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第83話  パウロの死

「パウロ……何故だ……何故お前が死ななきゃいけなかった……」


 そこには目の前の現実を受け止めきれずにいるゴールドランク四人の姿があった。


--------------------


 時間は少し遡る……


 オレ達がその場からパウロ居なくなってる事に気が付いたのは、10分も経った頃だった。


「あれ、パウロ?アイツ何処いったんだ?」


 最初に気が付いたのはエイルだった。


「そう言えばパウロもサフィアの事覚えていたんだ。アイツもこの十年沢山苦しんでいた一人よね。」


「ああ。アイツがマッドネスサイスを作ったのも、そこで無茶苦茶な育成をしてたのも、全てはオーディンを殺す為と言って……オーディンを殺す?……アイツ、まさか……!」


 ディルは当然胸を締め付けるような不安に駆られた。

 パウロがいなくなった理由。10年前からずっと口にしていた言葉。

 思い当たる節は一つだけだった。パウロの考えは一つしかない。

 そう思った瞬間には走り出していた。


「ディル!?何処へ行くんだ!」


 ディルが急に走り出した理由も行き先も分からないまま、とりあえずディルを追いかけた。

 だが行き先については直ぐに見当がついた。

 オレ達が今向かってる先には()()しかないからだ。

 フギンとムニンの消滅地点。多分ディルはソコへ向かってるのだろう。


 オレ達がたどり着くと、膝をつき座り込むディルの姿と、横になったまま全く動かない誰かがいた。

 いや、既に予想はついていたのだろう。

 オレを含め、誰もがその事実を認めたくないだけだった。


「ディル?それ……誰だよ……あの爆発に誰か巻き込まれたのか?」


 エイルはそんな事を口走りながらゆっくり近づき覗き込む。

 エイルは信じられなかった。信じたくなかったのだ。

 パウロはあの事件が起きるずっと以前から、エイルにとってのライバルだった。

 その為、サフィアの事が起きた後もエイルはパウロがライバルとして突っかかってきてるだけだと解釈していた。

 それがそうではなかったと理解したのは、先程ディルに教えられたからだった。

 パウロには10年分しっかり謝らなければと思っていた。そう誓ったばかりだった。

 だが、その機会は永遠に失われてしまった。

 目の前にある一人の遺体は紛れもなくパウロだったのだから。


「パウロ……何故だ……何故お前が死ななきゃいけなかった……」


 エイルの悲しみに溢れたその声に答える者は誰一人居なかった。

 




