」
「あるぜ! 500ゴールドだ!」
支度金足りてないじゃん……。
「あの初心者なんですが100ゴールドで買えるものは……」
「悪い。無いな」
この世界にはこん棒もないのか……?
「こん棒とかは?
「うちじゃ取り扱ってないね。それなら自分で太い木でも折ってくるしかない」
「あたしが息で木を武器に変えてみるわ」
なるほど。それで木を加工するのか。俺はお辞儀をして外に出た。
「頑張れよ~」
街の木は切っちゃいけない気がする。外に出るか。丸腰で。
「あ!」
福ちゃんが走っていった。野ネズミを発見したようだ。しかしこの世界の野ネズミというのは……デカい!
「たかちゃん。あたしに任せて!」
福ちゃんが炎を吐いた。それで一撃必殺だった。
「これでしばらくいけるわよ」
チャリン! と音がすると2ゴールド落ちていた。
「ごめんな福ちゃん。しばらく頼らせてもらうよ」
「いいわよ」
思い出した。木を切らないと。
「何考えてるかわかってるわ」
適当な木を見つけ福ちゃんが冷気を鋭い形にして出すと木はあっさり切れた。さらに冷気で加工していく。木の棒ができた。
「福ちゃんありがと、大好き」
「あたしもよ。たかちゃん」
その後俺達は野ネズミを狩りまくるのだった。