第89話 ロードウインズ解散
総合評価1000pt目前記念2話目です。
今日で一気に50pt近く増えてます。本当に1000pt直前になってて吃驚してます。
読んでくれている方々に感謝です。
今日も誰も居ない家へと帰る。今はその帰路に着いている。
だが、昨日と違うのは後でエイル達三人が帰ってくるという事だ。
三人は色々と大変だったからな。今日は今まで食べた事のない物でも作ってあげるとしよう。
そんな中、ミルファが突如何かを思い出したようだ。
「そういえばレイジさん、ルナちゃんの事どうするんですか?」
どうするとはどういう事なのだろうか。
昨夜、ルナに告白された。それに対しオレは、ミルファが一番だけど好きだと答えた。
ここまではいいだろう。
それに対しルナは、それでいい、ミルファの次で構わないと答えたよな。
で、……それだけだったな。うん。どうするとか、そんな話はしていない。
「あ~、返事とかしてないよな。」
そこでオレは一つの疑問を抱いた。
ミルファに対しても何か言ったっけ?
流れでそういう雰囲気になって、そのままじゃね?なんて考えていた。
いや、間違いない。これは良くないよな。
ミルファは全て言葉にしてくれているのに、オレは何も言葉にしていないのだ。
そんな事を考えたら、自分の顔から血の気が引いていくのが分かった。
「ミルファ、あー、聞いてくれるか。
オレはミルファが好きだ。これからもオレと一緒にいて欲しい。」
オレの気持ちをしっかり伝えた。
いやー、年甲斐もなくかなり緊張したわ。
こんな事言うのなんて20年以上無かったからな。
前世の元嫁?そんな小っ恥ずかしい事言える訳なかったよ。
「ど、どうしたんですか?いきなり……わ、私はどんな事があってもレイジさんの傍にいますよ?」
「いや、ルナに言うとかの前に、ミルファにしっかりとオレの気持ちを伝えたいとな……」
「そうなんですか……あ、ありがとうございます。」
ミルファはそれだけ言うと、早足になって先に行ってしまう。
だがオレは、ミルファの顔が真っ赤になっていたのを見逃してはいなかった。
それが答えだと分かり、それ以上は何も言うことなく家路についた。
◇
家に着き、気持ちを切り替えて食事作りに入る。
この家で初めて米を出す事にしよう。
メニューをどうするか……どうせならミルファも食べた事のない物がいい。
丼系は色々食べたしな。オレがレシピを知ってるメニューなど知れている。
丼物を除けば、炒飯、オムライス、カレーライスくらいだ。
ハヤシライス?デミグラスソースの作り方を知らない。
やろうと思えばロコモコなら出来そうだが、流石に芸がないだろう。
パエリア?ガパオライス?知らん!作れる訳がない。
散々迷った末に手っ取り早く作れるカレーライスに決めた。
理由はシームルグに作って置いてきた際に、自分用の固形ルーを用意してあるからだ。
これがあればスパイスから作る必要がない。だからこそ手っ取り早いのだ。
ミルファも手伝ってくれるので、野菜や肉を切ってもらう。
これはオレにとってカレー作りのメインだと思っているのだが、それは全てミルファ任せだ。
何故野菜カットがメインなのかって?一番苦手で上手く出来ないからだ。
学生時代のアルバイト中に指を落としかけてから恐怖症だったんだ。この体ではそんなことも無くなったけどな。
と、まあそんな感じで作り、エイル達の帰宅を待ち温めるだけだ。
白米は鍋で炊いているので多分大丈夫だろう。
先に風呂に入ってしまおうと思ったのだが、此処で一つ大問題が発生した。
「レイジさん、生理きちゃったので今日はちょっとお風呂は無理そうです。」
ショックだ。しかし、こればかりはどうしようもない。
ミルファにウォッシュの魔法を掛け、一人寂しく風呂に入った。
出て行くと、既にエイル達三人は帰宅していた。
久しぶりに一人で風呂に入った為、少しゆっくりし過ぎたようだ。
「おう、レイジ!帰ってるぞー。」
「あ、お帰りなさい。思ったより早かったですね。」
「まーな。お前にも関係する事もあるから、後でゆっくり話すわ。」
オレに関係する事……シルバーランクになる為の模擬戦の事か。
オレが考えられる範囲ではそれしか思い浮かばない。
後で話すと言ってるから、無理に考える必要もないだろう。
「じゃあ、食事にしますか。」
「そうそう、この匂いは何だ?スッゲーいい匂いなんだけど。」
カレーの香りにエイルは既にヤられてしまっている。
