第82話 10年越しの悲願 そして……
昨日は日別PV数1位を更新する4788PVまでいきました。
5000PVも夢ではなくなった気がします。
「ねえムニン。折角強くしたのに全部殺られちゃったよ。」
「そうねフギン。此処にいる人間はソレよりも強かったようね。」
フギンとムニン、オレにとって決して忘れる事のない、ある意味因縁の相手だ。
オレとルナに神の記憶操作術を使い、この世の全ての者からオレとルナに関する記憶を無くさせた相手。
こうしてまた相対する事が出来るとは思ってもみなかった。
しかし、オレ以上に激高する人物がいた。
「フギン!ムニーーン!」
ディルはそう咆えると弓を手に取り構えた。
「ねえムニン。あの怒ってる人何処かで会った?」
「いいえフギン。それよりあの人は私達に攻撃するつもりよ。」
「困ったねムニン。反撃した方がいいかな?」
「そうねフギン。敵対する者には神の裁きを。」
二人の手に魔力が集まる。オレが使う最大級の魔法の数倍の魔力が。
「ヤバい……シームルグ!今直ぐ来い!」
光と共にシームルグが現れ、状況を把握するのに時間は掛からなかった。
あらからこちらの様子を伺ってたようだ。
ディルは弓を構えたまま動かない。
まるで金縛りにあってるかのように。
「ディール!早く射てや!ソイツらこそがサフィアの仇だろうが!」
「うおおオオォォォーー!」
渾身の力を込めたパワーアローが放たれる。
だが僅かに遅かった。
ディルの放った矢がフギンとムニンに届く前に、その技は放たれた。
「記憶の奔流!」
虹色の光が渦になり此方に向け放出され、ディルの放った矢も消え去っていく。
「シームルグ、何とか出来ないか?」
「難しいがやってみよう。」
シームルグは少し飛び上がり、その羽を前方で丸めた。
羽先に魔力が集まっていく。オレが感じる魔力量は相手とほぼ互角。
その間に、ディルの放った矢は記憶の奔流に飲み込まれていく。
本格的にヤバい。間に合わないか……
「「「うわあぁぁぁーーー!」」」
全員が絶望し、諦めかけたギリギリのタイミングでシームルグの『七色の羽ばたき』が放たれた。両者の技が衝突したのはシームルグの僅か一メートル前方、本当にギリギリだったようだ。
互の技の衝突地点では、行き場を無くした魔力が次第に膨れ上がっていく。
「レイジ、不味いぞ。我らの力が拮抗している所為で、行き場を無くした魔力が暴走しそうだ。
間もなく爆発するぞ。急いで此処から離れるんだ!」
その言葉にオレ達は驚きはしたが、立ち止まってる暇はないと即座に判断出来た。
「まじかよ……シームルグは?お前はどうするんだ?」
「我の今の姿は精神体だ。実体化してる分本体にもダメージはあるが、問題はない。
早くいけ!時間がないぞ!」
オレは走り出した。オレを待ってたミルファの手を引いて。
ゴールドの五人は既に走り出している。
この時のディルとパウロの悔しそうな顔は一生忘れる事は無いだろう。
魔力は時間と共に大きくなっていく。
これだけの魔力が爆発したらどれだけの範囲が巻き込まれるのだろうか。
シームルグは大丈夫だと言った。
ではフギンとムニンはどうなのだろうか。
シームルグ程ではないが、その距離は50メートルもない。
今のオレ達で200メートルは離れたが、それでもまだ危険な範囲だろう。
あの距離で巻き込まれたなら、もしかして……
「ねえムニン。これは僕達も危険かな?」
「そうねフギン。多分消滅しちゃうと思うわ。」
「でもねムニン。オーディン様の計画は成功したよ。」
「そうねフギン。私達が消滅してもそれは変わらないわ。」
「……ねえムニン。ずっと一緒だよ。」
「……そうねフギン。これからもずっと一緒よ。」
互から発せられた虹色の光は一瞬収縮すると一気に弾け、爆風と共に周囲を消滅させていく。
