第64話 飛行
ブクマが150件達成しました。
ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
家に帰り改めて挨拶をする。
「えーと……皆さん忘れてると思いますが、ロードウインズのメンバー、レイジです。
従来通りお世話になりますのでよろしくお願いします。」
「レイジくん……でいいのかな?これからもよろしくね。」
「忘れてしまい申し訳ない。こちらこそよろしく頼む。」
「まあ、忘れちゃったものはしゃーない。これからも頼むな。」
「レイジさん……良かったですね。」
色々あったが戻ってこれた事は良かった。
皆との関係をまた一からやり直さなければいけないが、そんな事は微々たるものだろう。
とりあえずこれで五日後に控えたブロンズランク試験に注力する事が出来る訳だ。
でもその前に夕食で皆との距離を縮めておこう。
という訳で、時間もあるのでピザでも作ってみよう。
この世界にもパンはあるのだし、鍛冶用の炉を錬成で少し改造すればピザ釜として使えるのではないだろうか。
チーズはディルの好物なのは知っているし、おそらく皆が喜んでくれる出来にはなるだろう。
焼きあがったピザの香りだけで全員がこの鍛冶場に集まってきた。
これは現代日本を生きていたオレでも堪らなくいい香りである。
「スゲーいい匂いだー。今までもこうやって作ってきてくれたんだなー。早く食べてぇー。」
この反応を見るだけでロードウインズにいるっていう気持ちになれる。
やはりこの家が大好きだと実感するいい切欠だったと思う事にしよう。
夕食のピザを食べながら、最近行ってきたことを話し、皆と共有しておく。
それで記憶が戻る事などはないだろうが、記憶の矛盾が埋まる切欠くらいにはなるだろう。
風呂に入るのもたった一日なのに、随分長い事入っていなかった気がする。
長く入ってしまい少し逆上せてしまったようだ。
寝る前にはステータスの確認をしたのだが、基本はそこまで変わっていなかった。
一点挙げるなら、魔法戦士のレベルが20になり、属性融合というジョブスキルを得ていた。
調べたらこれは、付与させる二属性を一つに纏める事で全く別の属性に変えてしまうというものだった。
かなり使い勝手は難しそうだが、一度練習してから使うか判断しよう。
結局思ったような問題はなく、普段通りに生活はできた。
これなら明日からでもブロンズランク試験に向けたトレーニングをしても問題なさそうだ。
唯一の気掛かりはルナだろう。
これはオレだけではなくミルファもかなり心配してる。
先日の依頼達成報酬や売却金もミルファが持ったままだ。
ミルファと話し合った結果、明日とりあえずルナの様子を確認しに行ってみる事に決まった。
そしてこの後、昨夜の悶々とした気持ちをぶつけるようにミルファといちゃついてこの日を終えた。
明くる日の朝、従来通りに起きて行動を開始する。
早い時間にルナに会っておく為だ。
もしルナに問題が無く、朝早くから出掛けていたら一日モヤモヤしてそうだったからである。。
朝食を済ませると、早速ブラッドローズの住まいへと向かう。
先日行ったので場所は覚えている。歩いて三分程の近所だ。
玄関に備え付けられたノッカーを叩く。
「朝から誰……あ、ロードウインズの……」
出てきたのは打ち上げの時正面に座っていた女性だ。名前は知らない。
「おはようございます。えーと、ルナちゃんはいますか?」
「ルナ……?ああ、昨日からきた子ね。ちょっと待ってて。」
今の女性にはまだあまり認知されてないのか、ルナの名前に対してまだ分かってない様子だった。
間もなくルナは玄関にやってきた。
「あ!ミルファちゃんとレイジくんです。おはようです。どうかしたのです?」
出てきたルナは普段と変わらぬ様子で特別問題があるようには見えない。
「ルナちゃん、おはよう。昨日帰ってからは問題なかった?なんか気になっちゃって。」
「あははっ。ミルファちゃんは心配性です。皆さんまだ少し余所余所しいけど、優しく接してくれてるのです。
今日は一日皆と交流を深めて、明日から狩りを再開させるらしいのです。
四日後の試験まではブラッドローズで鍛えるのです。
二人共強かったのです。本番は負けないように頑張るのです。」
ルナは色んな意味で一回り大きくなった印象だ。
オレも負けないように頑張ろうと強く思うことになった。
「そっか。よかったね。私達は今日から本番に向けての練習してくるわ。
ブロンズ試験、一緒に頑張ろうね。」
「はいです!」
ルナにブロンズランク試験で会おうと伝え、オレ達はギルドへと向かった。
ギルドに到着したが、今日は人が多い。いや、多すぎる。
何かあったんだろうか?
