第75話 スタンピード再び
「大変申し訳ない事をした。深く謝罪する。もう二度とこのような事は起こさないようしっかり管理するので是非とも許して欲しい。」
ギルド長はオレに頭を下げ、職員による不正を謝罪した。
だが、オレは別に謝罪などは必要ないと思っているので、それは別にどうでもよかった。
大事なのはその不正をやらかした職員への処罰の内容なのだ。
「ギルド長、謝罪は結構ですし、今後同じ事が起きてもオレには関係ないのでそれもどうでもいいです。」
冷たいかもしれないが、これが本音だ。もう二度とと言われても、オレはもうブロンズランク試験を受ける事はないので実際関係ない。
「それよりもあの二人の処罰の方が気になります。聞いてもいいですか?」
「い、いや、それは……多分減給ひと月くらいかと……」
「は?マジっすか?」
ありえない答えが返ってきた。
一人の冒険者の人生を左右したかもしれないような不正を働いて減給ひと月で終わりとは……。
「ギルド長はそれでいいと思ってるんですか?」
オレは続けて問いただす。
その声色には明らかに怒りが込められている。
「そんな訳ない。だがあの二人は王都の貴族にコネを持っていて、俺でもなかなか処分出来んのだ。
とりあえず謹慎処分という形をとり、少しでも重い処分になるよう努力はする。
それからな……言いにくいが、お前に何かしらの嫌がらせも予想されるので、それもギルド全体で対処に当たろう。」
権力を持った厄介な相手だったようだ。
俺としては一番関わりたくない相手なのだが、既に関わってしまったので、どうのこうの言っても仕方ない。
ただ、何かしらの嫌がらせと言うのが気になる。
当面は警戒が必要ということなのだろう。
後はギルド長を信じるだけである。
「分かりました。そこはギルドを信用してます。じゃあ、ランクアップの手続きをして帰ります。
あ、エイルさんには今回の事報告しておきますね。では。」
「ちょ……エイルの奴にこの件は……全く……レイジの事は記憶が無くなってるからイマイチ分からないが、あの嫌らしさは間違いなくエイルの弟子だな。」
ギルド長は最後にそんな事を呟いていたが、オレの耳には届いていなかった。
「おつかれー!一応待ってたぜ。どうせだから四人で打ち上げでもどうだ?
アレ、売ったら相当金になるんだろ?」
受付でブロンズランクへのランクアップ手続きを済ませると、ケントが待っていた。
ミルファとルナも一緒にいるようだ。
「レイジさん、無事ランクアップおめでとうございます。これで今後の身の振り方を本格的に考えなくちゃいけませんね。」
そうなのだ。ブロンズランクになったら旅に出る事を考えようとミルファと話していたのだ。
それはつまり、ロードウインズを抜けるという事。
そして、この街に別れを告げるという事である。
「え?身の振り方とはどういう事です?」
ルナは聞き逃さなかったようだ。
どう説明しようかと考えてると、突然周囲が騒がしくなる。
「大変だ!東の森から魔物が溢れ出してこの街へ攻めて来てるぞ!」
オレ達は耳を疑った。
魔物が攻めてくる。そんな事があり得るのだろうか。
「なあ、今のって……マジなのか?」
「冗談でここまで騒ぎにはならないだろ。ヤベェぞ。打ち上げどころじゃなくなったわ。」
どうやら本格的にヤバい状況らしい。
「ミルファ、どうする?此処で待機するか、一旦帰って皆とまた戻ってくるか。」
「分かりません……どうしたらいいんですか?」
ミルファだけじゃない。此処にいる全ての者がパニックに陥っている。
どうすればいいのか考えていると、この受付のホールにギルド長が現れた。
「今現在此処にいる冒険者は集まってくれ。状況を整理する。」
その言葉でその場のパニックは一瞬で収まった。
なんだかんだ言ってもやはりギルド長だのようだ。
「お、レイジ!まだいたのか。頼りにしてるぜ。」
後ろから話しかけてきたのはブリュードルだ。
そしてギルド長から現在分かっている情報が発表された。
内容は先程聞いた事がメインで東の森からゴブリン、オークを中心とした魔物、およそ1000匹がこのロードプルフに向かって進行中らしい。
既に辺境伯の王国軍は迎撃に当たっていて、城壁より攻撃は開始されていた。
