第58話 ルナとの約束
昨日は沢山の人が読んで下さり、ブクマや評価をしていただいたお陰で、日間ファンタジーランキングに初めて入ることが出来ました。
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「ミルファ、明日予定なかったら武器性能のテストに付き合ってもらっていいか?」
「そんなの何処まででも付き合いますよ。何処でやりましょうか?」
ミルファは食い気味で了承してくれた。
「そうだなー……東の森をちょっと深くまで行ってみるか。今のオレ達ならオークが数匹でも問題ないはずだしな。」
メノウリザード辺りでもいいのだが、距離を考慮したらあまり得策ではない。
東の森でオークに遭遇出来るならそっちのほうが楽だろう。
そういう訳で、一先ず予定を立てておいた。
一応エイルには話を通しておこうと考えてるので、決定はその後になるだろう。
今オレ達は孤児院からの帰りの馬車から降りたところだ。
孤児院からの帰りの馬車もギルドで止まる為、ここからは徒歩で帰る事になる。
「あー!ミルファちゃんです。見つけたのです。」
ギルドから誰かが勢いよく走ってくる。
「ルナちゃん?きゃっ!」
全力で走ってきたルナは勢い余ってミルファに激突した。
「だ、大丈夫か?」
見た限り怪我はなさそうだ。とりあえず安心した。
当の本人であるルナは申し訳なさからか、どうしていいか分からず狼狽えている。
「ご、ごめんなさいです。ミルファちゃんを見かけて嬉しくてつい……。
そうです!聞いたのです。ミルファちゃんとレイジくんもブロンズ試験受けるのですよね?」
「うん。受けるよ……ん?私も?って事は……ルナちゃんも?」
「そうなのです。私達三人一緒に受けるのです。今から楽しみなのです。」
ルナも一緒とは……全部で四人と言ってたはずだ。
残りは一人。そいつも知ってるヤツなのか。
「全部で四人って聞いたけどもう一人って知ってる?」
「いや、知らないのです。ルナも姉さまからレイジくんとミルファちゃんが一緒って聞かされただけなのです。」
ルナも知らないなら考えても仕方ない。
後は日程だけなのだが。
「まだ試験の日程は決まってないのですよ。
それでですね。前に話した一緒に魔物討伐をしようって話をやりたいと思ったのです。
ソニア姉さまはそっち優先で行っておいでって言ってたのですが、どうです?」
オレとミルファは顔を見合わせ考える。
「何時でもいいよな?」
「はい。あ!でしたら明日はどうですか?丁度二人で狩りに行こうとしてたじゃないですか!」
「あ。明日ですか?わ、わ、分かったのです。大至急姉さまに話してくるのです。
では朝食後にギルドで待つようにするのです。ありがとうでーす。」
「いや、まだ決定じゃ……な……いって、もういないし……。」
「ふふっ。まあ、ルナちゃんらしくて微笑ましいですよ。」
此方の会話を聞いて、確認もせずに行ってしまった。
オレ的には明日は武器性能の確認をメインで試しつつ、場合によっては召喚も試しに使って見たかったのだが、ルナが一緒ではそれも出来ないだろう。
とりあえず明日は武器性能チェックだけしたら、ルナとの共同での討伐を楽しむ事にするか。
家に帰ると、何故か全員で料理をしている。
聞くと全員がハンバーグ作りに夢中らしい。一種の中毒状態かも知れない。
「待っててください。スープはオレが作りますから。」
「待って。私も!」
実は子供達からお礼にとトウモロコシを頂いてきていた。
これで必殺のコーンスープを作るのだ。
ミルクのような傷みやすいものはアイテムボックスに入れてあるのでバッチリだ。
スープの完成を待ってからハンバーグを焼き始め、少し遅めの夕食になった。
「エイルさん、明日も自由でいいんですよね?ちょっと東の森で狩りでもしてこようと思ってるので。」
「東の森は止めておけ。」
珍しくディルから止められてしまった。
ダメだとしても普段はエイルが言ってくるはずなのだが…。
「東の森はダメなんですか?困ったな。他に何処か適度な強さの魔物出る場所ないですかね?」
「だったら浜辺の洞窟がいいんじゃない?レイジくんにとっても新鮮なはずよ。
なんてったって出てくる魔物は水棲魔物ばかりだからね。」
浜辺の洞窟。オレは聞いた事がないが、東の森がダメならそこにしようか。
場所は東南、東の森に向かう途中で浜辺へ出る手前の岩山に入口があるらしい。
ロードプルフの中級冒険者は大体がこの浜辺の洞窟を使って日銭を稼いでいるという話だ。
