第91話 最後の換金
明くる日……
模擬戦を明日に控えたこの日はオーグストンとの約束に向かうにあたり、ルナとケントにも声を掛ける事にした。
「ケントの家って何処だ?」
「え?……知らないです。そう言えばケントって何処に住んでるんでしょうね。」
と、直ぐに詰んだのだった。
エイルかディル辺りなら、マッドネスサイスの誰かの家を知らないだろうか?
とりあえずダメ元でいいから聞いてみるか。
「誰かマッドネスサイスのメンバーの居場所って知らないですか?」
皆に問いかけたが、答えたのはディルだ。
「シルバーランクのダニエルの住処なら知ってるぞ。一緒に行ってやろうか?」
「うーん。いや、折角ですが場所だけ教えてもらえれば大丈夫です。ケントの住所が知りたいだけなんで。」
ディルは「待ってろ」というと、一枚の羊皮紙に地図を書いて渡してくれた。
それを見てみると、此処からは割と近いようだ。
先ずはルナを迎えに行って、それからケント探しにするとしよう。
ルナを後にして出かけてしまっても困るからな。
ルナはまだ家にいたようだ。と言うより、オレ達が来るのを昨日も待っていたとか。
聞くと、ブラッドローズは解散ではなくソニアの脱退という形になったようだ。
その際にルナも脱退の旨を話したらしい。
メンバーの多くはそれに反対したらしいが、ソニアだけはオレ達と共に行動する事が分かったようで、他のメンバーの説得を手伝ってくれたようだ。
今度オレからも感謝を伝えておかないとな。
◇
マッドネスサイス所属、シルバーランクのダニエルは、実質マッドネスサイスのナンバー2の実力者だ。
ジョブはディルと同じ狙撃手で、スタンピードでは外壁上サポートに徹していたらしい。
ディルに書いてもらった地図を頼りに進んでいくと、10分程でダニエルの家にたどり着き、玄関のノッカーを叩くと本人が出てきた。
ダニエルは酷く憔悴した顔をしていた。
パウロの死をパーティ内で誰よりも悲しんでいるのはこの人なのかもしれないな。
そんなダニエルにケントの住所を聞いてみた。
「ああ、隣の建物がウチの寮になってる。ケントは其処の1階の3号室だ。多分行けば分かる。」
それだけ言うと、直ぐに扉を閉められた。
あまり人と関わりたくないのか、結構冷たくあしらわれたな。
こんな時に訪ねたオレが悪いのかもしれないが。
ケントの家は隣の建物の1階3号室と言ってた。
行ってみるか。
コンクリート造りのその建物は、通路の壁は一部くり抜かれており光が差し込まれている。
通路を進んでいき入口から三部屋目、此処がケントの住んでる家だろう。
ノッカーは付いていないのでノックをする。
しかし、中から聞こえてきた声は女性のものだった。
「どなたですか?」
出てきた女性は二十歳前くらいの年齢だろうか。
茶色い頭髪を三つ編みにした綺麗な女性だった。
「あ!メイさん!」
声を上げたのはミルファだ。
メイ……確か孤児院で働いてるシスターだったか。
たまにケントの部屋の片付けに来るとか言ってたな。
「え?……ミルファちゃん?どうして此処に?」
「メイさん!誰か来たの?……お前ら……」
奥からケントが出てきたが、オレ達の姿を見て怪訝な表情をしている。
オレ達がこの場所に来るなど考えていなかったのだろう。
「悪いな。ダニエルさんに聞いたんだ。ブロンズランク試験の時の素材あるだろ。あれの換金に行かないか?お前にもそれを受け取る資格があるだろうからさ。」
ケントは少し困っているようだ。
パウロの事とかで、家を離れる事が出来ないとか何か事情があるのだろうか。
「それは構わないけどな……ミルファ、メイさんが此処にいる事は孤児院には黙っててもらえるか?
立場上バレたら不味いんだよ。」
「だと思った。貸し一つね。」
「ごめんねミルファちゃん。その……色々と……」
「?どういう事?もしかしてメイさん、私がケントの事を好きとか思ってます?
絶対ないですよ。紹介しますね。この人が私の愛するレイジさんです。」
ミルファは申し訳なさそうにしているメイの勘違いを正そうとオレを紹介するが、もっと紹介の仕方があるだろ!
