第49話 捜索依頼
本日2話投稿出来そうです。
50階層のボス、シームルグはオレと召喚契約をし、召喚獣としてオレの呼び掛けに答えてくれる事になった。
そしてオレをこの世界に転生させた神。それに一抹の不安を感じていたオレはその事をシームルグに訪ねてみた。
「レイジはあの神より特別な指示は受けてないんだろう?ならば何も気にせず今まで通り好きに生きていけばいいはずだ。何も問題はない。」
シームルグはそう言い、今後も今の生活を続ける事に問題がない事を告げた。
「んじゃあ、シームルグ様、俺達そろそろ行きますわ。」
「エイルと言ったか、レイジの事、宜しく頼むぞ。」
オレ達はシームルグに別れを告げ、この先にあるスペースで休憩を取り次第、魔法陣から帰路に着くことにした。
「とりあえずはこのダンジョンでの食事もこれで終わりかー。少し名残惜しいな。」
「オレはやはりあの家に帰りたいです。あの家が俺にとって唯一の帰る場所ですから。」
確かにオレも、このダンジョンに名残惜しさはあるが、それよりも今は家に帰り、ミルファとゆっくり過ごしたい気持ちが優っている。
一度ダンジョンを出てしまえばまた1階層から始めなければいけないのだが、そんな事は今の気持ちに比べたら些細な事だ。
この日、ダンジョンでの最後の食事をし、一眠りしてからダンジョンを後にした。
皆が起き準備を整えると、魔法陣から外へと脱出した。
東の空が明るくなってきている。
ダンジョンに潜っていた数日間、オレ達の体内時計はかなり正確に刻んでいたようだ。
数日振りに外の空気を吸って、無事に外に出られた事を噛み締める。
オレにとって、このダンジョンで過ごした数日は忘れる事はないだろう。
仲間の皆にオレが異世界からの転生者だと露見した事。
そのオレの転生が、神によって何かしらの意図があって行われた可能性がある事。
勇者を選定する神の使いであるシームルグが召喚獣としてオレと契約した事。
この仲間を失う恐ろしさを知った事。
どれをとってもこのダンジョンに来なければ起きなかった事だ。
そう考えると、シームルグには感謝してもいいのかもしれない。
まあ、もう一回同じことを、と言われれば流石にごめん被りたいが。
それにしても、帰り道も長い。
それもそうだろう。普通に走っても3日掛かると言われる道程だ
往路では雨や盗賊討伐があり4日掛かってしまっている。
順調に進んでも3日掛かると思っていて構わないだろう。
因みに帰り道でもスクリューモールが現れたのでしっかり倒しておいたのだが、オレは予想以上に強くなっているのか、魔法剣ウインドでかなり余裕を持って倒してしまった。
他には特に問題もなく、初日は順調に進んでいき野営ポイントまで到着した。
「行きと同じ場所で野営する事になるとはねぇ~。まあ、此処ってなかなかのポイントよね。
小高くなってるから見晴らしもいいし、魔物の襲撃も無さそうな場所って滅多にないわよ。」
そう。もう少し進む事は出来たのだが、その場所の良さから敢えてこの場所を野営場所として選んだのだ。
野営の準備を進め、食事の準備に取り掛かった。
オーク肉のカットが終わり焼こうとした時だった。
微かに何かの音が聞こえる。耳を澄まして何の音なのか考える。
多分馬車の走る音だろう。此方に近づいて来てるようだ。
そして馬車はオレ達の野営場所にやってきた。
御者をしてるのは獣人の女性。しかしどこか見覚えがある。
思い出せずに首を傾げていると、馬車から数人の女性ばかりが降りてきた。
「やっぱりエイル達じゃない。ずっと姿を見せないからギルドから捜索依頼まで出てるのよ?
