第69話 ブロンズランク試験開始
ブロンズランク試験当日。
「うん。今日もいい天気だ。」
この世界に来てから今日まで雨だった日は未だ二日しかない。
降水量が少ない地域なのだろうか。
まあ、魔法が存在してるのだから水不足などとは無縁だろうから大した問題は無いだろう。
オレ達は今、ブロンズランク試験の集合場所である冒険者ギルドへと歩を進めている。
昨日ゆっくり休んだからだろうか。身体が軽くて頗る調子がいい。
「ミルファ、今回は出し惜しみ無しで全力でいく。ブロンズどころではないと見せつける気持ちでいくから。」
「分かりました。私も全力でサポートしていきますね。」
ミルファが全力なら、サポート面は一抹の不安すら無くなるだろう。
それ程までに今のミルファのサポート能力は優れている。
「あれ?ミルファちゃんです。」
ブラッドローズのルナだ。
今回一緒にブロンズランク試験を受けるメンバーの一人だ。
あと一人いるらしいが誰かは聞かされていない。
「ルナちゃん!あれからどう?問題ない?」
「元通りとはいかないですけど、やっと全員と打ち解けたトコです。
昨日まで鍛えてもらってたんで、ウチの強さはこの間までとは全然違うのです。」
「オレ達もだよ。オレもミルファも二人で鍛えてたからな。強くなってるぞ。」
「むむっ。レイジくんはこれ以上強くならなくていいのです。
ウチが目立たなくなってしまって困るのです。」
三人で談笑しながらギルドへ向かう。
集合場所はギルドの入口前。
そこには既に一人の男が立っていた。
背中にバスターソードを携え、アイアンスケイルを身に纏った戦士だ。
どことなく見覚えがあるような気がするが……
「ケント?」
ミルファがその人物を見るなり走り出した。
確かにケントと言った。
この戦士がケント……見違えた。
その風貌は、以前のケントからは想像出来ない程に変わっている。
「……ミルファ。お前もブロンズランク試験を?」
「そうだよ。ケントも?皆知ってるメンバーで受けるんだ。楽しみだね。」
「楽しみ?オレは更に上に行くための通過点として受けるだけだ。
楽しみなどとうつつを抜かしてちゃあ、お前は此処で落ちるぞ。」
コイツは本当にケントなのだろうか?
口調は変わってないかもしれないが、かなり強気なセリフを発している。
マッドネスサイスは評判が悪いとは聞くが、こういう部分が特徴だったりするのだろう。
まあ、あの頃より強くなってるのだろうが、それはオレやミルファも同じだ。
今日の試験でその実力も分かるだろう。
「ミルファちゃん浮気です?」
「ち、違うよ!あ、紹介するね。この人は幼馴染で今はマッドネスサイスにいるケント。
ケント、こっちが私の友達のルナ。ブラッドローズに所属してるの。
で、知ってるでしょ?レイジさんだよ。」
「知ってるでしょって、知らないし。誰だよ。」
「え?……あ!」
そうだ。オレの事を覚えてる訳が無いのだ。
フギンとムニンによってオレとルナは全ての人から忘れ去られてしまったのだから。
「そうだよね。ごめん。じゃあ、改めて。えーと、私と同じロードウインズにいるレイジさんです。
私を誘ってくれた人だよ。」
「……よろしく。」
ケントはオレを品定めをするように見回し、握手を求めた。
「ああ、よろしく。」「よろしくです。」
オレもルナもそれに答えるように握手に応じた。
「そう言えばミルファ。随分羽振りがいいようだな。ロードウインズは相当儲けてるらしいじゃんか。」
「あ……孤児院に顔出したの?」
「ん?いや……あー、メイさんが……言ってた……。」
多分これはケントの自爆だろう。
メイと言うのはケントの恋人なのだろう。そして孤児院関係者か何か……。
孤児院には行ってないがそのメイと密かに会ってミルファが大金を持っていった事を聞いたのだろう。
その密かに会ってる事を今白状したようなものだ。
「メイさん?私二回程孤児院に行ったけどメイさんに会ってないよ?」
「ああ……。結構ちょくちょくと、オレの住んでる部屋を片付けに来てくれたりするから……な。ああー、もういいだろ。」
「ふふっ。やっとケントらしくなった。」
ミルファのその言葉にケントは呆気に取られてた顔をしている。
やっぱりミルファはミルファって事だろう。
