第79話 最前線、領主軍の危機
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現在、最前線の状況は最悪といっていい程だった。
200名からいた領主軍は既に七割が倒れ、ゴールドランク冒険者であるエイルら三人の行方も分からなくなっていた。
既にオークの大半は倒しているが、その後に現れたのがその上位種であるハイオークとオークマジシャンが約100体。
これらが出現してから状況は悪化。
その原因が、サポート役不在による魔法防御力の低さである。
基本、物理防御力の高い金属防具は魔法防御力に乏しい。
王国正規軍の装備であるミスリルを使用した防具ならば、ある程度のダメージを抑える事が出来たかもしれないが、此処ロードプルフではミスリルを採掘する事が出来ない。
更に、冒険者は動きやすさを重視する傾向にある為、その装備は魔法防御がそれなりにはあるのだが、領主軍の鎧は物理防御ばかりが高くて魔法防御は限りなく零に近い。
その為、領主軍はオークマジシャンの前に次々と倒れていくのであった。
「あそこが最前線だが、領主軍が壊滅寸前だ。ミルファ、サポートと回復で忙しそうだけど大丈夫か?」
「分かりませんが頑張るだけです。とりあえずレイジさんにはガードを掛けておきました。」
「サンキュー。オレは一旦エイルさんのトコに顔出して指示を受けてくる。
ミルファは領主軍後方でサポートしてやってくれ。」
オレ達はそこで別れ、オレはエイル達を探すべく最前線に突入していく。
その時、一部が崩れ、ハイオークが数匹突破してきた。
それが丁度オレの前方だ。
これを倒さなければエイルの下にはたどり着けないのは間違いない。
とりあえず全力で相手をする。魔法剣炎を使い一気に突き進む。
ハイオークを燃やし、切り口を溶かしていく。止まる事なく、前方に立ち塞がる者はこの剣の前に全て燃やされていく。
結局抜けてきたのは四匹だけだったようだ。
そしてたどり着いた最前線。
そこで戦っていたのは領主軍だけであった。
エイル達は見当たらない。
そして目の前の領主軍は苦戦どころか今にも崩れる寸前のようだ。
先ずは此処を立て直す。オレはそう決心し、ハイオークの中に特攻を掛けていく。
近くまで行き苦戦理由に気がついた。
この相手はハイオークではなくオークマジシャンだったのだ。
ファスエッジダンジョン51階層で、散々倒してきた相手だからこそ見た目で判断できた。
領主軍の装備ではコイツの相手は厳しいだろう。
鋁爪剣を構え魔法剣炎を使う。
燃え盛る剣を振り上げ、目の前の一体に向かって振り下ろす。
そのオークマジシャンは、一切の叫び声を上げる事もなく左右真っ二つに分かれていく。
ファスエッジダンジョンの時より余裕を持って倒している。
それは、ファスエッジダンジョンの時は一匹ずつだったとはいえ、それらは常にオレを狙って攻撃してきていたのだが、今回は此方に攻撃を仕掛けてくる奴は殆ど皆無と言っていい程だ。
だからこそ、一方的に殲滅してるように次々と肉片へと変えていく。
因みに此処のハイオークやオークマジシャンは強化されてる様子はない。
「なあ、アイツ……冒険者だよな?一人であの魔法使いオークを倒していってるぞ。」
「ホントだ……俺達助かるんじゃないか?」
領主軍からはそんな声も聞こえ始めてきた。
30匹程倒しただろうか。漸く領主軍が立て直せるくらいまでは押し返すことが出来たようだ。
しかし、それにしては立て直しが早い。
仮にも軍を名乗ってるからなのだろう。そこら辺の統率はしっかりと取れてるという事だ。
そんなオレの考えと現実は少し違っていたようだ。
この時ディルは外壁上を離脱し、マリーと合流後最前線まで来ていた。
オレとは領主軍を挟んで反対側から同じようにハイオーク等を倒していたようだ。
オレがそれに気がついたのはディルのレインアローが視界に入ったからである。
このまま進んだらオレも巻き添えを食うと判断し、一旦下がりミルファと合流後ディルの元へ向かう方針に切り替えた。
「ミルファ、ディルさんが前線まで来てる。合流しよう。」
「少し待ってもらっていいですか?この方の回復だけ終わらせます。」
この時ミルファは後方に下げられた重症人をほぼ回復し終わっていた。
その分魔力残量は枯渇寸前だったのだが、それはオレのアイテムボックスがあれば問題にはならない。
その回復を終えると、アイテムボックスからマジックポーションを取り出し、ミルファに与える。
これはファスエッジダンジョン50階層でオレが作り出した物だ。
因みに味はグレープフルーツ配合のスポーツドリンク風に仕上がっている。
「お待たせしました。行きましょう。」
「ま、待ってくれ。」
呼び止めたのは領主軍の兵士だ。
「ありがとう。お陰で助かった。」
ミルファは笑顔でそれに答え、オレと共にディルの元へと向かう。
ミルファの回復もあり、領主軍は100名程まで戻ったようだ。
