第78話 救出
「危なかったな、ケント。」
「おせーよ、レイジ!」
ギリギリに見せかけてまだ余裕があったようにも見えたが、助ける事には変わりがないのでいいだろう。
目の前で仲間のオークの首が飛びもう一匹のオークは狼狽えている。
その間にケントに手を貸し、起こしてやる。
馬乗り状態だったオークの首を跳ねた為、下になってたケントは返り血で酷い事になっているが、それを突っ込める空気ではないので触れないでおく。
「一対一ならいけるんだろ?」
「当たり前だ。」
たったそれだけ言葉を交わし、拳を合わせた。
「じゃあ、ケントのお仲間でも手伝ってくるわ。
ミルファはケントにガードだけ掛けてやってくれ。ルナ、行くか。」
そしてオレは残りのオークを倒すべく走り出す。
二人で六匹を相手にしているシルバーランク冒険者を手伝うべく、先ずは横正面以外の個体を排除する。
オレは右から、ルナは左のオークの牽制に向かっていく。
最初の一体は油断している。一撃で切り伏せる。
その隣のオークがそれを見て一瞬硬直すると、そこに貫通力を高めた風魔法、ウインドアローで頭を撃ち抜く。
これで此方のオークは後一体なので、シルバーランク冒険者に任せてルナの手助けに向かう。
その間ルナは、最初の一体に不意打ちの一撃を入れていた。
かなりのダメージを与えてはいるが、倒すには至っていないようだ。
勿論ルナもそれを分かっていた。間髪入れずに追撃を入れにいく。
胸、右肩、一回転してから腹、オークの身体がくの字に曲がると、むき出しの顎にルナの全力の一撃が襲う。
「これで終わりなのです。」
ルナ最大の攻撃技、ハードストライク。
それはルナが自ら編み出した自己専用技だ。
ルナのジョブは武道家なのだが、抑も棍専用技を覚えるジョブは存在しない。
その為、棍は一部では外れ武器と呼ばれる程にベテラン冒険者からは忌み嫌われている武器だった。
それでも素人でも扱える利点から需要はあるようで、初心者武器として使われているようだ。
ルナも最初はそういった理由から使い始めたのだが、今ではルナにとって唯一無二の武器として扱われていた。
ルナのハードストライクによってオークの顎は四散し、膝から崩れ落ちていく。
オレが一匹倒してる間にそれが行われ、此処に残るオークは二匹。
それらは二人のシルバーランクが間もなく倒すから問題ないだろう。
残る一人のシルバーランクを助けるべく、急いで向かおうとする。
が、それは杞憂だった。
既にそのシルバーランクは三体のオークを倒し終えていたのだ。
多分この男がシルバーランク最強なのだろう。
そんなオレの予想はこの後外れることになるのだが。
「最後は彼処だな。」
「レイジくん、もう倒し終わってるのです。」
ルナの言葉に慌ててその戦場に目を向ける。
この闇の中ではハッキリとは見えない。
ルナは犬の獣人だが夜目の効く方なのだろうか。
とりあえず其方へ向かってみた。
「ホントだな。四匹を倒し終わってるわ。」
「今頃援軍か?呑気なものだな。」
其処に立っていた人物こそがこのオークを倒したシルバーランクの冒険者である。
フルプレートメイルに鉄仮面姿。その為、顔は分からない。
だが、その声は誰でも分かるほどの特徴があった。
「女?」
オレは思わずそう口にしていた。
そう。彼女こそ最強のシルバーランク冒険者なのだった。
「女で悪いか?お前こそ今頃ノコノコ現れて何をしに来たのだ?」
後回しにされた事に怒っているのだろうか?
