第66話 ファスエッジダンジョン51階層へ
目が覚め、朝食に卵かけご飯をイメージする。
この世界に来て初めての米だ。テンションがかなり上がってくる。
ミルファは米を食べた事がなく、戸惑っているようだ。
以前お握りを作ったが、それは小麦粉から作った偽米だ。
昔テレビでそんなのを作ってる芸人がいたのを真似ただけの偽物だったのだ。
オレが食べ始めると、真似をするように食べていく。
やはり人生初めて箸を持っても使い方が分からないのだろう。
初めて日本に来た外国人はこういう感じなのかもしれない。
勿論、箸と醤油もイメージして実体化させたものだ。
「レイジさん、今日も49階層へ行きますか?」
それをどうしようか考えている。
ブロンズランク試験まではあと三日。
最後の一日を休みにすると、あと二日だけだ。
そう考えると、今からでも下の階層へ行った方が良さそうにも思える。
「ミルファはどうだ?49階層と未知の51階層、どっちへ行きたい?」
「私ですか?私は……」
ミルファは人差し指を口元に当て考え込む。
「レイジさんとなら未知の領域でも問題ないと思います。51階層へ行ってみたいですね。」
オレは口元に笑いを浮かべた。
「決まりだな。今日は51階層へ行く。
シームルグが言ってたオークマジシャンが大した事無かったら更に降りていこう。」
51階層からは今までの石畳からはガラッと代わり、通常の洞窟のようにゴツゴツの岩肌にじめっとした空気になっている。
今までのフロアはシームルグによって何かしらの手が加えられていたのかもしれない。
このフロアに出てくる魔物はオークマジシャンとスライムマーキュリー。
オークマジシャンはその名の通り、魔法をメインとした戦闘スタイルの魔物のようだ。
このオークマジシャンを相手に、昨日話した戦術を試してみる。
おれは基本、盾を構えて相手を牽制していく。
そして魔法の準備をした瞬間に盾で殴りつける。
直接攻撃を仕掛けてきた瞬間、バックステップで躱し、横へ逸れるとミルファの矢が眉間に命中した。
上手くはいったが、魔道士相手には効率が悪い。
この方法は一旦保留となった。
一方のスライムマーキュリーは経験値が豊富なメタルなボディをしたスライムを連想させるシルバーボディだが、その身体は流動的で通常のスライムより液体に近い。
雷属性による攻撃は吸収し、それを放出させてくる厄介な魔物らしいが、オレは雷属性の攻撃はまだ使えないので逆によかったと言える。
しかも全ての攻撃が毒付与という見た目からは想像出来ない程の強敵だが 実は体力が無く、魔法一撃で倒すことが出来る。
倒した際の戦利品は水銀だった。これもかなりの高値で取引される高級品らしい。
とりあえずこのフロアである程度討伐しつつ、経験値と素材集めを同時に行っていく。
オークマジシャンはその肉体は通常のオークより柔らかく美味しいらしい。
このフロアはかなり金になる場所のようだ。
其々50匹は倒しただろうか。
魔法と魔法剣ばかり使っているので、魔力の枯渇が早い。
流石に前日の属性融合を使う程は減らないが、魔力残量は半分を切っている。
一旦50階層へ戻り、対策を練る事にした。
「ヤバイな……全然魔力が持ちそうにない。このままじゃ今日一日すら持たないだろうな。」
全ての魔物に魔力を使っているとこのようになると身を持って実感できたのは僥倖だったのかもしれないが、このままでは鍛錬にはならない。
どうしようか考えてると宮殿からシームルグが出てきた。
「もう休憩か?流石にまだ早すぎるぞ。」
「魔力が持たない……魔法剣に頼らなければいいのかもしれないけど、スキルレベルを考慮しても出来るだけ使っていきたいし、何より一撃で倒せるのは大きいからな。」
「だったら魔力回復薬を使えばいいだけだろう?」
「え?」
魔力回復薬……確かにそう言った。
そのような物が存在していたのか。全く知らなかった。
しかしそのような物を持っていないし、見た事もないのでイメージも出来ない。
お手上げ状態だ。
「だったら作ればいいだけだろう?」
作れるのか。
いや、レシピさえ知っていれば調合で作ることは可能だろう。
だがしかし、オレはそのレシピを知らないのだ。
故に現時点に於いては制作不可能だという事になる。
「調合で作ろうにもレシピを知らないしな。流石に無理だ。」
「何を言っている?宮殿内部でイメージすればいいだけだろう?」
オレもそれは考えた。
だが、元を知らないのだ。
「その現物を一度でも見ていればな。見た事もないんじゃ流石に……」
「だから何を言っているのだ。元などどうでもいい。全てはイメージ次第なのだ。
レイジなら朝飯前だと思っているのだが。」
全てはイメージ……。
そうか。知っていてもいなくても関係ないのだ。
言わば、妄想癖が激しいほどしっかりした物が実体化するという事になる。
それならゲーム内の魔力の回復をイメージすればいいだけだ。
オレは完全にイメージ出来た。
魔力を回復させるその液体。味、容器、効能、その全てを完全にイメージする事が出来た。
目の前には100本程の小瓶が並んでいる。
鑑定するとハイマジックポーションとなっている。
「出来た!これでドンドン進んでいけるぞ!」
試しに一本飲んでみると、身体に魔力が戻るのが分かる。
これは間違いなく魔力回復薬であった。
「シームルグ、ありがとう。助かった。」
「気にするな。さあ、時間もあまりないぞ。とっとと行ってこい。」
オレ達は再び51階層へと降りて行き、再び魔物と対峙する。
そこでは先程までと同じように、魔法と魔法剣を駆使してスライムマーシュリーとオークマジシャンを討伐していく。
それも先程までの倍のスピードで。
「ふい~。疲れたし腹減ったな。今回はここまでにしておこうか。」
「そうですね。レイジさんがドンドン倒していくので、私はそこまで疲れていませんが。」
それでもミルファは状況に応じて矢で効率的に援護してくれている。
それだけでオレの戦いやすさが全然変わってくるのだ。
それが無ければ今回の討伐数もかなり落ちてるだろう。
「あの、レイジさん。ここにいる間は今朝のお米を食べてもいいですか?