水棲魔物は船の護衛の時だけしか相手をしたことがない。
慣れない環境と慣れない相手、更には慣れない武器を手にして戦う事になる。
結構注意しなくては。と気を引き締める事にした。
「丁度いいや、俺等三人ともギルド長のおっさんに呼ばれたもんだから、明日はそっち行かなくちゃダメらしいんだわ。
またゴールドランクの特別依頼が入ったら、またお前達二人だけでの行動になるかも知れないけど、まあ、その時はまた伝えるわ。」
また王子の時のような厄介事の可能性もあるのかもしれない。
それによってブロンズ試験の日程が伸びなきゃいいのだが。
「そんな感じで頼むな。んじゃ、風呂入ってくる。」
「あ、待って私も~。」
エイルとマリーは当たり前のように二人で風呂に入りに行く。
一か月前はそんな素振りは一切無かったのに、今では当たり前のようになっているから不思議なものだ。
まあ、それに関してはオレとミルファも同じだから何とも言えないのだが。
「ディルさん、東の森で何か起きてるんですか?」
「まだ確定じゃないけどな。情報として魔物の動きが活発になってるらしいんだ。それに……」
「それに?」
「いや、何でもない。気にするな。」
気にするなって言われた方が気にするのが世の常のはずだ。
どうして人は隠したい時に気にするなって言うのだろうか。
それを言わなければそこまで気にしないって事に気がつかないのは何故なのだろうか。
なんて、これこそ気にしちゃ負けだろう。
エイルとマリーが風呂から上がると、続けてオレとミルファでふろに入り、機嫌のいいミルファはオレの全身を洗ってくれた。
その結果どうなったのかは想像にお任せするという事で割愛する。
次の日。少し早く起きてしっかり準備をしている。
何だかんだでルナとの狩りが楽しみだったりしているのだ。
そんなオレの様子はミルファも気付いてるようだが、そこは特別触れてこないようだ。
確かにミルファ自身が楽しみにしているのもあるかもしれない。
まあ、本当に嫌ならこの話そのものを断るだろう。
ミルファの準備も終わり早めに家を出る。
外に出ると家の前に人影があった。
「あ、あの、此方に……あ!ミルファ!」
いたのはマザーサリサだ。
昨日の今日でどうしたのだろうか?
「ミルファ、レイジさんも。これ、お返しします。こんなの受け取れる訳ないでしょう?」
「え?レイジさんも?どういう……ちょ、レイジさんも渡したんですか?ダメですよ。これは私の恩返しでやってるんですから。」
「オレもだけど?ミルファを育ててくれてありがとうって意味だから。」
ミルファにバレてしまったのは予定外だが、この気持ちは本当だ。
別に同情とかそんな気持ちで渡したものではない。単純な感謝の気持ちなのだ。
「とにかくこんな大金受け取れません。先ずこんな大金どうやって手に入れたの?冒険者の稼ぐ額じゃないですよ?」
「普通に冒険者として稼いだお金ですよ。まあ、殆どレイジさんのお陰なんですけどね。
家の中にいる先輩の皆さんに聞けばわかると思いますが、私達が稼いだお金のごく一部なんですよ。
私の取り分だけでそれ以上あるんで、お願いだから受け取ってください。お願いします。」
そう言いながらミルファは頭を下げた。
「それにしてもレイジさんからまであると……どうしたらいいか……」
「昨日のように食材で渡せればいいんでしょうけど、そんなにこまめに顔を出したりは出来ないんですよ。
冒険者として長期間離れる事もあると思うんです。それなら質は落ちるかも知れないけど、いい肉を買ってあの子達に食べさせてやってください。
そうやって育てていけば、その子も冒険者になって同じように返してくれるかも知れない。
世の中を変えて同じ境遇の子が出ないような世界にしてくれる子が現れるかもしれない。
そのお金はそういう未来ある子供達の為に使ってください。」
「レイジさん……マザーサリサ。よろしくお願いします。」
オレの言葉を聞き、ミルファはマザーサリサに頭を下げ懇願する。
「なんか私が責めてるみたいじゃない?困ったわ。……もうっ、分かりました。お二人の心遣いに感謝致します。未来ある子供達の為に、このお金は大切に使わせて頂きます。
でもホントにもうやめてください。此方の心臓が止まってしまいますから。」
納得してもらい一安心だ。
と、ここで待ち合わせのギルドへ向かう事を思い出した。
「ミルファ、時間!もう待ってるかも。」
「あ!急がなきゃ!じゃあ、マザー。また遊びに行きます。急いでるので失礼します。」
オレ達は走ってギルドへと向かっていった。




