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第63話  追憶

 思った以上にスッキリした目覚めだ。

 昨夜は二人の美少女に挟まれた状態での就寝だったので、絶対寝ることが出来ないと思っていたのだが、疲れがあったのかすんなりと眠る事が出来たらしい。


 因みにオレは今、部屋の外で二人を待ってる。

 ミルファは普段から共に生活をしてたので問題ないが、ルナの着替えを黙って見てる訳にはいかないだろう。

 二人は気にしないと言っていたが、そこはオレが気にしてしまうのだ。

 勿論昨夜も外で待っていた。


 二人の準備が整うと、食事を済ませてギルドへと向かう。

 ロードウインズのメンバーには朝食後と話してあるが、ブラッドローズには連絡を入れていないのでそのタイミングで来るかはわからない。

 ギルド長にアポを取っていないのも不安ではあるのだが。


 ギルドでは朝のピークは過ぎたものの、通常依頼を受ける冒険者でまだ混雑してる時間だった。


「しまったな。もう少し遅らせれば良かったわ。」


「見た限りだとまだ皆さんは来てないようですね。奥に行ってるかもしれないので受付で確認した方が良さそうですね。」


 受付で確認すると、エイルとマリーは既にギルド長室でまってるらしい。

 ディルが居ない事を疑問に思っていると、受付嬢からディルはブラッドローズを呼びに行ったと教えてもらえた。

 受付嬢の先導でギルド長室へと向かっていく。

 


 ギルド長室ではエイルとマリーが並んで座っている。

 ギルド長はまだ来ていないようだ。

 マリーは此方に気付くと直ぐにミルファに話しかけてきた。


「あ、おはよう。ミルファちゃん。ちゃんと眠れた?」


「おはようございます。大丈夫ですよ。しっかり眠る事が出来ました。」


「そっか、考えたら三人でミルファちゃんの部屋に寝れば良かったんだよね。気付くのが遅かったみたい。ごめんね。」


 それはそうなんだが、二人のオレに対する記憶がない以上、まだ加入して一ヶ月の新人であるミルファがいきなり知らない人を連れてきて泊めてあげますって訳にはいかないだろう。