帰ったら食べる事ができないなら今のうちに……なんて」
「いいんじゃないか。じゃあ、夕食は丼物にしようか?」
「丼物?」
ミルファは何を言ってるのか理解できずに首を傾げる。
「そうだな……ミルファは肉だったらどんな肉が食べたい?」
「肉ですか……そうですね。あっさりしたヴァルチャーもいいですが、やっぱりトロルでしょうか。」
肉を聞いたのは何丼にするかを決めるため。
トロル肉ならばカルビ丼風が合いそうだ。
オレはオーク肉のカツ丼と決めている。
宮殿に戻ると、シームルグにも食べたい肉を尋ねる。
「私は肉より魚の気分なのだがな。」
魚でも出来る料理はある。鉄火丼だ。
この世界でまだ鮪は見てないが問題ないだろう。
ただイメージするだけなんだから。
三人分のその丼のイメージを頭の中で固めていく。
次の瞬間にはトロルカルビ丼、オークカツ丼、そして鉄火丼が並べられていた。
三人でそれらに舌鼓を打つ。
こんなにも美味いカツ丼は食べた事がない。
この世界の魔物は最高に美味いのに調理技術が追いついてないのは凄く残念に思う。
「なあ、シームルグ。この米を大量にイメージして持って帰ったらマズイかな?」
これからも食べたい一心で聞いてみる事にした。
「うーむ、一応食べ物であるからいいのだろうが……。
条件がある。レイジの知る前世の料理を十品イメージして出してくれ。
私も普段から食べたいのでな。そうしたら、食べ物はいくらでも持って行って構わんぞ。」
それくらいなら全然問題ない。
寧ろ十品で足りるのかと言いたい。
「米を使ってた方がいいのか?それともとにかく美味いものがいいのか?」
「半分は米を使ってくれ。後は任せる。」
それなら簡単だ。炒飯、オムライス、牛丼、カレーライス、そして米料理といえばこれだろう。寿司である。
それ以外の料理として、餃子や唐揚げなど適当に選んでイメージから出し、そこに並べた。
シームルグは大満足している。
ミルファはそれを羨ましそうに見ているが、今度作ってあげるからと、宥めておいた。
今日一日でかなり強くなっただろう。
ステータスを見ると、レベル30超えもあるくらいだ。
ジョブ変更を見てみると、大魔導師、探索者が増えている。
両方付けたいが、ステータスの弱体が怖いので一つずつ変えていこう。
先ずは魔道士を大魔導師へと変更する。
この瞬間、スキル黒魔法初級が黒魔法中級へと変わった。
中級だと氷と雷も使用可能となる。
他にも重力魔法や毒魔法も使えるようになり、従来の四属性の威力も上がっているはずだ。
属性融合の使い勝手も一気に上がることになり、より強力な魔法を使えるようになった訳である。
もしやと思い、ミルファも確認してみた。
すると、新たなジョブとして、司祭が加わっていた。
「ミルファ、ジョブを司祭に出来るぞ!どうする、変えるか?」
「ホントですか!司祭ってマリーさんと同じジョブですよ。私がそれになれるなんて……是非お願いします。」
ミルファもジョブを変え、司祭となることが出来た。
これで鍛えていけば、マリーが使っていた魔物を呼び寄せる魔法も使えるかもしれない。
そうなればより効率よく経験値や素材を稼げるようになるはずだ。
これらのジョブを明日一日で強くして、ブロンズランク試験に臨む事となる。




