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第57話  彼女の実家

 家に帰ってからの楽しみは、最後の換金結果だろう。

 この日はエイルとディルの二人でギルドに行って金を受け取ってるはずだ。

 今更だが、盾でも作る時の為に、ドラゴンの素材を少し残しておけば良かったと後悔している。

 あれがあれば、結構いい盾でも作れたのではないだろうか。

 まあ、今更言っても後の祭りだが。


 少し早く帰ったからだろうか。エイル達はまだ換金から戻ってないようだ。

 もしかしたら、またギルド長に捕まって、何やら揉めてるのかもしれないな。なんて思っていたのだが、直後に何事もなく帰ってきた。

 大体こういう時は問題が起きるっていうのが定番のはずだが、物語の様にはいかないみたいだ。

 そして最後の売却金額がエイルの口から発表される……。


「いいか、最終日、最高の素材の金額は……これだけだ!!」


 そう言って出された袋から出てきたのはプラチナ貨の山。

 その数2000枚。実に20億Gだとか……。


 流石のオレもドン引きだった。

 いや、嬉しいのだが、20億とかどうやって使うの?って聞きたくなるレベルだ。

 昨日の1億6000万で泣いてたマリー姉さんが可哀想に思えてくる。


 聞くと、ワイルドドレイクの皮と鱗から作る鎧には毒・麻痺無効効果が付く超貴重素材らしい。

 その為、ワイルドドレイク1匹で1500万での取引になったらしい。

 ファイタードラゴンも同じ価値はあったらしいが、実は爪が一番貴重だった為、それが無い分500万の値下げになったとか。

 それについてはこの後大変説教を受けることになったのだが、それはまた別の話だ。


 ともあれ、無事に今回の報酬を受け取ったオレ達はこの日、トロル肉パーティーで大いに騒ぎ、楽しんだ。

 お金について話し合った結果、一人4億Gずつ、その前日までのお金を生活費として全員で管理する事に決まった。

 この瞬間オレは明日買いに行く予定の防具をより高級にしようと、淡い願望を抱いたりしていた。


 流石に気分が高揚し過ぎていたのか、少々飲みすぎたようなので、風呂は止めてウォッシュだけにしておく事した。

 ミルファは大丈夫ですよ。とか言いながら入ろうとしていたが、無理矢理止める事が出来た。

 飲んで風呂はとても危険なのだ。絶対入ってはいけない。


 皆が寝静まり、オレ達も就寝しようとしていた時、ミルファから明日の予定を聞かれていた。

 

「武器を完成させる事と、防具を新調したいから防具屋へ行くくらいかな?そこまで時間は掛からないと思うけど……なんで?」


「えーと、纏まったお金が入ったので、孤児院にお金を渡しに行きたいんですよ。

 それで、レイジさんにも一緒に……来て欲しいなー……なんて……ダメですか?」


「ああ。いいよ。ミルファが育った家でしょ?楽しみだわ。」


「ホントですか!やった。良かったー。」


 小さく拳を握り、喜びを表している。

 この日は眠りに就くまでミルファの孤児院の家族の話をずっと聞いていた。

 その話をしてる間のミルファは実に楽しそうに思えた。

 何となくだけど、いい環境で育ったんだな。素直にそう思ったんだ。


 翌日はいつもより少し早めの起床。

 少し眠いがこれくらいは問題ない。

 

 朝食後には早速新武器の柄作りを開始する。

 柄も勿論軽量化させるのだが、ある程度の重量はほしいと思い、錬成する際に僅かな鉄芯を入れてみた。

 そのバランス取りが一番時間が掛かったのだが、三時間後遂に新たなオレ専用オリジナル武器が完成したのだ。

 鑑定しても武器名称なしと出る。

 なので、単純だがアルミと爪から出来てる剣という事で、鋁爪剣(りょそうけん)と名付ける事にした。

 まあ、ネーミングセンスはないし、変に厨二的になっても嫌だからこれくらいが丁度いだろう。


 ミルファに完成を伝え、防具屋に行くことを伝える。

 見せて欲しいときたが、恥ずかしいのと時間を考え後でと言ってとりあえず防具屋へ向かうことにした。


 以前も来た防具屋だ。

 あれは冒険者になったその日だったはずだ。

 それからずっとこの革の鎧を使ってきた。たかが革の鎧だが、これに今まで命を守ってもらって来たのだ。ホントに感謝しかない。

 店に入ると、以前にも対応してくれた愛想のいい店員が声を掛けてきた。

 その店員に、そろそろ初心者装備から中級者装備に切り替えたい旨を伝えた。


「でしたら鎖帷子(くさりかたびら)か、スピードを捨てて鉄の鎧ですかねー。着てみますか?」


 とりあえずその2点を試着させて貰う事にした。

 結果は……兎に角重い。重すぎる。

 鎖帷子(くさりかたびら)でさえ重くてスピードが落ちるのが分かるくらいだ。

 そうなるとかなり困った事になる。装備が見つからないかも知れない。

 その困った様子を見て店員は予算を聞いてきた。


「金は多分どうにでもなると思う。問題はこの重さだけかもなー。」


「えーとですね。結構金額は跳ね上がってしまいますが、魔力を帯びた防具はどうでしょう?