何だよ、愛するって。いや、全然嬉しいんだけどな。
「どうも。ミルファと一緒に冒険者をしているレイジです。宜しく。」
「貴方がレイジさんですか。孤児院で皆が貴方の話をしてました。
ミルファちゃんが凄くカッコイイ人を連れてきたって。特に小さい男の子には大人気でしたよ。」
あまり持ち上げられるのには慣れていないので、それくらいで許して欲しい。
小さい男の子は一番遊んでたからな。あいつらも元気にしてるだろうか。
「メイさん、その話はいいから。少し待っててくれ。準備するから。」
「じゃあ私も孤児院に向かうね。ミルファちゃんもまたね。」
メイは孤児院へと向かっていき、ケントは冒険者の装いに着替え出てきた。
向かうはギルドの解体場だ。
◇
「おう。待ってたぜ。またとんでもない量なんだろ?もう少し早い時間に来て欲しいけどな。」
オーグストンは今日も元気だ。
少し多めに仕事作ってやった方が丁度いいのかもしれない。
ケントは解体場は初めてのようで、辺りをキョロキョロして初めて都会に来た田舎の子供みたいになってる。
オレも最初はそうだったかもしれないな。
「この四人がブロンズランク試験のメンバーなんですよ。
その時に仕留めた魔物と、オレとミルファの二人で仕留めたのを分けて出したいんで、場所占領しちゃって構わないですか?」
「お前が来て占領しなかった時があるかよ。分かりやすく分けてくれれば場所は構わんから出してくれ。」
じゃあ遠慮なく。
先ずはブロンズランク試験の時のメノウリザードを出していく。その数64匹だ。
そしてメノウグレート。更にメノウリザードオニキスを出し、ブロンズランク試験中の討伐魔物素材を出し終える。
そしてそれとは別に、ファスエッジダンジョンで討伐したキラーマンティスやファイタードラゴンなど、置ける分だけを適当に出しておいた。
此処でのオークマジシャンは今後の食用として残しておこう。
「ホントにオニキスの討伐したんだな。前回はエイルの手柄だろ?そういや前回のオニキスのオークション結果は聞いてるか?」
そう、前回ロードウインズで討伐したオニキスは王都でオークションに掛けられた。
その結果は2000万Gだったようだ。
一匹で2000万Gはかなりの金額だ。だが、2000万Gと言われても、今では少しも響かないという悲しい呪いにかかってしまったようである。
今回はオークションではなく此処でそのまま引き取って貰う為、金額は1割引いた額である1800万Gとの事だ。
メノウグレートが30万G、メノウリザードが3万5千Gが64匹なので、総額で2054万Gになった。
「すっげぇ金額だな。見たことねぇぞ、こんなの。」
「ウチもなのです。いつもこんなに稼いでるのです?」
ルナとケントの二人はその金額に驚愕し過ぎてヨダレが垂れる始末だ。
「んじゃあ、これは二人で分けてくれ。オレ達は別に出した分の収入があるから問題ないからな。」
オレがそう言うと、ケントは「何言ってんだコイツ。」とでも言いたげな目で此方を見てきた。
「そういう訳にはいかねぇよ。これは四人でパーティを組んで仕留めた魔物の報酬だ。
ちゃんと分けなきゃ俺はお前に頭が上がらなくなっちまう。」
そうは言っても、昨日貰ったスタンピード報酬の方がそれより多かった訳だしな。
スタンピード報酬を見せれば大人しく引き下がるだろうか。
「ケント、これ見てみろ。」
昨日のプラチナ貨30枚が入った袋を見せてみた。
「おまっ……マジかよ!それってどうしたんだ?」
「これはスタンピードでのオレ個人の収入。これだけでそれより多いんだぞ。
あと、見ただろ。さっき出した魔物の山。ドラゴン種が混ざってるからあれも相当な額になるんだって。
だからオレ達の事は考えなくていいから、マジで。でないと後悔するぞ。」
「わ、わかった。ありがたく貰っておくわ。」
ケントは折れたようだ。
まあ、誰だってそうなるよな。
因みにオレとミルファの分として出した素材の査定完了は明日以降との事だ。
いつも通りなので気にしない。
「これからどうする?夕食には早いし。」
「孤児院に顔出したいです。次行けるのは何時になるか分からないですから。」
「はあ?嫌だぞ!お前らで勝手に行ってこいよ。」
ケントは子供かっ!ダダを捏ねるんじゃない。
「ダメだよ。来ないと孤児院で口が滑っちゃうかも。」
「ミルファ……お前碌な死に方しねぇぞ。レイジはコイツの何処が気に入ったんだか……」
「聞こえてるけど?そんなこと言っていいの?」
「はあ……悪かったよ。付いていくから許してくれ。」
ケント相手だとミルファは鬼だな。
少し羨ましいと思ったのは黙っておく。決してオレにMっ気がある訳ではないのだから。
今週のPV数が今までと比べて異常な程増加してる!
これも新型コロナの影響なのだろうか?
書き手としては最高に喜ばしいんだけど、喜んでいいのか微妙だ……
それでもこの状況の中、これを読んで過ごしてる方がいてくれたら、書き手冥利に尽きますね。
皆で力を合わせて乗り越えましょう!