マリーに至ってはキッチンでその正体を確かめているくらいだ。
オレの自信作だからな。堪能してもらおう。
白米を確かめるが、特に問題はなさそうだ。
ふっくらといい仕上がりになっている。実に美味そうだ。
カレールーを掛け、完成だ。
いよいよ実食だ。カレーを不味く作る方が難しいって言うけどね。
一口食べて驚いた。リンゴもコーヒーも無いので隠し味など何も入れていない。
だが、この味は多種多様な隠し味を入れたようなコクとまろやかさがあるのだ。
多分その秘密はオレが作ったルーにあるのだろう。
美味いカレーをイメージして出した物なので、この味がそのまま出されているのだと思う。
勿論パーティメンバーもこの味にはメロメロだ。
エイルとディルは既に二杯目だ。ミルファまでもが、おかわりする勢いだからな。
食後、片付けを終えると、エイルの大事な話がはじまる。
部屋の中はオレとミルファの魔法で明るくしておいた。
エイルとマリーは驚いていたが、ディルは一度見ているので、この使い方を分かっていたらしい。
「それじゃあいいか?んー、先ずはレイジの事からな。
おっさんに聞いたぞ。シルバーランクになる為の模擬戦を行うってな。
その日取りが決まった。準備もあるだろうから、三日後だってよ。
場所は領主軍騎士練兵所だ。ギルドにはそんな施設が無いからな。使わせてもらえるよう許可を取ったようだな。」
シルバーランクになる為の模擬戦が決まった。
相手はブリュードルとラッセル、シルバーランクの二人だ。
どちらか一人と対戦と言われたが、誰にも文句を言わせない為に二人同時に対戦する事をオレから提案したのだ。
「二人同時とはな。お前なら勝てそうだけど、油断はするなよ。相手はシルバーランクなんだからな。」
「あら?ラッセルってエイルが合格させた人じゃなかった?確かアンタお腹壊して……」
「ちょっと待て!その話は今は関係ないだろ?」
あー、今のやり取りで理解出来てしまった。
ラッセルはシルバーランクで唯一オークに負けてた男だ。
何故そんな弱い奴が居るのか不思議だったが、試験官をしていたエイルが問題だったという事だろう。
まあ、今回はその馬鹿をいい感じで利用させて貰うとしようか。
「……それじゃあ、本題だな。俺達ロードウインズは、本日をもって解散する事にした。」
ん?解散?どういう事だろうか。
いや、確かにオレとミルファは抜けさせて貰う事を考えていた。
だが、解散するとなったら話は別だ。
どうしてそうなったのか、理由が知りたい。
エイルは神妙な面持ちで、次の言葉を詰まらせている。
助け舟に出たのはマリーだった。
「いきなりでホントごめんね。私達三人とブラッドローズのソニア。ゴールドランクの四人で暫く武者修行に行く事にしたの。
……絶対にパウロとサフィアの仇を討ちたいのよ。
ディルが教えてくれたわ。パウロのあの貫かれた跡。あれはサフィアが殺られたものと全く同じだって。
相手はオーディン。戦争の神……今のままじゃ絶対に勝てないの。
こんな事に関係のない貴方達を巻き込む訳にはいかないのよ。だから解散して、貴方達は貴方達の道を進んでいってね。」
マリーは目に涙を溜めながら、最後は微笑みながら話していた。
こんな中で、旅に出るから抜けると言い出せるのだろうか。
オレは少し考えたが、後で遺恨を残すくらいなら話した方がいいと思ったんだ。
「すみません。オレ、先日ふと自分がこの世界に来て何がしたいのかって考えたんです。
そう考えて、この世界を旅をしながら色々見てみたいと思ったんですよ。
自分勝手なんですけど、無事シルバーランクになり次第旅立とうと……だから、すみません。解散ではなく、オレの脱退で終わらせて欲しいです。」
「私からもお願いします。私もレイジさんに付いていく事にしたんです。
私も脱退にすればロードウインズの形はそのまま残るんですよね?」
それが意味のあることなのかは分からない。多分全く意味は無いだろう。
それでも解散して原型が無くなって終わるより、オレ達が抜けて三人がロードウインズとしてそのままいて欲しいと言うオレ達の願いだ。
「そうか……大した違いは無いけど、お前達も考えてくれて出した形なんだろう……ありがとな。
じゃあ、レイジのシルバーランク昇格を祝って、旅発つまで俺達もこのままでいよう。」
これで模擬戦では間違っても負けられなくなったな。
オレ達は其々のこれから先の未来を祝し、とっておきのビールで祝杯を挙げた。




