第92話 孤児院への報告
オレ達はミルファの育った孤児院へ向かう途中だ。
ケントが行きたくないと騒いでいたが、ミルファのSっ気が発揮され、半ば脅しに近い形で連行することになった。
以前は馬車で行ったのだが、今回はまだ時間もあるので歩いて向かう。
道中ケントは「絶対にメイさんの事には触れるなよ。」と、念を押してくる。
そこまで言われると逆に触れたくなるのが人間の心情なのではないだろうか。
実はルナも孤児院育ちだという。
だが、その孤児院は今はもう存在しない。
亜人を中心とした子供を引き取っていた孤児院だったのだが、その実態は亜人の奴隷斡旋所だった。
ロードプルフには奴隷商は存在しない。それを逆手にとった犯罪組織で、他の街へ売っていたようだ。
一年前ブラッドローズによってその実態が暴かれ、孤児院は廃業。子供達は其々別の孤児院へと引き取られていった。
ルナは年齢的な事からそのまま独立しようと考えたらしいが、ソニアに声を掛けられそのままブラッドローズに加入する事となったようだ。
もしかしたらあの孤児院から移ってきた子がいるかもしれない。
ルナはそんな期待を胸に、ミルファの育った孤児院へと足を運んでいた。
「なあ、お前らが以前孤児院へ寄付した金っていくらくらいなんだ?今後俺が寄付する時の参考にしたいから教えてくれよ。」
オレとミルファは顔を見合わせどうしようか考える。
別に教えるのは構わないが、参考になるとは思えなかったのだ。
「オレは構わないぞ。ミルファがいいんだったら教えてやればいいんじゃないか?」
「うーん……なんか教えるのは恥ずかしくて……」
「あー、やっぱいいわ。何となく想像ついたから。」
その方がいいと思う。懸命な判断だろう。
このメンバーでそんな話をしていたら、あっという間に孤児院にたどり着いた。
楽しい時間は早く過ぎていくとはこういう事を言うのだろうな。
◇
「あら?ミルファ!また来てくれたの?レイジさんも。子供達も喜ぶと思うわ。」
「こんにちは、マザーサリサ。早くもまた来ちゃいました。」
マザーサリサはミルファとオレの再訪を心から喜んでくれているようだ。
来てよかったと本当に思う。
「こっちの子は初めてね。初めまして。よろしくお願いします。」
「ルナなのです。宜しくです。」
ルナの挨拶にマザーサリサは少し戸惑ったようだったが、しっかりと笑顔で答えていた。
「此方は……まあ、ケント!来てくれたのね、嬉しいわ。」
「た、ただいま、マザー。」
ケントも此処で育って巣立っていった子供の一人だ。
親としてその姿を見れるのは嬉しい事なのだろう。
「さあさあ、中に入って。歓迎するわ。」
孤児院の中へ入っていくと、子供達が一斉に集まってきた。
男の子はオレとケントに。女の子はミルファとルナに。まあ、この年の子はこうなるよな。
この孤児院から冒険者として巣立っていったケントの人気は凄まじかった。
男の子は次々とケントに質問をしていく。
最初は照れくさそうに話していたケントだったが、次第にらしさを取り戻していき、手振りを交えながら今までの戦いを説明していた。
そんなケントを遠巻きに眺めている女性がいた。先程ケントの家にいた女性、メイだった。
「そんなトコで眺めていないで近くに行ったらいいじゃないですか?」
後ろから話しかけられて焦りだすメイだったが、直ぐに冷静になり何事もなかったように振舞う。
「先程はまともな挨拶も出来ずにすみません。えーと……」
「ああ。レイジです。一応ミルファと付き合ってるっていうのか……」
「レイジさんですね。あの、お願いがあるんです。」
「大丈夫。誰にも言わないですよ。ケントにもしつこく言われてますから。」
その言葉にメイはホッと胸を撫で下ろす。
「声を掛けたのはケントの様子を聞きたかったからです。アイツ、大丈夫そうですか?」
メイはパウロの事だと直ぐに理解し、この数日のケントの様子を教えてくれた。
パウロが亡くなった日のケントは、目も当てられない程の落ち込みようだったらしい。
だが、埋葬後にパーティで集まってからは元気を取り戻していたとの事だ。
聞く限りは、マッドネスサイスは今後も今までのように活動していくのだろう。
そこまで聞いた所で子供達が集まってきてオレは連れて行かれてしまった。
本人にはなかなか聞き辛い事は聞けたのでとりあえずいいだろう。
その後は男の子達の戦闘訓練にケントと二人で付き合っていた。
その際にケントから「メイさんと何話してたんだ」と、迫られたりもしたが、本人に聞けと誤魔化しておいた。
