第33話 王子の冒険
今日は王子とダンジョンだ。
昨夜、辺境伯の屋敷から帰ったオレ達は、気疲れからか遅めの夕食を食べたら直ぐに眠りに就いた。
ミルファと今の関係になってからは初めてだ。
しかも朝は早い。今もまだ陽は登っておらず外は真っ暗だ。
今日は密かにおにぎり持参する事を計画している。
実は昨日、海で漁師から海苔を貰ってきたのだ。
全員分作っておこう。そう思い握ってたら思いのほか数が多くて吃驚している。
それでも朝食はしっかり取り、準備をしっかりしてから出発した。
勿論今回は馬車対策は万全だ。
今日の集合場所は辺境伯邸になっている。
王子の移動を無くす為なのもあるが、ギルドにした際に生じる騒ぎを考えた上での判断だろう。
今回のメンバーは王子とオレ達五人、それともう一人、ゴールドランクのソニアという人だ。
ただもう一人のゴールドであるパウロがいない。
いない理由を聞くと、今回の行動は依頼とは無関係であり了承する必要がないといい、今回自ら辞退した形らしい。
辺境伯の屋敷は近衛騎士による完全包囲網が敷かれていて、オレ達でさえボディチェックをされるほどだ。
その近衛騎士はというと、今回は付いて来ない。
これは、王子が頑なに拒んでいるらしく、それをエイルが察知し進言したらしい。
思うにこの近衛騎士によって、王子は相当行動を制限されているのだろう。
昨夜の王子の愚痴は近衛騎士に対するものも少なからずあったのだ。
この世界に来た時貴族になるのは嫌だとは思ったが、王族になるのはもっと嫌だという認識になったと思う。
屋敷の前で待機していると、ゆっくりと王族専用馬車がやってきた。
初めての鉄輪車両だ。少しワクワクしてる。
足回りを見てみたが、サスペンションらしき部品は見られなかった。
乗り心地は期待できないだろう。
少し待っていると、女性が一人近づいて来る。するとエイルから話しかけた。
「よう、ソニア。こんな事になって悪いな。」
この人がゴールドランクのソニアらしい。
なんていうか、エロい。所謂ビキニアーマーだ。
何よりデカい。身長ではない。そのバストがだ。スイカでも入ってるのかと言いたい。
しかも持ってる武器は鞭なのだ。まるで女王様だ。
ソニアは軽くこちらを見た。
「この子達が貴方の弟子?はあ、まったく面倒持ち込んでくれちゃって。」
歓迎はされてないようだ。しかしオレが悪いのか?納得いかない。
「レイジは隠れてた王子を発見しただけだ。そしてそれを俺に知らせてくれた。
その後の判断は俺がしたんだよ。文句は俺に言え。」
「ふーん、私はソニア。ジョブは乙女戦士よ。よろしくね、坊や。」
ソニアはそう言うと不適に微笑み一つ目配せをする。
思わずドキッとしたがなんとなくミルファのいる側に寒気を感じたので平静を装った。
オレ達もソニアに自己紹介を済ませ、辺境伯邸へと入っていく。
入ると直ぐに応接室に通され、辺境伯、近衛騎士長から説明が行われる。
聞くと、この説明は本来不要らしいが、王子の支度待ちの繋ぎをしてるだけらしい。
王子がこの部屋へ入って来ると、近衛騎士達は一斉に姿勢を正し整列した。
まるで軍隊だ。いや、軍隊なのか。
「レイジ、宜しくな。」
王子はオレにだけそう言うと、そのまま部屋を出て外の馬車へと向かっていった。
「えらく気に入られましたな。今日はレイジ殿に負担が掛かるかもしれないが、どうか宜しく頼む。」
辺境伯からの頼みじゃ、頑張るしかない。
東の空が少し明るみを帯びてきた。
王子を含め全部で七人、見張りとして御者の両脇に二人座る。
見張りは交代制にし、まずはディルとソニアがするみたいだ。
走り出し一時間、ここまでは魔物も出ず平和に進んでいる。
今回のルートは赤狼の丘で馬車を降り、そこから徒歩でアゲトダンジョンへ向かう。
アゲトダンジョンは赤狼の丘の丁度裏手にある。
ならば赤狼の丘を突っ切って行った方が冒険っぽいだろうという事でそのルートになったのだ。
馬車はそのままダンジョンへと向かい、オレ達がダンジョンから出てくるまで待ってるらしい。
その赤狼の丘にもうすぐ到着するようだ。
先日迂回ルートのウルフ種は結構倒したが、今回の直進ルートはまだまだウルフ種はいるだろう。
その討伐を含めての冒険だということらしい。
まずは丘の頂上へ向け道なき道を進んでいる。
たまにレッサーウルフが襲って来るが、このメンバーの前では虫けら扱いだ。
それでも王子は襲いかかる魔物に怯えつつも、その目を輝かせていた。
頂上から逆に降ればもうアゲトダンジョンだ。
ここから先はオレも初めて通るので警戒を強める。
此処ではウルフリーダーも現れ、少し激しい戦闘も行われたが、オレ達の戦闘に王子はずっと興奮気味だ。
特にウルフリーダーをオレが倒した時は、「レイジ、凄いな!」と、何度も繰り返してた。
昼前にはアゲトダンジョンに到着し、入る前に一旦休憩をとった。
「なあ、何時になったら中に入るんだ?なあ?なあ?」
王子がまとわりついてくる。オレがなにかしたのだろうか?
