彷徨う記憶製造装置2号
水の散歩をしていたら水が逃げてしまった。
しっかりと首輪をつけた筈なのに、ふと私が振り返るとリードの先には濡れた首輪と湿った土があるだけだった。
水を探そうとしたら雨が降ってきて、土は満遍なく湿って泥になってしまい、私が散歩をしていた水と雨水の区別はもうわからなくなってしった。
私は雨水に打たれながら泥の道を歩く。
ザアザアと、雨は降り続けた。
泥の道を歩いていると、セミがいた。
セミは私と同じくらいの大きさで、黒々とした丸い瞳が私をじっと見つめていた。セミは歩く私の背中にぴったりと張り付いてきた。
ザアザアと、雨はまだまだ降り続けた。
私はさらに泥の道を歩く。
歩いてるうちに、だんだんと背中のセミに、愛着のような気持ちが芽生えてきた。セミは相変わらず私の背中にぴったりと張り付いていた。私はセミを守ってあげなきゃという気持ちになった。
ザアザアと、雨はどんどん激しくなる。
セミは、羽がびっしょりと水に濡れていて飛ぶことができない。雨にずっと打たれ続けて足も2本失っている。
セミは死んでしまった。
それに気がついたのは私が歩き続けてから一晩経って、雨が上がってからだった。
死んでしまったセミが、いつ死んだのかもわからなかった。セミは、初めて会った時と同じように、しっかりと私の体にしがみつき、ぴったりとくっついたまま死んでいた。
死んでしまったセミは、いったん背中から取り外すと、コロンと泥の上に落ちた。硬直していてぴくりとも動かないセミは、黒々とした丸い瞳で私を見ていた。
End.