原因を探るにも依頼を受けるにも、とりあえず中に入ってみる。
中も人でごった返していた。
そして直ぐにその原因を耳にする事となった。
「本日より当面は東の森、及び浜辺の洞窟への立ち入りを禁止致します。
冒険者の皆さんの生活が掛かってるのは重々承知しておりますが、何卒理解の程をよろしくお願いします。」
東の森と浜辺の洞窟が両方立ち入り禁止?そうなると日帰りで行けるのは赤狼の丘くらいしか考えられない。
ヴァルチャー狙いでもいいが、立ち回りが完全に頭に入ってるので練習にはならない。
そういう意味では赤狼の丘も同じ事が言えそうだ。
「困ったな……。練習になりそうな場所が見当たらないぞ。どうする?」
「そうですね。ファスエッジダンジョンだったら、行くだけで三日だから戻ってきたら試験終わってますもんね。
エイルさんに一度相談して、何泊かしてアゲトダンジョンにでも行きましょうか?」
ミルファの言う通り、いずれにせよエイルに話さなくてはいけないようだ。
この場は一旦諦め、仕切り直す事にした。
「エイルさん。少しいいですか?」
「ん?どうしたー?そんな真面目な顔して。流石に今日はお前の事覚えてるぞ。」
いや、そんな事はきいていない。てか、これ以上忘れてほしくない。
「今日から東の森と浜辺の洞窟が立ち入り禁止になったんです。
それで、ブロンズ試験の為に適度な強さの魔物が出る所で鍛錬したいんですけど……何処かありますか?オレはアゲトダンジョンくらいしか思い浮かばないので。」
「あと四日だろ?難しいな。オレが思いつくのもアゲトダンジョンしかないな。」
やはりアゲトダンジョンしかないようだ。
エイルに許可を貰い、直ぐに出発すれば今日で少しは進めるかも知れない。
「ミルファ、アゲトダンジョンへ向かうか?急いで行かなきゃいけないけどな。」
「分かりました。直ぐ準備を始めますね。」
そんな感じでアゲトダンジョン行きが決まったのだった。
街を離れて10分も歩き、周囲から人の気配が無くなるくらいの所まで来ていた。
今のところは魔物も出ていない。
気楽な旅だと、かなり余裕で歩いていた。
その時、胸の周りが強く光りだした。
オレは何が起きてるのか理解出来ていない。
どうしていいかも分からず戸惑っていると、ミルファが何かに気付いた。
「レイジさん。それってシームルグ様を呼び出す光じゃないですか?」
まさかとは思ったが、他に何も原因が思いつかないので呼び出してみる。
「出てこい。シームルグ!」
一瞬にして光は弾け、シームルグが姿を現した。
「話は聞いてたぞ。ファスエッジダンジョンに来れば良かろう?」
「いや、遠くて行けないって。ここからあそこまで片道三日掛かるんだぞ。試験は四日後だぞ?無理無理。」
オレのその反応にシームルグは首を傾げる。
「何のために私がいるのだ?私に乗れば二時間も掛からないぞ?」
「え?」
シームルグに乗れば二時間掛からない?
その意味を理解するのに、少し時間が掛かった。
そう。空を飛んで行くことが出来るというのだ。
そうと分かれば早速向かう事にしよう。
「まさか乗れるとはな。考えもしなかったわ。」
「私の今の状態が精神生命体に近い状態だが、実体はある。だから攻撃も出来る訳だしな。
だからこそ乗せて飛行する事も可能な訳だ。」
「よく分からんけどそうなんだな。助かった。よろしく頼みます。」
思わぬ形で最高の乗り物が手に入り、オレ達は急遽ファスエッジダンジョンへ向かう事となった。