 それを考慮して今回は外泊を選んだのだから。


 エイルは何かを考えてるようで全く動く素振りすらない。

 どことなく気不味い空気になってく中、エイルは口を開いた。


「なあ、レイジったか?オレにはお前の記憶が全くないんだけど、間違いなくお前はウチのメンバーなんだよな?」


 エイルは何時になく真剣に、真っ直ぐ俺を見て聞いてくる。


「はい。間違いなくオレはロードウインズのメンバーで、あの家に住んでいました。」


「そうか……。考えれば考えるほど分からないことが増えていくんだ。

 誰も鍛冶などしないのに使った形跡のある炉や、何時、何処で学んだかも全く記憶にない料理レシピも。

 何よりの疑問は、この金だ。」


 エイルはそう言って大量のプラチナ貨を出す。


「これはつい最近一回だけの魔物素材の売却で得た金だ。記憶では大量の魔物をギルドに持ち込んで一気に売ってこの金を手に入れたはずなんだ。

 でもどうやってそれだけの魔物素材を此処まで運んだのか、それが全く記憶に無いんだよな。」


「……確かに。言われてみたらそうだわ。確かファスエッジダンジョンで……、え?分からない……どうして?」


 そうか。オレだけが持つ能力の記憶改ざんはされていない。

 その為に記憶の欠落が発生してるのだ。

 これなら記憶の復活は無理でも、オレが存在したという認識は持ってもらえる可能性がある。


「それは確かにオレのアイテムボックスで運んでますからね。てか、今エイルさんが言ったことは全てオレがやってきた事で間違いないと思いますよ。」


 オレはエイルの疑問の全てが自分の行いである事を、素直に認めた。

 それらの事柄に、どのような質問をされても全て正直に答える事が出来る。

 それらは間違いなくオレがやってきた事なのだから。

 と、その時扉が開き、誰かが入ってきた。


「おはよう。話は聞いた。皆集まってるのか?」


 部屋に入ってきたのはギルド長だ。

 まあ、ノックもしないで入ってくるのはギルド長とエイルくらいだろう。


「隣の会議室に移動しよう。おそらく此処じゃ収まりきれなくなるだろう。」



 多人数が座れる会議室へ移動したオレ達は、ギルド長に個人的な事を訪ねた。

 それはブロンズランク試験。

 オレとルナは試験に登録してあるが、そのまま有効なのだろうか。

 他の者が来る前にそれを尋ねておいた。


「えーと、レイジ……とルナ……ふむ。二人共ちゃんと名簿に登録されてるから大丈夫だぞ。

 しかし、ホントの事だったんだな。我々の記憶から無くなるとは……。

 この試験登録が無かったら信用出来なかったかもしれんな。」


「試験を受ける事が出来ると分かっただけでも僥倖ですよ。とりあえずは良かったです。」


「しかしお前、所属がロードウインズって……もう一人のルナは……ブラッドローズ?何の因果なのか……。」


 因果とは多分昨夜ディルが話してた事だろう。

 あの話だと、この街のAランク五人全員が関係してる様だったが。


「それと突然の発表になるが、ブロンズランク試験は五日後に行う事になった。

 四人中三人が此処に集まってるからとりあえず教えておいたからな。」


 ブロンズランク試験を受ける事が出来ると分かれば良かったが、日程も決まっていたようだ。

 この五日間で生活を安定させて、一日でも鍛錬をしておきたい。

 

 その後今回の関係者が集まるまでは他愛もない話をして時間が過ぎていく。

 そして二時間後。

 ディル、ソニア、パウロの三名がこの場に集まり、今回の記憶が無くされた事案について話がされた。



 始まりは10年前、当時15歳だった教会の見習いをしていた少女サフィアが、新人冒険者でありながらその実力が評価され頭角を表していたディルとパウロを護衛として連れて、東の森までアフラ草の採取に行った事からであった。

 当時、エイルとマリー、ディル、パウロの四人はベテランのAランク冒険者ダイン(現ギルド長)に育てられ、寝食を共にしていた。

 この四人と近所に住むソニア、そしてこのサフィアは幼い頃よりよく遊ぶ所謂幼馴染として育っていた。

 この時の東の森では、魔物が強力になっているという異変に陥っていて、ギルドからも立ち入り自粛の要請がなされていた。

 そんな中、自分達の強さを疑っていなかったディルとパウロは自分達なら大丈夫だと高を括り、サフィアの依頼を受け、森へと入っていった。


 この時、森の浅い所までしか入っていないが、オークの群れに襲われてしまったのだ。

 サフィアを守りながら必死に抵抗した二人だったが、その力は及ばずサフィアは攫われ陵辱されてしまう。

 重傷を負った二人は、それでもサフィアを探し出し救出に成功するが、既にサフィアの精神は崩壊してしまっていた。

 それでも生きていればなんとかなると思っていたふたりの前に現れたのが、フギンとムニン、それと八本足の馬に跨る全身甲冑の男オーディンだった。


 オーディンは二人に問うた。


「ふっふっふっ、その娘の魂を救いたいか。救いたければ願え。さすれば魂だけは救われる。」


 既に満身創痍の二人は明らかに怪しいその人物と戦う力は残っていない。

 ならばせめてと、オーディンに願った。

 その瞬間、フギンとムニンは呪文を唱えた。

 そして発せられた光。

 これによりディルとパウロ以外の者からサフィアに関する記憶が失われたのだった。


「これでその娘が死んでも悲しむ者はいない。その娘の魂は永遠に救われるのだ。お前達の願い叶えたぞ。」


 オーディンの言葉の後、手に持つ槍がサフィアを貫いた。

 サフィアはこうして皆に忘れられたまま、この世を去った。



 そして現在、オレとルナは同じように皆に忘れられている。


 昨日の呼び出しもこの話だったらしい。

 その為、東の森への立ち入りが制限されていたのだが、浜辺の洞窟に奴らが来るのは想定外だったらしい。

 オレ達にとっての幸運だった事はそこにオーディンが居なかった事なのだろう。

 もし居たなら間違いなくこの世から消えてしまっていたはずだ。


 ディルとパウロにとっての幸運はオレ達の被害で自分達の話に信憑性を持たせる事が出来た事だろう。

 オレ達もその時の状況を説明し、今回の事件の詳細を共通認識させる事で今回は解散となった。


 そして話し合いの後、オレ達の住まいの話の話題となる。


「なあミルファ。そいつ、レイジ……だったよな。レイジはオレ達ロードウインズのメンバーでウチに住んでたんだよな?

 じゃあ、……なんつーか、今まで通りウチに住んでていいんじゃないのか?」


「ありがとうございます。でも、ルナは……」




「ルナ……よね。ごめん。ブラッドローズのメンバーって分かってもまだアンタの事思い出せないんだ。

 でも、もし許されるなら、またウチで一緒に活動出来る?」


「姉さま……いいのです?皆ウチの事知らないのです。それなのに一緒に生活して大丈夫なのです?」


「いいよ。文句言う奴は私がお仕置きしてあげるわよ。……帰ろうか。」


「……はいです。」



「ルナも無事にブラッドローズに戻れたようですね。レイジさん、帰りましょうか。」


「だな。エイルさん、これからもよろしくお願いします。」


「ああ、これからもよろしくな。レイジ!」

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