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第68話  決意

 やっとの思いで50階層まで戻って来たが、流石に疲れきっていて今日帰るのは断念せざるを得ないだろう。

 この神殿に居る間はイメージするだけで食事も出てくるのだ。

 作る必要が無いから、かなり時間的にも余裕が出来るので、その分休養に充てることが出来ている。


「なんか帰ってから食事を作る事を考えると憂鬱になってしまいますね。」


 確かにこれは楽ができ、時間も取られないので素晴らしいだろう。

 だがオレは、作っている間の時間もそれなりに気に入っている。

 勿論元からこうだった訳ではない。

 ロードウインズに入り、皆の分を作るようになってから徐々にこのような考え方になっていった。

 前世の知識を元に調理すると、皆が喜んでくれる。それが嬉しく感じるようになっていったのだ。


「料理する事を楽しんだらそんなこともないけどな。」


「確かにレイジさんは楽しんでますよね。特に新しいメニューを作る時なんかは笑顔で作ってますもんね。


「いや、皆の食べた時のリアクションを想像したらついな。」


「どんな料理も初めて食べる時は驚きの連続ですから。

 これからもレイジさんの料理を食べていけたら幸せでしょうね。」


「ああ。この先もずっと……」


 この先もずっと……どうするのだろう。

 この生活を続けるのか?

 この世界に来て、ただ一つの街の冒険者として毎日を過ごしていって満足なのか?

 最初にギルドを訪ねた時は、これから冒険が始まると思い心が躍ったはずだ。

 それが気付けばロードプルフから一歩も出てないんじゃないか。

 こんな生活がオレの望んでた異世界生活なのだろうか……。


「レイジさん?どうしました?」


「ん?いや、何でもない。」


 違うよな。どうせなら旅でもしてみたいよな。

 でも、ミルファは……ついて来てくれるのか?

 エイル達にはなんて言えばいいのだろうか。

 オレの記憶が無くなってもあの家での生活を継続させてくれた皆になんて言えば……


「……ジさん、レイジさん!」


「お?どうした?」


「どうしたはこっちのセリフです。どうしたんですか?ずっとボーッとして。何か悩みでもあるんですか?」


「まあな。悩みなんて誰だってあるだろ。大小は兎も角な。」


「じゃあ、レイジさんの今の悩みは大の方になるんですか?」


「さあな。どうだろう。」


 ミルファには言わなければいけないだろう。

 何て言う?

 一緒について来てくれ?それでいいのか?

 オレの気持ち?それは付いて来て欲しいに決まっている。

 当たり前だ。多分ミルファを失ったらこの世界にいる意味すら無くなってしまうだろう。


 ……それが答えなんだろうな。

 この気持ちを言葉にして伝えなければ。

 ……恥ずかしいだろ。なんて言えばいいんだ?

 お前を愛してる。ついて来てくれ?絶対無理だ。

 こういう時のマニュアルってないのか?

 どうすりゃいいんだよ……


「おーーい!レイジさーーん!」


「ん。おお!大丈夫だぞ。」


「全く。悩んでる事があるなら私にも共有させてください。

 一緒に悩んだら考える時間だって半分で済むかもしれませんよ。」


「……そうだな。」


「知ってました?私ってレイジさんの事が好きなんですよ。

 例え悩みでもレイジさんと共にありたいと思ってます。

 一人で悩んだらダメですよ。」


 ミルファは少し不貞腐れたように、ほっぺたを膨らませながら言ってきた。

 これは言わなきゃダメだろうな。


「わかった。……ミルファ、オレな、旅をしたいんだ。」


「旅……ですか?」


「ああ。勿論今直ぐって訳じゃないけどな。でも近い将来、行きたいと思ってるんだ。

 まあ、先ずはブロンズ試験が最優先でな。そこでブロンズに昇格したら……かな?」


 オレは今思っていた事をそのままミルファに伝えた。

 思いつきと言うより初心を振り返った結果、それを思い出した感じだ。

 

