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前編

 肉片と液体に姿を変え飛び散り逝った。遺された子供は、自分の両親の最後を、監視カメラの映像で知った。


「嘘ではありません、哀れな子よ」


 連れてこられた先で見せられ、息を飲んで言葉を失う。何度も巻き戻し、繰り返しそれを見た。何時ものカフェのオープンスペース、街路樹の木陰を利用した、ガーデンテーブル、椅子に座っている両親。


 何か楽しそうに話している様に見えた。


 何か難しい話をしている様に見えた。


 これはあの街灯にある、カメラかな、あそこにあるって僕は指差した事がある。写らぬ場所まで細かくわかる子供。


 何時ものカフェ、人の数から休日だ。一昨日?お休みにしかそこには行かないもん、幾つか写りこんでいるテーブルには、よく見る人の姿もある。


 ジジジ、ノイズが入る。端からフラフラと子供が出てきた。女のコ?男のコ?分からない、胸にぬいぐるみ?人形?何かをぎゅぅぅと抱えて。


 母がその子に気がついた。

 父が立ち上がると叫んだ。 




 ――、嘘だ!嘘!おとうさん、おかあさんは……空港で僕を待ってるもん!キャンプが終わったら、迎えに来てくれる……、こんなの嘘だ!


 見た事を、理解した事を全力で打消そうとする子供。


「いいえ、迎えに来てくれません。見たでしょう?悪い国の教えに従った、子供が爆薬を仕込んだ人形を抱え……貴方のご両親は……聖母の庭へと旅立たれたのです」


 シスターが、ゆっくりと、かみ含める様に教える。


「聖母様のところに?そんなの信じない、だって、だって、サマーキャンプが終わったら、お土産話を聞かせてって、見送ってくれて、どうして?なんで?だれが?」


 哀れな子よ、椅子から立ち上がり、滂沱に涙を流し、震える子供を、シスターは優しく抱きしめ、祈りの言葉を唱えた。


「おとうさん……おかあさん、おかあさん……ほんとに、ホントなの?」


 柔らかな腕の中で、涙尽きぬように流し泣く子供は懸命に問いかける。。


「なんで?だれが、どうして?悪い国の教えに従ったって……そんなの知らない、そしてなんで、僕のおとうさんや、おかあさんが……何も悪いことしてないよ」


「ええ、ええ。本当に嘆かわしい。ここと違う国があるのですよ、その国の教えに、従さわる得ない人々がいるのです。貴方のご両親は、そこから逃げ出した善良なる魂の持ち主を、助ける行いをなさってました。お父様達は、殺されたのですよ」


「だれに?小さい、あのコ、小さいよ……なんでそんな事に使うの?小さいよ……小さいコ、逃げれないの?一人だったよ」


 しどろもどろになる子供。見たフラフラとした彼より年下な子供の姿が、目に焼けついている。


「お薬で暗示をかけていると聞いております、使命を果たすと、神の美園に行けると、あのコのご両親に会えると、あのコは信じていたのですよ、そう思うように、大人達に仕組まれたのですよ。悲しい、許せない事です。いけない事なのです」


 シスターは身体を離すと、子供に視線を合わせるよ様にしゃがんだ。首から銀の鎖を外す。輪の中心には、聖母の御印が下がっている。子供にそれを与えた。


「今は……ここでお休みなさい、貴方の家は既に、奴らに破壊されありません、そしてこの箱を、中にご両親の形見が入ってます」


 しゃがんだままでシスターは、手のひらに入る小さい箱を取り出すと、彼の手にそろりと持たす。首に下げた御印をきちんと整えてやる。


「家……無くなっちゃったの……本当に?おとうさんも、おかあさんも……みんなみんな……、なんで?どうして」


 どうして、なんでと繰り返す子供。

 額にひとつキスを与えたシスター。


「どうして、なんで?どうして、どうして?」


 子供はそれしか話さない、ジジジ……とパソコンのモニターの音。外から鐘の音が流れて来る。部屋をそろりと出ると、カチャリと静かに外から鍵をかける音を遺してシスターは消える。


「どうして、どうして?神様は、いるの?いるんでしょう、なんで、なんで……」


 高い塔の上の部屋で、子供が一人箱を握りしめ、首から下げられた銀の御印をチラチラ揺らしながら、立ち尽くしていた。


 ジジジ……ノイズの音がモニターから流れていた。



 ☆☆☆☆☆


 なおん、とすん、とした柔らかい重みが、ブランケットにくるまり眠る彼の夢を閉じた。コォォと静かなエアコンの音。カーテンの隙間から、冴えた月の光が、フローリングの闇色を、割るように差し込んでいる。


「夢か……。どうした?」


 ふみふみと寝具を踏み、男の枕元迄近づくと、スリスリ甘える猫。ぺたんと倒した耳、頭をよしよし、と撫でるとゴロゴロと喉を鳴らす。


「何かお前も飲むか?」


 喉が乾いた男はソファーベッドから、ゆるりと身体を起こす。立ち上がり冷蔵庫へと向かう。すとん、と猫もその後を追う。一人と一匹、どちらの足音も立ち上がらない。


「お前は、これ」


 そういう。猫の飲み水は、床の上に置かれた深皿に、いれてある。それを目で示した男は、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。それを持ちソファーベッドへと戻る。


