かみ
屋上から飛び降りるシミュレーションを毎日していた。
屋上というのは見知らぬマンションやビルの屋上を仮定したわけではなく、私の通う中学校の屋上だ。
5階建てのそこからは、飛び降りて地面に頭が当たったらおそらく私は死んでしまうだろう。
私は死にたくなかった。
死にたくないから、屋上から飛び降りていかに生き残るかのシミュレーションを毎日していた。
重要なのはやはりどこに落ちるかだろう。
例えば花壇なら、花や柔らかな土が私を受け止めてくれるだろうか。
そんなことはない。花も土も、私が落下したらその衝撃に抗うことなどとうてい無理だ。
例えば木の上なら、うまく私が地面に当たらないように受け止めてくれるだろうか。
そんなことはない。木に当たり私の身体が引き裂かれ傷だらけになってから落下するか、下手したら私の体に木が突き刺さるオブジェが出来上がるだけだ。
では、プールならどうだろうか。
あらかじめ水をいっぱいに入れたプール。
通常のプールなら無理かもしれないが、深い深いダイビング用のプールなら私は水の中に落ちて死ぬことはないかもしれない。
よかった。
私は死ななくて済むのだ。
もし屋上から飛び降りた時はダイビング用のプール施設を目指そう。
私は安心して、授業に集中することにした。
もう屋上の事を考えなくて済むことが嬉しかった。
放課後、私は少年と田んぼに遊びに来た。
少年は私を飛ばし、私は田んぼの上をゆらゆらと飛んだ。
私はプロペラがないから上手く飛べないけど、屋上から飛び降りるシミュレーションが役に立った。たしかに私は少しづつ落下をするが、うまく手を使い空気抵抗を調整して落下までの速度を落としたり、方角を調整することができた。
すごい。
まさかこんなところで役立つとは思わなかった。
シミュレーションをしといてよかった。
何も考えずに飛ばされたら、どこに落ちるかわからないから。私は泥をさけ、綺麗にゆるやかになんども落下した。
少年は楽しそうに私をなんども飛ばした。
少年はどんどん盛り上がってきたのか、私をいっそう高く高く勢いをつけて飛ばした。私も、高く高く飛ばされたことが楽しくて思わず空にぐいんと近づいた。
少年が私がどこに落下するのか気になって追いかけてくる。
私はどんどん高く遠くまで飛ばされる。
私は思ったよりもずっと高くにきてしまったらしい。
田んぼを超えてしまった。
私は心の中で少年に謝った。
私は崖を超えて巨大な滝にたどり着いた。
滝の下には深い深い巨大な湖がある。
水だ。
私が落ちても死なない場所。
私は安心して落下した。
ゆるやかに。ゆるやかに。ゆっくりと。
私が水面に触れると、水が私の体に染み渡るのを感じた。
私の身体は水分を含み少しづつ重くなり沈んでいく。
ぐしゃぐしゃにふやけた私の体を銀色の魚達が食べている。
End.