いや、この暗闇の中では最後にされた事など分からないはずだ。
という事は、オレ達のここに来たタイミングが悪かったのだろう。
倒し終わったタイミングを見計らったように来たと思われているのかもしれない。
「遅れてすまない。反対側の彼処から順番に救助してきた為、どうしても遅れてしまった。」
「はあ?順番に?では、此処のオーク共は討伐済みなのか?」
「あ、ああ。いや、流石に全て奪う訳にはいかないから、一匹ずつ残してきたけどな。
でも、そろそろ倒し終わってるだろ。」
「ほう。なかなか腕が立つようだな。気に入った。
私はシルバーランクのベロニカ。聖騎士だ。お前は?」
聖騎士か。確か防御に優れたジョブだったはずだ。
だから単騎討伐が可能だったのかもしれない。
「オレはレイジ。今日ブロンズランク試験に合格して、今回がブロンズランクとしてのデビュー戦だな。
宜しくお願いします。」
「ブロンズ成り立てだと?そんな奴がこんな前線に来て……お前、此処でどれだけオークを倒してきた?」
「え?どれだけ?ルナ分かる?」
「私は二匹なのです。でもレイジくんは沢山なのです。」
覚えてないよな。オレもだから問題ない。
「この子も二匹も倒しているのか?」
「はいです。ウチはルナなのです。宜しくなのです。」
「信じられん。戦ってきたなら分かるだろうが、このオークは通常のオークを遥かに上回る力を持っているのだぞ。それを……」
そんな事を言われても、実際に倒してるのは事実なのでどうしようもない。
「レイジさん!あちらの方々の回復は終わりました。後は……この方だけですね。」
ミルファもサポートと回復を終え、此方に駆けつけてきた。
「ん、なんだ?お前達はパーティなのか?」
ミルファにヒールを掛けてもらいながらベロニカは聞いてきた。
「今ヒールしてるミルファとオレは同じパーティだけど、ルナは別だな。
今日一緒にブロンズになったよしみで共に行動してる。」
そして、しっかりとオークを討伐したケントも駆けつけ、此処のオークの殲滅は完了した。
しかし、最前線ではゴールドランクのエイル達と領主軍は、未だに激しい攻防を続けている。
「後は最前線だよな……ぶっちゃけ全員あそこでは足手まといにしかならないわ。」
「ぶっちゃ……よくわかんねぇ言葉使ってるけど、俺達じゃ最前線に立つ実力はないって事だな。
まあ、しゃあねぇな。でもレイジは行くんだろ?」
「……ああ。オークのワンランク上位種くらいならオレとミルファの二人でも倒せるしな。
ちょっと行ってくる。」
「私は付いていきますよ、レイジさん。」
「ああ、勿論。付いて来てくれよ、ミルファ。」
「気をつけて行ってこい。私は命令通りに此処を守ってるからな。」
ベロニカはそんな事を言いながら笑っていた。
そしてオレ達は最前線へと足を踏み入れる。
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「お!いたいた。ケントー!」
其処にやってきたのはブリュードル達、シルバーランクの四人である。
「レイジとミルファは?」
「最前線へ行っちまったわ。」
今此処にいるメンバーだと多分全く敵わずに殺されるであろう最前線。
其処にブロンズランクになったばかりの奴らが飛び込んでいった。
普通に考えたらただの自殺行為である。
だが、此処にいるシルバーランクの面々は、レイジの強さの一端を目の当たりにしている為、そこまでの驚きは無かった。
ブリュードルに至っては、単騎でメノウリザードオニキスを討伐する姿を目撃している。
行くべくして行ったと考えるのが自然な事であった。
「お前らは置いてけぼりか。」
「今の俺ではオーク一体を相手にするので精一杯ですからね。
此処で背伸びしてもいい事がないって事は分かってるつもりっすよ。」
同じマッドネスサイスの先輩から言われたケントはその悔しさを隠しながら答える。
此処で引くのも一つの勇気だと誰もが分かっている。
そんなケントの成長を見たシルバーランクの二人は、今後ケントは大きく成長すると感じ取っていた。
「我々シルバーランクはこのルーキーに抜かれないように頑張っていかねばな。」
ベロニカの言葉はとても冗談には聞こえず、その場のシルバーランク達は苦笑いをするしかなかった。
そしてルナは……
「今は無理でも何れは必ず追いついて見せるのです。
でなければレイジくんの番にはなれないのです。」
これはブロンズランク試験の最中から言っていた事ではあるのだが、この場にいるシルバーランクの面々からしたら突然の宣言である。
この戦場において一番の笑いが響き渡ったのである。