 こちらへどうぞ。」


 連れられ行った場所は店の奥の在庫置き場だ。


「これです。どうですか?これは一品だけの素晴らしい胸当てなんです。

 それと他の場所の守りを此方のチュニックでカバーすればオーケーです。」


「これはいいな。軽いし動きやすい。」


 魔鋼で出来たその作りに既に目を奪われている。

 チュニックでさえも魔糸を使用していて、銅の剣くらいなら逆に刃こぼれするくらいだろう。


 更に膝当てとフィンガーグローブを合わせて購入し、総額150万Gだった。

 所持金があると気分も変わるものだ。安いと思ってしまった。

 装備を一新し、新たな気持ちで店を出ると、この後はミルファの育った孤児院へ向かうのだ。

 なにげに一番の楽しみだったりもする。


 そこからは徒歩では時間が掛かるので、馬車移動だ。

 以前マリーと孤児院に顔を出した事は聞いているが、いざ自分が顔を出すとなると、非常に緊張するものだ。

 まあ、初めて彼女の実家に挨拶に行くようなものだ。

 緊張しない方がおかしいのかもしれないが。


 道中のオレは多分顔を引きつっていただろう。

 それでも、オレの手を優しく包んでくれているミルファの手が、緊張を和らげてくれていた事は間違いない。


 孤児院では盛大な歓迎を受ける事にはなった。

 ミルファが男を連れて帰ってきたからなのだが、今までそう言って顔出ししたのは決まって結婚報告だかららしい。

 ミルファもそれはまだ無いと否定していたが、その顔は満更でもないようだ。

 オレは……どうなんだろう?前世での失敗があるので気が引けている部分もあると思う。

 今はあまり考えることは出来ないだろうな。


 滞在出来る時間はそこまで長く無いだろうが、出来る限り子供達と遊んでいたのだが、男の子はヤンチャで、女の子はマセている。

 これは何処の世界でも同じなのだと、染み染み感じた。


 時間が経つのは早いもので、日が暮れ始めてきたようだ。

 子供達、特に男の子は名残惜しいのか、服を引っ張ってくる。


「よし、わかった。お前達に一つ仕事を与える。このオーク肉をお前達が料理するんだ。

 勿論シスターの言う事をしっかり聞いてやるんだぞ。

 ちゃんと出来たか今度確認しに来るからな。サボったらダメだぞ。じゃあいけー!」


 子供達は目を輝かせてオーク肉を持ってキッチンへと走り出した。


「オーク肉なんて高級なもの、頂いてもよろしかったのですか?」


「ええ、それとこれもお渡ししておきます。早いうちに召し上がって下さい。」


 渡したのはトロル肉だ。熱で少し溶け始めている。


「凄い。こんなの食べた事ないですよ。本当によろしいのですか?」


 オレは頷き、ミルファと笑い合った。


「私からはこれを。」


 そう言いミルファが小袋を渡す。

 中に入ってるのはプラチナ貨100枚だろう。準備してる姿を見てしまったからな。


「今は開けずに後でゆっくり開けてください。」


 マザーサリサを中心としたシスター達は皆何かを察したようで、お互い目で合図を送る。


「ミルファ、これは受け取れないわ。持って帰ってちょうだい。」


 実はこう言われるのは想定済みだ。

 なので此処はオレが出てこう。


「マザー、オレ達冒険者は常に命をかける仕事をしてます。

 明日生きてるかも分からない中で常に最善だと思う行動をとって生きてます。

 ミルファは出来るだけ育ててくれたこの孤児院に恩返しがしたいと常々口にしています。

 これは冒険者ミルファの此方への想いそのものなんです。

 そんなミルファの意思を無下にせずに受け取ってもらえないでしょうか?」


「……全く、その言い方は狡いですよ。ここで断ったら此方が悪いように見えてしまうではありませんか。……ミルファの気持ち、受け取らせて頂きますね。」


 そうして当初の目的を果たせたミルファは晴れやかな表情で皆に手を振り孤児院を後にした。



 

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「ねえ、マザー。ミルファちゃんの彼氏がマザーに渡してってこれを渡されたの。」


 少女がマザーサリサに渡したのはミルファが渡したのと同じ小袋。


「これって……まさか……!」


 マザーサリサは慌てて小袋を開けてみる。

 出てきたのはプラチナ貨ばかり100枚。

 その額を見て腰を抜かしたかのように座り込んでしまう。

 普通に生きていたら先ず目にすることのないような金額だ。これが普通の反応だろう。

 その瞬間マザーサリサはミルファから貰った小袋に目をやった。

 もしかして……

 思わずその場で開けてみる。

 入っていたのは同じプラチナ貨100枚。

 あり得なかった。合計で2億Gという額は、この沢山の子供を抱える孤児院でも、何十年という期間で費やす額だ。


「あの子達一体何をやってるの?これって……まともに稼いだお金なのかしら?」


 マザーサリサは明日にでもミルファに確認しに行こうと決意していた。

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