 暫くするとシルバーランクの五人を筆頭にルナとケント、他のブロンズランクと次々とこの場に駆けつけてきた。

 ケントや他のマッドネスサイスのメンバーはその場で泣き崩れ、それ以外の者もその悲しき出来事に言葉を失っていた。


 だが、そんな中でも空気の読めない者は何処にでもいるものだ。


「へっ、ざまぁねぇぜ。調子に乗ってるから死ぬんだよ。」


 こいつらはマッドネスサイスの地獄のデスマーチについていけずにマッドネスサイス入りを諦めた連中だ。

 そんな心無い言葉にケントを含めたマッドネスサイスのメンバーがいきり立つ。


「テメェ、コラァ!もう一度言ってみろ!」


「あん?何度でも言ってやるわ。そいつは死んで当然の人間だっつったんだよ!」


「お前……ただで死ねると思うなよ……。」


 マッドネスサイスのメンバーが怒りに震え立ち上がる。

 だがその時、その連中(バカども)が勢いよく吹き飛んでいった。

 後ろから現れたのはギルド長だ。


 ギルド長はゆっくりとパウロの亡骸へと歩み寄っていく。


 ギルド長は魔力爆発の事を聞き、すぐ近くまで来ていた。

 そんな時、ギルドに向かう早馬を見つけ、事の次第を聞かされた。

 だが、その時は信じなかった。いや、信じたくなかったのだろう。

 パウロが死ぬなどあり得なかった。

 ギルド長にとって、エイル、マリー、ディルと共に大事に育ててきた息子の一人なのだ。

 その息子の死を聞かされた。信じたくないのも当然だった。


 しかし現実は残酷だ。

 そこでギルド長が見たのは、胸に大きな穴を開けた紛れもないパウロの遺体だった。

 ギルド長は膝から崩れ落ち、その亡骸に呟いた。


「パウロ……仇を取りに行って返り討ちに遭ってはいけないだろう……なあ……息子(パウロ)よ……」



--------------------



「レイジよ、お前にも色々迷惑を掛けたな。」


 ギルド長はあれから悲しみを直隠し、ギルド長としての業務に追われていた。

 パウロの亡骸はマッドネスサイスのメンバーによって、冒険者ギルドへと運ばれた。

 オレのアイテムボックスで運ぶ事も考えたが、万が一亡き者への冒涜と判断されても困るので辞めておいた。


 あの後、東の森より更にゴブリンの集団が押し寄せてきたのだが、コモン以下の冒険者で対応出来る範囲だった。

 彼らもずっと後方待機だった為、かなりフラストレーションが溜まっていたようだ。

 抜けて来た事を考え、一応オレは街門前に待機していたが、特に問題は無かった。

 これにはミルファとルナもオレに付き合い、共に街門前にいてくれた。


 ケントはマッドネスサイスのメンバーとしてパウロに付いていった。

 パウロに憧れマッドネスサイスに加入したケントにとってもかなり辛いだろう。


 ブラッドローズもリーダーのソニアがパウロとは子供の頃からの付き合いだ。

 今はそっとしておこうと、メンバー達が配慮したらしい。

 そして、それはオレ達ロードウインズも同じだった。

 あの場に居合わせたオレとミルファは、その時からエイルらにどう接していいかも分からず、ただ立ち尽くしていた。

 そしてこの時もあの場にオレは相応しくないと思い、こうして守りの殿を担っている。


 安全が確認され、ギルドへ戻ったところを今こうしてギルド長から話しかけられた次第だ。


「……結局、パウロさんを殺ったのは?」


「全く目撃者は居なかったから、予想の範囲だが……多分オーディンだろう。

 というよりも、パウロ相手にあんな芸当が出来るのが他に思いつかない。

 間違いないだろうな。」


 オーディン……前世ではファンタジーの定番だ。

 そして、フギンとムニンを従えていた神だとか……


「レイジよ、多分今回の魔物素材が大量にあると思うが、暫く待ってもらっていいだろうか?

 他の冒険者連中にはギルドの発表として通知してある。すまないが、宜しく頼む。」


 今回のゴブリン、オーク、オーガ。その全てをオレが一括で回収しておいた。

 別に金には困ってないから、全員で山分けって事で決まったのだ。

 初見の冒険者達はオレのアイテムボックスにかなり驚愕の表情をしていたが、ロードウインズ所属のブロンズランクという肩書きがあれば、もう隠さなくても問題ないだろう。


「それは全然構いません。ただ、予めオーグストンさんには話を通しておいて頂けると助かります。」


「わかった。そうしておこう。それと……エイル達……ソニアも含めて四人だがな、暫く帰らないかもしれないけど心配するな。ギルドが責任もって四人を見ておこう。」


「……分かりました。ウチの先輩方を宜しくお願いします。」


 オレはギルド長に深々と頭を下げ、見えなくなるまで見送った。


「ルナはこの後どうする?」


「とりあえずブラッドローズの皆と合流するのです。その後はそれから決めるのです。」


「そうか。ブロンズランク試験の時の素材売却はケントが落ち着いてから皆で売りに来よう。」


「分かったのです。その時は……ううん、何時でも声を掛けて欲しいのです。」


 ブラッドローズの元へと帰るルナを見送り、ミルファと二人、誰もいない家へと帰ることとなった。



 今回のスタンピードによる被害

 死者 領主軍 78名

    冒険者 ゴールドランク1名

        アイアンランク3名

    合計 82名


 魔物討伐数

 ゴブリン 約900匹

 オーク 208匹

 ハイオーク 43匹

 オークマジシャン 57匹

 オーガ 12匹

 フギン・ムニン

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