軍の中を横切り、反対まで回るとマリーの姿を発見することが出来た。
「見つけた、マリーさん!」
「レイジくん?こんな最前線まで来てたの?危ないわよ、下がってなさい。」
そうか。オレに関する記憶が無くなってから一緒に戦闘をしてない。だから通常のブロンズランクレベルだと思われてるのか。
「今、反対から討伐してたんだけど、ディルさんのレインアローが見えたんで巻き添えを食う前に此方に移動してきたんです。」
「あ!あっちから領主軍が押し返していたのってレイジくんだったのね!そこまでの実力があるなんて……まあいいわ。この先でディルが戦っているわ。手伝って貰っていい?」
答えはイエスに決まってる。その為に此処に来たのだ。
オレは親指を立て、「勿論です。」と、笑顔でディルの元へと向かった。
領主軍前線の10メートル後方にディルはいた。
この位置から味方に当たらない範囲に向かって矢を射ち続けている。
この暗闇では狙いは定まらない為、時折レインアローのような技を混ぜながら少しずつながら相手の数を減らしていた。
「こっちにいたんですね。オレ、反対にいたんですよ。危うくレインアローの標的になるトコでした。」
そんな軽い感じでディルに近づくと、ディルは安堵の表情を浮かべた。
「レイジ!丁度よかった。前衛がいないと、相手を目視出来る距離までは近づけなかったんだ。」
「エイルさん達は何処なんですかね。向こうには居なかったんで。」
「こいつらを掃討してしまえば探しようはある。先ずは目の前のをどうにかするぞ。」
オレは頷き、前方へと走っていく。
領主軍と直接戦っているのがハイオーク。
合間から魔法を使って領主軍に多大な被害を出しているのがオークマジシャンになる。
オレは側面から攻撃を仕掛けるので、オークマジシャンを目掛けてサンダーを放つ。
これは単体攻撃ではあるが、その周囲に麻痺だけを残していくという、このような密集地には最適な魔法だ。
欠点としては、周囲に味方がいたら使えない点か。そういう意味では小規模な範囲魔法と捉えていた方がいいかもしれない。
これを密集地の中心に数発打ち込むと、そこからは鋁爪剣の出番である。
現在オレの進行方向に対して、左に領主軍が構えている。
オークの集団は前方より左右に広がって展開する形だ。
これの右端より順に殲滅していく考えである。
そうする事で、後ろから追従しているディルやミルファにオークが行かない様防ぐのも考慮した動きだ。
ここらの横に広がるように展開しているのはオークマジシャンである。
此方に狙いが来ていない以上全く脅威ではない。
だからと言って時間も掛けてはいられないので、魔法剣炎で一気に攻め立てる。
オークマジシャンが此方をターゲットとして定めた時には、既に懐に潜り込んでいる。
ここにいる以上、魔法攻撃が来る前にこちらの攻撃で相手を倒していけるのだ。
その名の通り一撃必殺。
魔法剣炎の前にオークマジシャンは一撃で倒れていく。
それにしてもどれだけいるんだろうか。
この最前線に来てからオレ一人で50匹は倒してるはずだ。
しかしまだまだ減っていない事から考えるに、領主軍は殆ど倒せていないのだろう。
そんな事実に少しうんざりしながら、右に展開していたオークマジシャンは粗方倒し終え、ハイオークを残すのみとなっていた。
此等は、ディルとミルファで次々と矢を射ちその数を減らしていく。
そして、此方にターゲットを移すとオレが仕掛けていく。
此方半分を倒し終えると、領主軍は残りのオークを囲うように展開を始めた。
これで此処も危機は脱した事になる。
残りは領主軍だけでも問題ないだろう。
一息つき、ディルと共にエイル達の行き先を考えていた。
「此処が最前線ではないのかもしれないな。」
それがディルの予想だ。
考えられる状況は二つ。一つは更に強力な魔物を引き受け、此方に来ないように戦っている。
もう一つはオーディンらを発見し、相手をしている事。
後者ならかなり危険な状況にあるかもしれない。
どうにか居場所を知ることが出来ないだろうか。
オレとディルに焦りの色が出始めた時、ミルファが口を開いた。
「シームルグ様なら分からないですか?」
「それだ!」
幸いにも此処にはオレ達ロードウインズしかいない。
召喚魔法でシームルグを呼び出す。
目の前が光輝きシームルグが姿を現す。
これだけ光ってたのだが、騒ぎになってる様子はない。一安心だ。
「どうした、こんな時間に?」
現在の状況を知らないシームルグに順を追って説明していく。
「大変な状況だな。エイルか……個別に人間を探したりは出来ないが、あちらから強力な波動は感じられる。
もしかしたら其処にいるのかもしれんぞ。」
シームルグが指さしたのは北東。
今回の魔物達が迂回してきた方角だ。
多分、いや、間違いなくそこでエイル達は戦っている。
オレは何故かそう確信し、そこへ向かう覚悟を決めた。