 ピチャピチャ……軽い音立て猫が水を飲んでいた。口にそれを含み飲み込むと、冷たさが、循環をしている血潮に入り込み、身体中に広がるような感覚に包まれる。


「夢を見たか……、なんであんなものを、何時までも後生大事にいれているんだろう、消去すりゃいいのに……」


 ふと、見たくなる過去のソレ。シスターに無理を言って、映像をダウンロードしてもらった。生きている最後の姿。そして逝くきっかけが、そこにはあった。


 ――、ほんとうに、そうだったのだろうか。それとも……、何処かで生きているのではないか?助かって……、でもそうしたら何故に出てこない、いや、死んでる、あの映像に嘘は無い。


 キャップをしめると、床の上に水を置く。ごろりと寝転がり目を閉じる。おぼろになった両親の姿、映像に残る姿、フラフラとした子供の姿、鮮明なシスターの姿、そして顔見知りの彼女の姿が浮かんでは消える。


「シスターか。今思えば怪しいけどな、身寄りの無い俺を引き取って、育ててくれたけれど」  


 ガランとした部屋、ソファーベッド以外家具は無い、荷物を詰め込んだデイパックが、部屋のすみにまとめられた荷物と共に置かれている。


 水を飲み満足したのか、猫がてしてしと、フローリングを歩く。それを目で追っていると、携帯に着信音、こんな夜更けに誰、と彼はそれに出た。


「もしもし、月が綺麗、フフフ、今、部屋で飲みながら浴びてるの」


「浴びてる?何やってるの?こっちは明日があるから水」


 相手は彼と馴染みの彼女。


「月光浴、私はひと仕事終えて、帰ってきたところよ、なのでワインを開けちゃった、ふふ、月光にかざすと、綺麗よぉ」


「ちぇ!いいよな、じゃそっちは明日引き払いか……」


「そういう事、貴方も明日が終われば、そうなんでしょう?数日はホテルを巡るわ、何処かで落ちあわない?」


「どこで?」


 他愛のない話をやり取りしている時に、なおんと床を割る様に差し込む月光の中に、猫の姿。男がふと思いつ

 く。


「あ、いいこと思いついたから、夜更しするなよな」


「そっちこそ、明日があるんでしょう?早く寝たら、じゃあ……」


 そういうと、電話を閉じた彼女。誰か夜更しさせてんだよ、と苦笑すると。立ち上がり、冷蔵庫から冷えてるグラスを取り出す。


 食器棚さえもない、食事は全てテイクアウトな生活。酒を飲むのに、お気に入りのそれが、ひとつふたつがあれば事足りる。 


 ふたつっきりしかないそれを取り出す。床の上に入り込む月光の中に置く、首から銀の鎖を外すと、それに通してある一組の結婚指輪をグラスに入れる。


 チャリン……と澄んだ音がする。ソファーベッドの下に置いてるミネラルウォーターの残りを、二つのグラスに分けて注いだ。


 4ブンのイチの水。沈む指輪。月光が入り込む水。


 床にペタリと座る。光は床を進むにつれ広がっている。それがハタハタと動く、少しばかり開かれている窓から、猫がフラリと出ていったらしい。飼い猫でないそれは、気まぐれにここを訪れている。



 水のグラスを取り上げた。シーグラスのそれ、かつて家族がいた頃、父親は緑、母親はブルーのグラスで飲んでいた事を思い出す。ぼんやりとしか思い出せないが、グラスの色は覚えている。


 目の前に掲げた緑色。中には両親の形見が沈んでいる。床に置いてるブルー。しんとした光が、静かに全てを包み込む。


 夜が明けたら……、仕事に出なければいけない。夜は警戒をしているターゲットの男、ある教団に、金銭的援助をしている男、表向きは慈善活動家の男。


 フラフラとし抱きしめている人形、それに組み込まれている爆薬、あのコは……神の美園に行けたのだろうか、


 肉片と液体に成り果てた両親は……、聖母の庭で過ごしているのだろうか。


 あの部屋で混乱が落ち着き、運ばれる食事が取れるようになった頃、与えられたパソコンで、事件のあらましを調べると、父母以外にも、多くの人が亡くなっていた。


 過去を思い出す。ヨンブンイチの水の色は、蒼く碧い、光が宿る、グラスをカチンと合わせて鳴らす。


 それを口に含む。チャリ……と傾き囁く音立てる指輪。


 ゴクリと飲み干せば、記憶がチリチリと痛みくすぶり始める。


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― 新着の感想 ―
[一言] ふおおおお!!! これは非常に好みの作風ですよ!! 続きが楽しみです♪
[一言] また、切り口の違った作品を書かれましたね。 続きが楽しみです。
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