「レイジくん気に入られちゃったねー。王子、持って帰ります?」
「いいのか?ではレイジを近衛騎士にするよう、父上に申さなければな。」
「だ、ダメです!レイジさんはロードウインズのメンバーなんですよ。本人の意思関係なく決めちゃダメです。」
ミルファの気持ちが嬉しい。でも凄く恥ずかしいな、これは。
「ミルファちゃん、冗談だよ?」
「うむ、レイジは愛されてて羨ましいな。」
王子もノリノリでミルファを弄っている。
ミルファはもう真っ赤で可哀想になる。
「とりあえず軽く食事にしませんか?オレ作ってきたんですよ。」
そう言いマジックバックに扮した鞄からお握りを出し皆に配っていく。
皆これはなんだと言っていたが、食べると大変な喜びようだ。
作って良かったとホントに思った。
「じゃあそろそろ入るか。」
エイルが切り出しダンジョンに入る。
「坊や、レイジって言ったわね。ロードウインズなんて抜けてウチに来ない?可愛がってあげるわよ。」
ソニアからのとんでもない誘いが来た。
皆口を開けたまま固まっている。
「い、いやー、オレなんてまだまだで、エイルさんに教わってる身ですから。」
「あら?そんなの私が色々教えてあげるわよ。その身体に、ね。」
いやらしい手つきでオレの身体を撫で回しながら、そう言ってくる。
ミルファを見ると口をパクパクさせてるが、言葉が出ず困ってるようだ。
「はいはい。ウチの若いので遊ばないの。まったく。レイジくんもしっかりして。ミルファちゃんも困ってるでしょ。」
マリーさんが止めてくれた。少し残念ではあるけど。
「マリーはホントに真面目ね。そんなだからエイルも私に靡くんじゃない?」
「そ、それは関係ないでしょ!それに今はエイルは私のだからね。」
なんか、この二人、いや三人、色々あったんだな。
「別にマリーからエイルを奪う気なんてサラサラないわ。エイルから来たら可愛がってあげるけどね。
けどその坊やはちょっと味見したくなるのよね。」
「あの、レイジさんも私のです。渡しませんから。」
ミルファも言い返した。でも恥ずかしいな。
「おいおい、そういうのは俺の居ない所で頼むぞ。」
王子が苦笑いをし、注意してきた。そうだ、今は王子の為にダンジョン探索してる最中なんだ。
「しかし冒険者は自由だな。王子である俺の前でもその姿勢を一切崩さないとは。いいものだな。」
「では王子、あっちへ行ってみましょう。オレはこのダンジョンには来たことがありますが、あっちへは行ったことがないので。」
「そうか。では行ってみるか。」
王子は笑顔でそちらに向かって歩き出す。
しかしその先に何かの気配があった。
「待って王子!止まって!」
影からメノウリザードが飛び出して来て王子を突き飛ばした。
「くっ、王子!ヒール!」
すかさずマリーがヒールを掛ける。
と、同時にディルの矢がメノウリザードを射抜いた。
「王子、大丈夫ですか?」
「ったたっ、いってぇー。いや、助かった。これが魔物の攻撃なんだな。
いや、体験してわかった。冒険者はホントに命を掛けてやってるんだな。凄いことだ。」
王子が無事でよかった。何かあったら大事だからな。
「王子、これを。」
「槍か?どうしてだ?」
「次は王子も攻撃参加するんです。槍ならリーチもあるし相手の爪くらいなら届きませんから。」
そう言って王子に鉄の槍を渡した。
「それ、オレが作ったヤツですからね。」
「ホントか!レイジは何でも出来るんだな。」
オレが最初に適当に作ったやつだ。言うなればガラクタだがないよりはいいだろう。
少し進むとまた現れた。
ソニアとエイルで撹乱し背後から王子とオレで攻撃する。
「王子もっとです。ドンドン突いて!」
「くっそー!んんだぁーー!」
先にある程度ダメージを与えておいて王子に倒させる。見事に成功だ。
「王子やりましたね。見事でした。」
「あそこまでお膳立てしてもらって倒せない方がどうかしてるだろ。
でも……気持ちいいもんだな。感謝する。」
その後も数匹討伐し外へ出た。
既に夕方だ。目の前に馬車は待機してる。
そのまま乗り込み、王子の冒険は幕を下ろした。
「では、オレ達はこれで。」
辺境伯邸に着き、王子の護衛を終えたオレ達はその場を後にしようとしていた。
「エイル!レイジ!ありがとう。感謝する。王都に来た時は是非訪ねに来てくれ。
友人として城に招待するから。」
「王子はその時までにもう少し鍛えておいたほうがいいな。頑張れよ。」
「王子。今度またお話しましょう。お元気で。」
去っていくオレ達にずっと手を振り続けるリック王子。
次会うときはもっと立派になって驚かせてやろう。王子はそう心に決めた。
01話、02話辺りの拙い文章を修正・加筆しました。
今後もストーリーに影響しない程度にしていきます。




