第03話 出立
僅かに聞こえる鳥の囀りで目が覚めた。
昨夜点けたままだったランタンの明かりしか見えていないが、かなり寝たようで目が冴えている。
昨夜は寝たのが早すぎたのか、まだ日は登っていないようだ。
起き上がって軽く体を動かし、食事をした椅子に座る。
メニューを開き、昨夜取得したばかりの『マップ』を見てみる事にした。
浮かび上がったのは今いる屋敷と、自分を中心とした周辺の街の地図。
屋敷内だけは部屋の中まで、詳細も表示されている。自分の表示の所には2Fと表示されている。
「これは凄いな。ここまで細かく分かるのか。」
操作しだいで1Fも見る事が出来るのだろうか。
色々と操作しようとしてみるが何も反応はない。現時点では操作は出来ないみたいだ。
そういえば、アイテムってあったな。メニューからアイテムを開いてみた。……何もない。それはそうだろう。
昨日この世界へ来て、この部屋から一歩も出ていない。取得物などあるはずもないのだ。
いや、心のどこかで神らしき光から、スターターセットくらいのプレゼントを期待していたのかもしれない。
それを見ながら疑問に思う。このアイテムとは、自分の所有物を指してるのだろうか?
あるいはアイテムボックスらしきものがあり、そこに収容されている物のことなのか?
今は何も所持していないので確かめる手段がない。後々要検証だ。
いつの間にか内窓の隙間から光が漏れていた。陽が昇ってきたらしい。
木で造られている内窓を開け、こちらに来て初めての太陽の光を浴びた。
眩しい、だがポカポカと気持ちいい。
そして、初めてこの世界の景色を眺めた。
中世西洋というより、ゲームにありそうな美しく感じる風景。その景色に心が躍り、うすら笑いを浮かべる。
部屋の扉を誰かがノックしてきた。
戸を開ける音が聞こえたのか、部屋に誰かが訪れたようだ。
「はい。」
扉を開けると、そこには昨日とは違うメイドが立っていた。
「おはようございます。朝食の準備を始めてもよろしいですか?」
「あ、おはようございます。ありがとうございます。何時でも大丈夫です。」
「では準備を始めさせていただきます。ダイニングへご案内致しますので、こちらへどうぞ。」
メイドに案内されるまま、ダイニングへ向かう。一階へ降り、ダイニングへ入ると既にミルス辺境伯が座っていた。
「おはよう。こちらへ座りたまえ。」
「おはようございます。失礼します。」
促されるまま指示された席へ座る。
「体調は如何かな?顔色は良くなったようだが。」
「おかげさまですっかり良くなりました。ありがとうございます。」
「そうか、それは良かった。ところで、レイジ殿はこれからどうするおつもりだ?
家も身寄りも伝もないのだろう?よければ仕事くらいは紹介できるが。
差し支え無ければスキルを聞いてもいいだろうか?」
スキルか、ユニークだけは黙っていたほうが良さそうだがそれ以外は問題ないだろう。
「スキルですか?今まで何をしていたのかは思い出せませんが、『格闘』と『鍛冶』を持っています。」
とりあえず、無難な二つを伝えておいた。
「ほう、『鍛冶』か。この街にも工房はあるし、そちらへ行ってみるのもいいかもしれないな。
それと、『格闘』か…。ギルドに登録して冒険者をやるか、街の見回り兵として私の下で働くのもアリだな。」
ギルドがあるのか!冒険者は憧れるな。
兵士は却下だ。折角異世界に来たのに、普通に働くなんてありえない。
工房で技術磨くのもアリっちゃあアリなんだけど、最初からそれは嫌だな。
でも、まずは知識を得たい。この世界について何も知らないのだから。
「そうですね、何をやるにしても、オレは記憶が無く、世の中の常識すらもわかりません。知識を得ながら働ける環境が欲しいのですが。」
「それなら冒険者をやるのが一番いいだろうね。初めは稼ぎが少ないだろうが、時間に縛られる事が無い分、図書館などで知識を得ることも出来る。
もしそうするならば、数日分の生活資金くらいなら用意できるぞ。」
「オレは『格闘』スキルだけしか戦闘スキルを持っていません。それでも冒険者でやっていけますか?」
「ん?はっはっはっ!大丈夫さ。何か武器を持ちたかったら、その武器を持って二時間も素振りをすればスキルを得ることが出来るはずさ。そこは心配する必要はないよ。」
ほう、思わぬ所からスキル獲得の情報を得られたな。それでスキルを増やしていけるなら冒険者をやっていけるだろう。
「そうなんですか!それならオレでも冒険者としてやっていけそうですね。そうします!」
憧れの冒険者になる。それだけでオレの気持ちは昂ぶった。そう話していると、朝食が運ばれてきた。