オレはケントのヤキモチを焼く姿を見れたので結構満足だな。オレだってミルファがケントと話してるのを見て何も思わない訳ではないんだからな。
実はオレが子供といる時は、マザーかシスターの誰かが必ず監視をしていた。
前回来た時に、子供にお金を預けたりしたので、同じ事をやらないか監視しているのだろう。
そんな何回も渡したりはしないのに。用心しすぎだよな。
ただ子供達にはいい物を食べてもらいたい気持ちはある。
なので今回はオークマジシャンの肉を提供しよう。
一匹丸ごと出したら流石に泣き出す子もいた。
もっと渡してもいいが、それだと腐らせてしまうだけだろう。
これをこの場で下手くそなりに解体して渡しておいた。
女の子の方では、ルナが育った孤児院で一緒だった子との再会があったようだ。
狸の獣人らしく、丸くて小さい耳がギリギリ分かる程度で周りの子といても全然違和感がなく普通に溶け込んでいるようだった。
その事をルナは泣いて喜んでいた。ついでにミルファも貰い泣きをしていたみたい。
帰りにルナは来てよかったと、本当に喜んでいた。
「マザー、オレ達もう少ししたら旅に出るんです。そうなったら暫くは来れなくなると思うので。」
「そうなんですか。寂しいですが、仕方ないですよね。気をつけて行ってきてください。
ミルファを宜しくお願いしますね。」
マザーサリサに今後来れなくなる旨を伝え、オレ達は孤児院を後にした。
いつかまた再訪の約束を交わして。
「ケントとルナはこの後予定ある?」
「ないです。」「特にねぇな。」
「あの時出来なかった打ち上げでも行かないか?」
全員が快く快諾し、いつもの酒場へ行く事にした。
店は思いの外混んでるようだ。
思った以上の金が転がり込んできたブロンズランクが、連日騒いでるようだ。
オレが音頭をとり乾杯をし、最近の辛かった出来事を吹き飛ばすように騒いだ。
ミルファの体調が心配ではあるが、問題ないと言っていた。
少し酔いが回ってきた頃、ケントが話を振ってきた。
「さっきマザーと話していただろ。旅に出るってホントだったんだな。」
ケントは聞いていたようだ。この席でタイミングを見て話すつもりだったが。
「ああ。どっちにしろオレとミルファは既にパーティに居場所がなかったしな。」
「居場所がないって?どういう事だ?」
どうせその内噂になるのは明白だったので、ケントには包み隠さず全てを話した。
この街のゴールドランク四人が、パウロの仇討ちには力が足りないので修行に出る事。
その為、オレとミルファはロードウインズを脱退した事。
ブラッドローズはソニアとルナが脱退、他のメンバーだけで活動は続ける事。
そして、明日オレがシルバーランク昇格を掛けて模擬戦を行う事。
「ちょっと待ってくれ。一旦整理するから。
まず、其々のパーティの事は置いといて、お前、シルバーランク?どうなってんだ?」
「単にオレの実力?」
「ふざけてないで真面目に答えろよ。」
「なんでだっけ?スタンピードで活躍したから?」
「は~っ。まあ、お前だったら納得だわな。しゃーないから応援くらいには行ってやるわ。」
「おう。あ、忘れてた。ケントもランクアップな。てか、ミルファとルナはもうしたのか?」
「レイジさんと一緒にするのでまだですよ。」「なのです。」
「おい!オレも?初耳なんだけど?」
ギルド長はケントには話していないようだ。
状況的に無理だったのかもしれないな。
「ギルド長から直接聞いたから間違いないぞ。」
「そうなのか。じゃあ俺もお前と一緒にランクアップ手続きすれば問題ねぇな。」
ミルファとルナは分かるが、ケントまでもがオレと一緒にとか言うのはキモイな。
口にはしないけど。
「……それとゴールドランクの人達が……」
ケントはパウロの死が切欠でゴールドランク全員が更なる力を付けに行く事に、何か思う所もあるようだ。
「皆が其々動き出してるんだよな。お前はどうすんだ?この間は断られたけど、俺達と来る気はないのか?
ハーレムパーティに一人孤独かもしれないけどな。」
「……考えとくわ。」
また断ると思ってただけに意外な反応だった。
エイル達ゴールドランクの動きがケントの考えを変えようとしてるのかもしれない。
「シルバーランクに昇格したら数日で出発だ。返事待ってるぞ。」
そして、オレのシルバーランク昇格を掛けた模擬戦の日を迎える……
連日ブクマ登録者数が増加してます。
大変ありがたいですね。
増えていく読者に飽きられないよう、頑張っていく次第であります。