「でな、その……だな……その時はミルファも……な……」


 意を決したつもりだったが、なかなか言葉に出来ないでいた。

 そういえばエイルも以前は言っていたな。確かにヘタレイジだ。


「……レイジさん。」


「ん。ミルファも、一緒に……だな……」


「レイジさん、私も連れてってもらえますか?」


「え?」


 ミルファから一緒にと懇願してきた。

 このままでいいのか……いい訳がない。

 オレは……オレがミルファと一緒に居たいのだから。


「ミルファ、一緒に行かないか?オレのあてのない旅に一緒について来てほしい。」


「……勿論です。どんなことがあってもついて行きますから。」


 お互いを見つめ合いながらそんな言葉を交わすが、お互いに恥ずかしさと照れくささから「プッ、アハハハ」っと笑いいあった。


 この世界に来て50日弱。漸くオレはやりたい事を定め、それに向かって行動する事を決めたのだった。

 そしてその様子を物陰より見つめる人物が……


 シームルグである。

 レイジの決心を見届けると、独り言のように話し始める。


「レイジはいよいよ動き始めそうです。創造主(マイマスター)よ。」


 フギンとムニンの介入は予定外だったが、概ね予定通りに事は進んでいる。

 シームルグはそう思い、レイジのいる小部屋から離れていった。





 翌朝、少し遅めの起床をしたレイジ達はこのままロードプルフへ帰る事にした。


「じゃあシームルグ、頼んだ。」


「ああ。任せておけ。」


 余談だが、朝食ついでにシームルグに新たな料理を出しておいた。

 これで20種以上の料理を教えた事になり、シームルグもご満悦のようだ。

 オレも今までに見たことのない調味料や食材をイメージで出しておき、アイテムボックスに大量に詰め込んである。

 ソースだけでウスター、中濃、とんかつの三種に加え、ステーキソースやお好みソースなど、数種類を用意しておいた。

 オレにとって味変は、それほどまでに重要案件だったのである。



 ロードプルフまでは来た時と同じ2時間弱。ゆっくりとしながら帰っていく。

 何故時速300キロ近いスピードの中ゆっくりできるのか。

 来た時の状況を踏まえて、予め対応済なのだ。

 オレのウインドウォールとミルファのマジックガードの複合技で全ての風を受け付けない膜を生成する事に成功しているからである。

 これにより、この空の旅が一段と快適なものになっているのだ。


 ロードプルフ5キロ手前から低空飛行にしてもらい、1キロ手前で降ろしてもらう。

 此処から徒歩で帰る事になる。

 流石にシームルグのような巨鳥が街まで行くと討伐対象になり兼ねない。

 此処は自重して、1キロ手前からは徒歩にしようと予めミルファと話していたのである。


「ギルドに寄る?別に売らなくてもお金には困ってないけど。」


「うーん……レイジさんのアイテムボックスの容量って大丈夫なんですか?

 大丈夫なら寄らなくても私は問題ないです。」


 アイテムボックスの容量か。考えた事もなかった。

 オレの中で勝手に無限に入ると解釈していたが、確かに容量という概念があるかもしれない。

 ただ、調べる事も不可能に近いので、実際容量に限度が来た際に調べるしかないだろう。


 そんな訳で、今回素材の売却はせずに全て持ち帰る事となった。

 朝ゆっくりし過ぎたのか、家に着いた時には正午近かった。


「ただいまー。」


「おう。やっと帰って来たか。随分頑張ったんだな。」


 居間ではエイルが寛いでいた。


「おかえりー。遅くて心配しちゃったよ。アゲトダンジョンの何処まで潜ったの?」


 台所から出てきたマリーはオレ達のこの三日間を聞いてきた。


「実はアゲトダンジョンには行ってないんです。」


 オレ達はこの三日間シームルグに乗ってファスエッジダンジョンへ行ってた事、50階層を拠点に49階層から53階層で稼いでいた事まで伝えた。

 ただ、50階層でのイメージによる物質の生成についてだけは話さないように心掛けていた。

 というのも、単純にシームルグから口止めされているからだ。


 こんな話をしていると、ディルもニ階から降りてきて全員が居間に集まっていた。


「皆集まってることだし、スイーツでも作りましょうか。」


 誰もが聞き覚えのないスイーツという言葉に首を傾げている。

 説明するより作った方が早いと、卵と牛乳、それと小麦粉からクッキーを作ることにした。


 なんて事はない。これらの材料と砂糖を混ぜて錬成で形作り、オーブンの代わりに炉で焼くだけだ。

 僅か30分で完成した。皆はその工程から興味津々に見ていたが、炉に入れるのを見て、「それだけ?」と、疑問に思っていたようだった。

 だが、いざ完成品を食べると、その反応は何時も通り。


「うめぇ~。」「おいし~。」など、絶賛の嵐だ。

 オレが旅立つ前に、出来るだけ色々なものをこの家に残しておこう。

 皆の笑顔を眺め、オレはそんな事を考えていたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーむ、忘れられたまま出て行くなら、あまり気にしてなかったのだけど、ちゃんとお別れして出て行くとなると、少し寂しく思います。やっぱロードウインズのメンバーは好きだなぁ(^^)
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