第72話 フロアボス、メノウグレート
5階層へ降りてきたオレ達の前に現れたのは、フロアボスの部屋に入る扉だった。
詰まるところ、メノウグレートとはこの部屋にいるフロアボスという事なのだろう。
オレとミルファはその事を即座に理解したのだが、ルナとケントは分かってない様子だ。
そんな二人にミルファが、ダンジョンにおけるボスについて説明していく。
「ダンジョンってそんな風になってるのか……てゆーかよ、お前らこのフロアに来るの初めてって言ったよな?なのに詳しすぎないか?」
ケントにはファスエッジダンジョンに行った事は伝えてなかった。
伝えても構わないのだが、面倒なのでそのままでいいだろう。
と、オレは思っていたのだが、ミルファがしっかりと説明していた。
ロードウインズの金回りの秘密も一緒に伝わったようだ。
「強さと金と両方手に入れる事が出来るダンジョンかー。
今度パウロさんに連れてってもらいてーなー……。」
「いや、多分パウロって人は知ってるはずだぞ。昔エイルさん達と行ってるはずだからな。」
あくまでオレの予想だが昔の記録って言うのは、ギルド長の下で修行してた時の話だろう。
だとしたらパウロも一緒だったはずだ。
「レイジくんってそんなにお金持ちです?」
ルナの目がGになって此方に問いかけてくる。
実はお金大好きっ子だったのか。
「まあ……ミルファと同じくらいは持ってるかな?」
「ミルファちゃんも?ミルファちゃんもお金持ちです?」
「う、うん。それなり……いや、かなり……かな?」
ルナの詰め寄り方にタジタジになりながらも一応答えていくミルファ。
恐ろしい。金の力の恐ろしさを垣間見た気がする。
「ルナ、オレのアイテムボックスは分かるだろ?今もメノウリザードがどれだけ入ってると思う?
帰ってこれを売ったらどれだけ収入あるか分かるか?」
その言葉を聞いたルナは考える。
しかし単価を分かってないので答えは出ない。
「メノウリザードは一匹3万5千Gだぞ。これが60匹程だ。数百万ってところだろう。
これだけ稼げるんだ。わかったろ。」
「……ほ、ホントです?レイジくんと一緒なら……じゃあウチ、レイジくんと番になってもいいのです。
あ、ミルファちゃんの次でも全然構わないのです。」
何を言ってるんだ、この子は。
いや、可愛いし好感は持ってる。だが、ミルファと友達じゃなかったのか?
その友達の前で彼氏と番になる宣言とかありえないと思うのだが。
「ルナちゃん……ちょっと待ってね。」
そう言いミルファは何かを考える。
「うん。ルナちゃんだったら私も反対しないよ。」
ミルファ?おかしくないか?
以前は他の女に囲まれてるのは嫌だって言ってたはずだ。
どういう風の吹き回しなのだろうか。
「レイジさんが他の女性に靡くのは嫌だけど、ルナちゃんとだったら仲良くやっていけるよ。」
後から知る事になるのだが、この世界は一夫多妻制だ。
特に冒険者と騎士に関してはよりその傾向が強いらしく、ミルファは見知らぬ女がそこに入ってくるよりはルナならば仲良くやっていけるから、との判断だったようだ。
そんな事情があっても、好きな相手に対する独占欲は強いようで、世の女性は一夫一妻でなければ嫌だと思っているようだ。
そしてそれはマリーやミルファも同様だったようだが、相手を想うならば一夫多妻制度を受け入れるべきとも思っている。
「なあ、そんな話はいいからさっさと入らないか?」
そんな空気を変えたのはケントだった。
いい仕事をしてくれる。
「最初に話を振ったのは俺だけど、脱線してるだろ。金については分かったから早く倒そうぜ。」
その通りだ。先ずはこの先のメノウグレートを倒す事が先決だ。
皆に目で合図を送り、扉を開けていく。
そこに居座っているのは、メノウリザードを三倍の大きさにした魔物だった。
確かにグレートだ。それがオレの最初の感想だ。
入ると真っ先にミルファが全員にガードを掛けていく。
それが掛かったのを確認するとオレ達三人は走り出す。
「オレが正面を受け持つ。左右は任せた。」
「おう。任せろ。」「はいです。」
さて、どうする。魔法剣炎を使えば簡単に倒せる気もする。
だが、それだとこの二人にも悪いだろう。
ならば、初級魔法剣で様子見にするか。