フギンとムニン、そしてシームルグという神の使い同士の衝突はそこから半径300メートルを消滅させ、そこから更に200メートルをその爆風で吹き飛ばしたのだった。
オレ達は消滅した300メートルラインギリギリまで逃げていた。
最後は先に到達した衝撃波に飛ばされ、辛くも範囲外まで逃れる事に成功していたが、爆風に巻き込まれた事によるダメージは大きく、全員が致命傷を負う状態となっていたのだ。
シルバーランクの冒険者やケントとルナ、領主軍もこの爆風の範囲内にいた為、オレ達程では無いにせよ被害は出ていた。
此方は直ぐにサポート部隊が駆けつけ回復に当たっていたようだが、領主軍には運悪く亡くなった者もいたようだ。
フギンとムニンは跡形もなく消滅した。
見てはいないが、オレ達はそれが直ぐに分かった。
満身創痍の身体を起こし、マリーとミルファはエリアヒールで全員を回復させていた。
何故か一人だけ離れたところに倒れていたエイルには、個別にミドルヒールを掛けていたがそれはどうでもいい。
起き上がると、オレとミルファ、それとパウロ以外の全員に変化が見られたようだ。
見た目には全くわからない。だが、確実な変化である。
それを最初に口にしたのはエイルだった。
「あー!そうだよ!レイジは間違いなくミルファと一緒にウチのメンバーになってたわ!」
それはオレの事を思い出した事だった。
オレだけじゃない。ルナの事も、そして……
「エイル、サフィアの事は分かるか?」
「サフィア?幼い頃からよく一緒に遊んでた、あのサフィアか?そりゃわかるだろ……いや、忘れてたんだな。そうだ……思い出したわ。」
エイル、マリー、そしてソニアも今は亡きサフィアを思い出し、忘れていた自分を悔いている。
そして、ディルの目には薄らとだが光るものが。
「レイジさん、皆さん忘れていた大事な人を思い出す事が出来たんですね。」
「みたいだな。ディルさんとパウロさんにとっては10年越しの悲願だったらしいからな。」
そんな四人をオレ達はただ黙って眺めていた。
皆が記憶取り戻す中、ただ一人その場を離れている者がいた。
元よりサフィアの記憶を持っていて、レイジとルナの事を知らなかった者。パウロである。
パウロはその輪を抜け出すと、魔力爆発の中心地へと向かっていた。
魔力爆発の中心地は雑草の一本も生えておらず、まさしく荒野と化している。
「……これでは生きてはいないか……。」
パウロは万が一フギンとムニンが生き残っていたらと考え、この場に戻ってきていたようだ。
しかし、完全に消滅してしまい、髪の毛一本も残ってはいない。
完全に杞憂だったかと思いながらも、再度周囲を見渡す。
その時、視界に一瞬、本来ならば此処には無いものが入り込んだ。
パウロはそれを確かめるように再度目を向ける。
それは真っ白な体躯に八本の足の軍馬。その背には全身甲冑の大男が乗っている。
見間違えるはずがない。コイツこそがサフィアの本当の仇、オーディンだ。
「フギンとムニンは消滅したか。よもやシームルグを使役する人間がいようとはな。」
オーディンは静かに口を開いた。
だがそれは目の前のパウロに対してではない。
そしてその目は此処より300メートル以上離れた先のレイジを見据えていた。
「オーディン……俺の前に現れるとはな……神だか何だか知らんが、サフィアの仇を討たせてもらうぞ。」
パウロはそう言うとオーディン目掛けてその槍を繰り出した。
「……愚かな」
オーディンはそう言うと、スレイプニルを操り、その場を去っていった。
オーディンが去ったその場は静寂に包まれていた。
それもその筈だ。そこには、胸に30センチ程の穴が空いたパウロの死体だけしか残っていなかったのだから。
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