「お!食事の用意が出来たようだね。食べようか。」
ミルス辺境伯に促され一緒に朝食に手をつけた。
◇
食事を終えると部屋で待つように指示を受けた。
部屋にはオレが元々着ていた服が洗って用意されているらしい。ありがたい。
部屋に戻り、用意されていた服を見て驚いた。なんと、前世で最後に着ていた服だったのだ。
まさかそのままの服装で転移していたとは思ってもいなかった。
服と一緒に小さな包みが置いてある。
広げて見てみると、元々ポケットに入れてあった財布とスマホがある。スマホは電池切れ、財布の中のお金もこの世界では使えない。全く意味のない物だ。
それでも、とりあえずポケットに入れようとしたら、目の前に黒い空間が現れた。
ワケがわからず狼狽えて、少し考えてある考えが頭をよぎった。
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「これって、まさかアイテムボックスか?」
そう口にしながら財布とスマホを黒い空間に入れてみる。すると、その黒い空間は消えた。
メニューから『アイテム』を開くと、そこには確かに『財布』と『スマートフォン』と書かれていた。
「アイテムボックスとかマジであるんだ、すげーな。てか、取り出すときは?」
と、言いながら困っていると、また黒い空間が現れる。多分思い浮かべれば取り出しが出来るのだろう。
思わぬ形でアイテムボックスの存在を知ることが出来た。
支度を終え、呼び鈴を鳴らしメイドに脱いだ服を預ける。感謝の言葉も忘れない。
10分程待っていると、ミルス辺境伯が部屋にやってきた。
「待たせたね。ほう!着替えは済ませたようだね。そうそう、レイジ殿の着ている下着だが、メイド達がとても不思議がっていたぞ。どこで入手したのか知りたいが、記憶が無いんじゃ入手経路も分からずじまいだな。」
どうやらこの世界にゴムはないらしい。オレが借りて着ていた服にもゴムは使われていなかった。なにげに不便だよな。
まあそうなるとあっちのゴムもないのだろうか。
今後のことを考え少し不安を覚えている。
ミルス辺境伯がそんなことを言いながら入ってくると、後ろからそこそこ大きな鞄を担いだメイドも入ってくる。
「これは私からの餞別だ。何枚かの着替えと数日分の生活費が入っている。とりあえずはこれでなんとかなるはずだ。」
「何から何までありがとうございます。ただ……」
「ん?どうした?」
「お金の種類と価値について教えて戴いてもよろしいですか?全くわからないので……」
「おお!そうか!記憶が無いんだったな。すっかり失念していたよ。」
この世界のお金は、G〈ガルド〉と言い、全て硬貨で扱われるらしい。それはぜんぶで8種類で、下から順番に、
銭貨1G、銅貨100G、大銅貨1,000G、銀貨10,000G、大銀貨50,000G、金貨100,000G、大金貨500,000G、そしてプラチナ貨1,000,000Gとなる。
「この街での生活で困ったことがあれば、何時でも訪ねてくれて構わないからな。来年度から税金は支払ってくれよ。」
「はい!ありがとうございます。大変お世話になりました。」
鞄を受け取り、ミルス辺境伯に一礼をして部屋を出た。
そこから外の門の前までは執事が案内してくれた。
「この道を真っ直ぐ進めば剣と盾の看板を掲げた建物があります。そこが冒険者ギルドになります。そこまで遠くないので普通に歩いて五分くらいで着くかと思います。」
「わかりました。最後までありがとうございます。」
「いえ、どうかお気をつけて。」
教えてもらった道を冒険者ギルドを目指して歩き出した。これからの冒険に心を躍らせて。
◇◇◆◇◇
「あの者に随分と奉仕されましたね。」
「ん?ああ、私の持っているユニークスキルは知っているだろう?」
「確か『精霊視』でしたか。」
「そう、それを使って視たらな、今までに見たことのない五色の精霊に守られていたんだよ。流石に驚いたぞ、陛下でさえ三色の精霊なのに、それ以上なのだからな。」
「国王陛下以上ですか!?そうすると彼は勇者か、それに匹敵する存在である可能性があるということでしょうか?」
「まだわからないけどな……。可能性があるならば、少しでも恩を売っておいて損はないだろう?まあ、そうじゃなくても人助けはするだろう、私は今までそうして生きてきたのだから。」
「そうでしたね。貴方はそういう人でした、辺境伯……。」
◇◇◆◇◇
そしてレイジは冒険者ギルドの前に立った。
読んでくれた人がいて感動しています。
これからがやっと始まりです。




