第80話 ゴールドランクVS強化オーガ
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オレ達四人はシームルグの背に乗り、北西に移動を開始した。
シームルグの言う強力な波動のする場所へと向かって。
その場所までは僅か200メートル。
夜の闇に遮られ肉眼では見えない為、其処の状況はサッパリ分からない。
だからこそ、少しでも早く向かう為シームルグに乗ったのだ。
因みに、あの暴れ馬には悪いが此処で御役御免になってもらった。
その時間僅か十秒。
いや、走れば一分掛かるはずが、十秒で着いたのだ。
かなりの時間が短縮されただろう。
たどり着いたその場所では、エイル、パウロ、ソニアの三人が十体程の魔物と対峙している。
どうも見たことのない魔物だ。
「オーガか!」
ディルの言葉にオレは直様反応した。
オーガもオレの知識にある有名な魔物の一種で、場合によっては鬼としても扱われる事も多々ある。
この暗闇の中なので、オレにはまだその姿をハッキリとは確認出来ていないがディルには見えたようだ。
そう言えばディルは望遠のスキルを持っていたが、その効果が働いているからなのかもしれない。
シームルグは旋回し、オーガ目掛けて突っ込むように飛行する。
そして、三匹程を突き飛ばし停止、オレ達はエイル達の目の前に降りる事になった。
「な、なんだ?コイツは……シームルグ?ディル!マリー!レイジとミルファも?」
目の前に現れたシームルグにエイルらも驚きを隠せないでいる。
しかも、その背中にはオレ達ロードウインズのメンバーが乗っていたのだから、その驚きは他の二人の比ではなかった。
「やっと見つけた。こんな離れた所にいるとはな。見つからない訳だ。」
ディルは漸くエイルを見つけた安堵からか少し饒舌になってるようだ。
「おい!レイジっつったよな?ウチのケントは一緒じゃないのか?」
「ルナもね。てっきり一緒だと思っていたわ。」
パウロとソニアは其々のメンバーであるケントとルナを心配してるのだろう。
「前線にはまだ及ばないと思ってシルバーランクの所で別れました。でも問題なく無事ですよ。」
二人はその言葉に安堵の表情を浮かべ、直ぐにオーガと向き合った。
「気をつけろよ。通常のオーガと比べ物にならない程強いぞ。」
オレは通常のオーガと遭遇した事がないのでその基準が分からない。
目の前のオーガは、その通常のオーガを凌駕した実力を持っているという。
多分オークと同じ強化魔物なのだろう。
それがオレにはどうも引っかかったが思い出せない。
とりあえず目の前の敵に集中しなければと、一旦考えるのを止めた。
シームルグに飛ばされた三匹も戦線に戻ってきており、相手は全部で11匹だ。
前に出ている二匹が同時に動き出した。標的はオレ達を降ろし、前に出たままだったシームルグだ。
シームルグは羽ばたき、それに風魔法を乗せる。
それだけで攻撃を仕掛けてきたオーガは切り刻まれていく。
「レイジ、悪い。この神鳥ってシームルグ様だよな?どうして一緒に居るのかは分からんが、申し訳ないけどオレ達にやらせて欲しいと伝えてくれ。」
オレがシームルグを召喚出来る事も記憶から消されているエイルは、何故オレ達がシームルグと一緒なのかも理解出来ていない。
だがその事には特に触れずに、目の前のオーガは自分達で倒したいようだ。
「ふっ、大丈夫、聞こえているぞ。それならば私は一度消えるとしよう。」
その瞬間、シームルグは煙のように消え去った。
その目の前には、シームルグに切り刻まれ既に虫の息になったオーガが二体。
「不本意だが仕方ねぇ。まずは二匹だ。」
パウロはその言葉と同時に手に持つ槍で一匹を狙い撃つ。
その突きのあまりの速さに、俺の目には槍が五本に見えた。
五月雨突き。その技の前に一瞬で十回もの攻撃を受けたオーガは膝から前のめりに倒れた。
それと同時にもう一匹も首が無くなっていた。
やったのはソニアだ。
手にしている鞭に魔力を通し、高速で弾くことにより一瞬のうちにその首は飛んでいた。
ルナやケントにこの二人と同じくらい強いと言われ調子に乗っていたが、これを見てゴールドランクのレベルの高さにはまだまだ及ばないと実感してしまった。
調子に乗ってごめんなさいと謝っておく。
残りは九匹。ここからが本番だろう。