「四人とも集まってるようだな。」
そんなオレ達に声を掛ける人物が。ギルド長である。
元ゴールドランクに相応しい堂々とした足取りでオレ達の前に立つ。
「これよりブロンズランク試験を開始する。」
ギルド長の宣言と共にブロンズランク試験の幕があがった。
「では試験の内容を説明する。その前に今回の試験監督を紹介しよう。こっちに来い。」
「はいよー。ういっす。今回の試験監督をやることになったブリュードルだ。まあこれでもシルバーランクだから敬えよ、ヒヨっ子ども。」
「コイツとギルド職員から二名の合計三名が試験官を行う。わかったな。
じゃあ、試験の内容だ。お前達にはこれからアゲトダンジョンへ行ってもらう。
そこの5階層に必ず現れるメノウグレート、もしくはその前の4階層に稀に現れるメノウリザードオニキスのどちらかの討伐だ。
それを討伐して初めて試験合格の権利を得ることが出来る。これを間違えるな。あくまで権利だけだ。
その上で試験官たちがその活躍度や立ち回りを見て合否の判断をする。
試験はこの街を出た瞬間にスタートとする。いいか?質問は?」
オレは真っ先に挙手をした。
「試験官は同行者扱いなんですか?それとも居ないものと考えてもいいのですか?」
「試験官は居ないものととして考えてもらって結構だ。
何かあっても自分達で対応出来るし、お前達に話しかける事もない。わかったなブリュードル。」
これはオレじゃなくブリュードルに言ってるのか。という事は、このブリューは結構話したがりな性格って事なのだろう。
「アゲトダンジョンの4~5階層だったら一泊になると思いますが、その用意は個人でするのですか?」
「ああ、説明してなかったな。宿泊セットはこちらで用意してある。
見張りなども自分達で行うようにしてくれ。そこまでが試験だからな。」
それを聞いたケントが挙手をした。
「その間に万が一魔物が来た際に試験官が寝てたら?見殺しでいいのか?」
「見張りも試験だと伝えたはずだ。そこまで言えば分かるな?」
「もう一点いいですか?食材の持ち込みは?」
「自由だ。他には?よし!ではスタートだ。」
合図と共に宿泊セットが支給される。
こうしてブロンズランク試験は開始された。
「ミルファ、ルナ、ケントも。ちょっといいか?」
開始と共にオレは試験を受ける三人を集めた。
「アゲトダンジョンまでの交通手段は何も言及されていないよな?」
「……だな。それがどうした?」
「あ!レイジさん、まさか!」
ミルファが頭に思い浮かべたのはシームルグだろう。
しかし、あれはこのメンバーや試験官の前で使う訳にはいかない。
「ミルファ。」
そう言って人差し指を口元に当てると、ミルファはオレの言いたいことを理解したのだろう。
それ以上は言う事は無かった。
「馬のレンタルはありなんだろ?」
「そうか!それならアゲトダンジョンまでの時間を大幅に減らすことが出来る。」
ケントは盲点だったと言わんばかりにその事に納得し始めた。
「それで馬を盗賊に盗まれたら減点になりませんか?」
「それなら買ってしまえばいい。」
そう、オレとミルファは金ならいくらでも持ってる。こういう使い方なら問題ないだろう。
「じゃあ行くか。」
オレ達の試験は馬屋に行く事から始まった。
--------------------
「ギルド長、少々質問してもよろしいですか?」
試験監督をするブリュードルは試験内容に疑問を持ち、ギルド長に訪ねた。
「なんだ?言ってみろ。」
「討伐対象ですが、メノウグレートは分かりますが、何故メノウリザードオニキスまで対象にしたのですか?
あれはシルバーランク数人でも苦戦を強いられる魔物ですよ。
ブロンズランク試験の対象にすべきではありません。」
「ん?そうか?しかし、オニキスを狩って戻って来た時にそれじゃないと言って不合格にする訳にもいくまい。
それに、そのような強敵に遭遇した時の対処も、ブロンズランクからは求められるとは思わないか?」
「それは……しかしですね……」
「ほら、アイツ等動き出したぞ。試験官が付いていかずにどうする?」
もしもメノウリザードオニキスに遭遇したら自分がヒヨっ子達を逃がす為に囮になるしかないのか。
ブリュードルは絶対に遭遇しないようにと祈るばかりだった。