魔物は現在は1000匹だがまだ増える可能性はあるという事だ。
「千匹か。この街の王国軍ってどれだけいるんだ?」
「確か200くらいだったはずじゃなかったか?けど冒険者は100もいないだろ?ヤバいじゃねぇか!」
答えたケントが慌てだした。
確かに圧倒的不利な状況かもしれない。
だが、ゴブリンとオークばかりなら、オレ達四人の師匠達、ゴールドランク五人が揃えば余裕な気もする。
「レイジ達はいるかー?」
ギルド長が呼んでるようだ。オレ達は多分其々のチームの事だと理解し、ギルド長の元へと向かった。
「おお!良かった。まだいたか。頼みがある。」
「オレ達其々のチームですね。」
「分かってたか。ゴールドランク五人、全員を集めて街門へ向かってくれ。
こちらも直ぐに街門へ向かう。頼んだぞ。」
ロードウインズ、マッドネスサイス、ブラッドローズ、この街のゴールドランクが所属する三つのチームが、この突然のスタンピードに対処すべく集結する。
街門前でまた会おう。お互いその言葉を交わし、各々が所属チームへと向かっていく。
「レイジさん、東の森って事はもしかして……」
「ミルファも思ったか。多分あいつらだ。」
オレもミルファも考えてる相手は同じだった。
オレとルナを皆から忘れさせた相手、フギンとムニンである。
なんとなくだが、このスタンピードにはあの二人が関わっている気がしてならない。
まあ、居るか居ないか分からない相手より目の前に迫っている魔物が先決だろう。
間もなく家に到着する。
「エイルさん、大変です!」
「おう、帰ったか。で、どうだった?」
「あー、とりあえず合格ですが、それどころじゃないんですよ。」
「やったじゃん。んじゃ、今日はパーティーだな。」
話を聞こうとしないエイルにそのまま話を続ける事にした。
「あー、スタンピードです。東の森から大量の魔物がこの街に押し寄せてるらしいです。
ギルド長よりゴールドランク全員の招集がかかりました。」
「あん?マジで?」
「大マジです。既に領主軍は戦闘に入ってるらしいです。急いでください。」
その声が聞こえていたのか、マリーとディルは既に準備を始めている。
エイルもホントにヤバい状況なのを理解すると、即座に行動開始した。
そこからは早かった。
僅か3分で支度を終え、街門へ向かって走り始めた。
「レイジくん、さっき聞こえてたわよ。ブロンズ昇格おめでとう。
ミルファちゃんも大丈夫だった?」
「はい!無事昇格しました。」
「あはっ、やったねー。師匠冥利に尽きるわね。」
「ミルファはメノウリザードオニキスに片腕を飛ばされた試験官の腕をハイヒールでくっつけたんですよ。」
「え?ちょっと待って。……ハイヒールまで使えるの?私だって使えるようになったの結構最近なのよ。
ミルファちゃんって実はとんでもない逸材なんじゃない?」
「オレも思いました。あ、因みにミルファは今のジョブは司祭ですからね。」
それを聞いたマリーは驚きのあまり、もの凄い変顔になってる。
「嘘……私抜かれちゃうんじゃ……れ、レイジくんは?」
「オレは魔法戦士メインはそのままで大魔導師が出たんでそれをつけました。」
「大魔導師って……じゃあ中級魔法は使えるのね。」
「ええ。ある程度は試してみましたよ。魔法剣と組み合わせたら強いですね。」
この時マリーは、レイジの実力が既にゴールドの域に到達してるであろう事を感じていた。
実際には元々のレイジの実力を覚えていない。
しかし、ミルファと同時加入なら、大体そのレベルであろうと想像していたが、その予想は大きく外れていたのだ。
ミルファも自分と同じ司祭になってるとは思ってもみなかった。
しかし、話を聞く限りのレイジの力は別次元だ。
記憶を無くしてから、改めてレイジの特別な能力の話は聞いている。
それを踏まえて考えるに、魔法戦士と大魔導師の組み合わせは反則級過ぎたのだ。
多分……いや、間違いなくエイルを超えている。マリー確信していた。
そして、約束の街門前にたどり着く。
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今後も宜しくお願いします。