前衛にオレとエイル、パウロにソニア。
後衛の攻撃役にディル、サポートにマリー、臨機応変に対応する両方を担当するのがミルファだ。
マリーのエリアガードがオレ達を覆っていく。
それを確認すると、真っ先に飛び出した者がいた。
エイルだ。パウロとソニアに最初の二匹を取られたのが悔しかったのか、その動きは凄まじく速い。
そのスピードのまま斬りかかる。が、体表が硬いのか皮膚を少し切っただけだ。
しかしそこからがエイルの真骨頂だ。
直ぐに切り返すと、またそのスピードに乗った攻撃を繰り出す。
直ぐに切り返し攻撃。既にハメ技に等しいエイルの攻撃にオーガは何も出来ぬまま立ち尽くすだけだった。
一方でディルがパワーアロー射っていく。
心臓を狙った一撃だがオーガは腕でガードしている。
それでもディルは射ち続ける。そこでもディルの一方的な戦いが繰り広げられている。
遅れてパウロとソニアもオーガと対峙する。
「おい!ケントの奴も認めた実力を見せてみろ。
エイルとディルは其々あの相手を倒してくる。お前も必ず一匹殺してこい。
それまで俺達二人で残りを抑えておいてやる。」
パウロがオレにオーガと一対一で勝ってこいと言う。
「分かりました。直ぐに終わらせます。」
「ふん。口だけじゃねぇトコ見せてみろ。」
そしてオレは一匹のオーガと向き合う。
構えた鋁爪剣を炎が覆う。魔法剣炎だ。
先に動いたのはオレだった。先制の袈裟斬りを打ち込む。が、オーガは身を翻すように躱し、左フックの要領で殴りつけてくる。盾で受けるもオレは一メートルは弾き飛ばされた。
「強いな……」
オーガは腕を振り回し、余裕の笑みを浮かべて此方へ近づいてくる。
そして走り出し一気に距離を詰めてくる。
「ファイアウォール!」
現れた火の壁。しかしオーガが構わず突っ込んできた。
そして打ち込まれる右ストレート。
「うぐっ」
盾で防ぎに行くが、間に合わず左肩に当たりまた吹き飛ばされた。
尚も突っ込んでくるオーガ。
「やられっパでたまるかよっ!」
痛む左腕を前方に出しオレも攻撃に転じる。
「サンダーショット!」
一本の雷が真っ直ぐオーガに向かっていく。
直撃したかに見えたが、両腕を体の前でクロスさせ防御していたようだ。
だが、動きは止める事が出来た。
その間にオレから間合いを詰めていく。
炎を纏った剣でのなぎ払い。
しかしこれもオーガは両腕でガードしにいく。
残念ながらそれは悪手だ。オーガの両腕は切断され宙を舞う。
まあ、ガードしたからこそ即死は免れたのだろう。
それでも絶叫しながら先のない腕で殴りかかってくる。
一度バックステップで距離をとり、左手を前に構えた。
属性融合で炎と水。火よりも高温で熱した水が相手に当たる事で水蒸気爆発を起こす。
「スチームエクスプロージョン!」
ソレに触れた瞬間、オーガは四散し、その原型を留めてもいない。
使ったオレでさえその威力に驚いている程だ。
ともあれ、先ずは一体、討伐完了だ。
「おう、問題ねーな。」
エイルとディルも一匹ずつ倒し終えて来たようだ。
三人でパウロとソニアの元へ駆けつける。
「かはっ」
その直前、パウロは既に満身創痍だった。
重騎士というジョブの利点を生かし、パウロは普段からタンクとして敵の攻撃を受ける役割を担っている。
それでも普段は、その類まれな体力でそこまでピンチになる事などまず有り得ない。
しかし今回の相手はその攻撃力が凄まじかった。
その一撃一撃で体力が削られてくのが手に取るように分かってしまう。
流石にこれはマズイと守りを固めるがそれは後の祭りだ。
ジリ貧で殺られるのを待つばかりになってしまったのだ。
ソニアはパウロに守られながら、果敢に攻撃を繰り出していた。
しかし、オーガ側もパウロを真似るように一匹が受け手としてソニアの攻撃を守りながら受けきっていく。
エイルの攻撃もなかなか通らなかったように守備に関しては相当高いレベルにあるようだ。
大技を出してもその隙を突かれて結局は此方が殺られる。
打つ手が無くなり詰んだかに思えた。
「うらぁあ!」
オーガの一匹が吹き飛んでいく。
パウロは腫れ上がって閉じかかっている目を見開きその相手を見た。
「ひでぇ顔だなパウロ!一旦下がってマリーに回復してもらって来い。」
エイルはパウロに手を差し出しながら笑みを浮かべていた。