「いくぞ!」
使ったのは魔法剣水だ。
先制攻撃を仕掛け、二人の攻撃の隙を作りにいく。
最初は様子見のなぎ払い。
がしかし、メノウグレートはそれを爪で受け止めた。
そして逆の腕を振り下ろし攻撃を仕掛けてくる。
「今だ!」
この時を狙っていたかのようにルナとケントが左右から攻撃をしていく。
二人の攻撃がメノウグレートの首元にまともにヒットした。
だが、ルナの打撃は大したダメージにはならず、ケントの斬撃も表皮が微かに斬れただけだった。
「マジかよ……」
ケントが呟くのが早いか、そのタイミングでミルファの矢が眉間に命中する。
それに合わせるようにオレはメノウグレートの片腕を斬り飛ばす。
「チャンスだぞ!」
オレのその言葉に反応するように、ケントとルナも一斉に攻撃を仕掛けていく。
しかし、残念ながらこの二人では攻撃力が足りていないようだ。
それらは致命傷を与える事も出来ず、逆にメノウグレートに反撃の隙を与える事になってしまう。
「やべぇ!」
ケントに対して、その尻尾が勢いよく飛んでくる。
全力で攻撃を仕掛けたケントは一切防御体勢がとれていない。
そしてその尻尾がケントの腰あたりにまともにヒットした。
「ぐはっ!」
少量ながらも吐血しながら飛ばされていく。
内蔵の何処かがやられたかもしれない。
「ミルファ!」
「任せて。」
オレが言うより先にミルファは動き出していた。
ルナは飛ばされたケントを見て硬直している。
更にはメノウグレートがそんなルナ目掛けて残ってる片手を振りかざしてた。
此処までだな。
オレはそう思うのと同時に左手を翳した。
「アイスニードル!」
その瞬間、氷の槍がメノウグレートを襲い突き刺さっていく。
一瞬のうちに血塗れになり瀕死になっているがまだ倒れない。
なかなか体力はあるようだ。
我に返ったルナは力いっぱいに目の前のメノウグレートを殴りつけるとフラフラとフラつき出し、ゆっくりと倒れていった。
「ふー、ケントー!大丈夫かー!」
一息入れてからケントに目を向けると、ミルファのヒールを受けながら右手の親指を立てていた。
どうやら無事のようだ。
「レイジくん……今のは魔法です?初めて使ったのです。」
ルナはオレの使った魔法に疑問を抱いている。
まあ、あまり見せたいものではないので、今まで使ってこなかったというのはある。
しかし、あの場面では使わなかったらルナに相手の攻撃が当たっていただろう。
それも爪による攻撃なので下手したら致命傷だ。
そう考えたら魔法で一気に倒すしか方法は無かっただろう。
実際にはそれでは倒せずに、最終的にトドメを刺したのはルナだが。
「ああ……今だけでいいから魔法の事は黙っててもらえるか?」
ダメ元でルナに頼んでみた。
口元に人差し指を当て、軽く目配せなんかもしてみたりした。
「……うーん、……分かったのです。ウチとレイジくんとの秘密なのです。」
あっさり了承してくれた。
いや、疑うわけではではないが、何か裏があるのではと身構えてしまう。
「ミルファ、ケントは?」
「大丈夫です。少し内蔵にまで損傷はありましたが、ヒールで治せる範囲でした。」
「悪い。油断した。ミルファのガードが掛かってなかったら即死だったかもな。」
ケントもそこまで状況判断が出来るのか!と驚いてしまった。
何となく抜けてる発言をしたり、的を得た発言をしたりとなかなか掴めない奴だ。
ともあれ、無事でなによりだ。
「あれ?倒したメノウグレートは?」
「既にアイテムボックスの中だ。目的は果たしたし帰るか。」
なかなかの強敵だったな、なんて思いながら転送装置を探した。
が……何処にもない。
どうやらこのダンジョンは歩いて帰らなければいけないようだ。
もしくは10階層まで行かなければ転送装置がないか……
もしかしたら後者かもしれない。
何れにせよ今は歩いて戻るしか帰還方法は無いようだ。
一連の行動を怪しまれたが、ファスエッジダンジョンの帰還方法を説明して事なきを得た。
そして4階層へと戻る。
この帰り道にアイツが待ち受けてるとも知らずに……
急遽一夫多妻制という設定がつきました。
見直しても特に問題はないと判断しましたが、もし矛盾点がありましたらお知らせください。