今まで何やってたの?」
推定Hカップのバストにそれが収まりきれていないビキニアーマー。
ゴールドランク冒険者のソニアだ。
ソニアが言うには、オレ達ロードウインズ全員が姿を消して7日が発った時、ギルドは事件に巻き込まれた可能性を考え、捜索依頼まで出す騒ぎになったらしい。
幾つかのチームに分かれ、各方面に捜索隊が派遣されソニア達は北の搜索に当たっていたらしい。
「マジか~。あのおっさんはたった7日で騒ぎすぎだっての。俺らもいつまでもガキじゃないんだっての。」
エイルは顔を抑えながら呆れ返ったように言い放つ。
「ギルド長だって別に過保護でやってる訳じゃないの。あなた達が揃って居なくなればあの街にAランクは2人だけになってしまうのよ。少しは自分の立場を自覚しなさい。」
そうなのだ。ロードプルフにゴールドランク冒険者はエイル・マリー・ディルと今ここにいるソニア、あとはマッドネスサイスのパウロの5人だけなのである。
そのうちの3人が一斉に姿を眩ませたのだ。よくよく考えれば当然のことだ。
「で、こんな所で何をやってるわけ?どう見てもただ寛いでるようにしか見えないけど……。」
エイルはソニアにファスエッジダンジョンに言ってた事を伝えた。
階層更新をし、50階層まで到達したことも含めて。
ただ、シームルグの存在とオレの秘密はきちんと伏せながら話している。
「ふーん、でも記録の74階層までは全然届いてないわね。まだまだじゃない。」
ソニアは少し悔しいのか素直に称えたりはしないようだ。
やはり同じゴールドランクとして悔しい思いもあるのだろう。
「その坊や達も一緒に行ったの?50階層まで?信じられないわ。」
「何言ってんだ?レイジが居なかったら50階層のボスで俺達は全滅してたくらいだ。
多分今では俺より強いんじゃないか?まあ、圧倒的に経験は足りないがな。」
エイルにそう言われ、オレは照れたように顔を背けた。
強くなったのは確かだが、エイルより強くなったと自惚れるほどオレは馬鹿ではない。
始めてエイルに会った時の、レッドウルフを一瞬で倒した姿が今でもオレの瞼に焼き付いている。
どんなに強くなってもあのエイルを超えることは出来ないだろう。少なくてもオレはそう思っている。
「この坊やがねぇ……ふふっ。」
此方をみて舌で口の周りを舐めまわしているソニアを見て背筋が凍るような感覚に陥った。
この人に関わってはいけない。何かがオレにそう警鐘を鳴らしてるようだった。
思わず目を逸らしたが、その目線の先には御者の女性がいた。
ソニアと一緒に居るという事でこの時ようやく思い出した。
「あ、そうだ、あの時ギルドにいた……。」
思わずそう口にしたが、瞬間ミルファの方を見る。
以前ギルドでこの獣人の女性を見た時、オレはかなり見惚れていたのだ。
あの後ミルファからは、ああいう女性が好きなのかと問われていた。
その時は好きっちゃあ好きみたいな感じで答えていたはずだ。
そして今目の前にいる女性は間違いなくその女性である。
オレのその言葉が聞こえたのかその女性は此方にやってきた。
「確か、ロードウインズのレイジくんとミルファちゃんですー?」
思わずミルファと顔を見合わせた。あの時も別に会話もしていなければ、紹介とかもされていない。
しかしこの女性はオレ達の事を知っていた。
「はい。なんでオレ達の名前を?」
「初めましてなのです。私はソニア姉さまの親衛隊をしているルナというのです。
ソニア姉さまがあなた達の事を話してる時があるのです。
ロードウインズには私と同じくらいの歳で凄い子達がいるって。
一度お話してみたいと思ってたのです。」
それを聞き恥ずかしい気持ちになってしまった。
何時になっても褒められるのには慣れないみたいだ。
ミルファも真っ赤になって俯いてしまった。
「もしよければ、今度私の鍛錬に付き合って欲しいのです。お二人にアドバイスを貰えたらもっと強くなれると思うのですから。」
オレはそこで軽く了承し、握手をしてその場の話は終わった。
その間にエイルとソニアの話も終わっていたらしく、今日は此処で全員で野営をし、明日ソニア達の誘導でロードプルフへ帰る事になったらしい。
何人もの女性に囲まれ悶々とした中でこの日は眠れぬ夜を過ごしていた。




