第189話 シルバーランク試験二日目、その間
久々の連日投稿!
シルバーランク試験二日目。
この日は筆記試験だ。
皆が試験に行っている中、オレは家で留守番である。
だが一人ではない。
同じようにメンバーがシルバーランク試験に行ったレイヴィンが、暇を持て余したのかウチにやって来ているのである。
勿論ククルフィンとエヴァラフィアの二人も一緒である。
三人が遊びに来たとは言え、特にやる事もない。
ククルとエヴァは昨日までミルファ達が勉強していた問題を必死に解いている。
オレとレイヴィンはというと、結局手合わせという形で、鍛錬をする事になった。
対人経験が少ないオレにとって、このタイミングでの経験はとてもありがたい。
使っている武器は、【ダメージ軽減】が付与された鉄の剣だ。
勿論オレの作品で、ブレードが潰されていて全く切れなくなっている。
お陰でクリーンヒットしても防具が傷む事なく、顔や足などの防御の薄い場所に攻撃がヒットしても、エヴァに回復してもらえば問題ない。
休憩を挟みながらも、こんな調子で午前を過ごしていた。
「レイヴィンの戦闘スタイルも、かなり安定したな。防御を基本としながらでも的確なタイミングでカウンターを繰り出せるようになってるな」
「それでもレイジには中々当たらないけどね。レイジは強すぎるよ」
午前中手合わせしていて、エヴァに回復してもらったのはレイヴィンだけで、オレはまともな攻撃を受けてはいない。
だが、結構危ない場面は何度かあり、明らかにレイヴィンは以前より強くなっていたのだ。
あのカスケイド山地での戦いを経て、自分の特徴を掴み、戦闘スタイルを固める事に重点を置いてきたのだろう。
その防御能力は勿論だが、カウンターを繰り出すタイミングがかなり上手くなっている。
オレが躱せているのは単純に俊敏の能力値の高さがあったからであって、通常のジョブ一つであったならば、確実に大敗を喫していただろう。
今のレイヴィンはそれほどまでに強くなっている。
「いや、以前に比べてレイヴィンの攻撃に鋭さが加わっているよな。何より攻撃を仕掛けるタイミングが抉いだろ。あれ、武器次第ではとんでもない威力になるだろうな」
「……そうか……武器か……それは盲点だったよ。でも試験は明日だし、今から変えるのは止した方がいいよね?」
レイヴィンの考えは何となく分かる。
多分リーチと攻撃速度の上昇を図った武器にしようと考えたのだろう。
だがそれをやってしまうと数日は攻撃の間合いやタイミングが狂ってしまう。
試験前日に行うのは悪手だと思われる。
「だな。どんなに戦闘センスがある人間でも、このタイミングでは止めるべきだな」
頭では分かっていても気持ちが揺れているレイヴィンにオレの意見を伝えると、レイヴィンも納得したようで、このタイミングでの武器変更は諦めたようだ。
それでもオレの知るシルバーランクではかなり強い者ではある。
ゴールドランクの面々には劣るが、かなり期待が出来るのではないだろうか。
寧ろ、このレイヴィンがダメならばオレも危ういのだから。
「レイジ、シルバーランクとゴールドランクの一番の違いって知ってる?」
「武技を使えるかどうかだろ?レイヴィンは……盾技になるのか」
先日ライトレイクの湖畔のダンジョンへ行った際に、エイルからその旨を聞かされている。
そしてそれがゴールドランクへの昇格最低基準だという事も。
その事をレイヴィンも話に出してくるとはな。
「やっぱり知っていたんだね。因みに最初に覚える武技は決まってるけど、その後はその人の戦闘スタイルで変わっていくみたいだよ。レイジは今後どんな技を覚えていくんだろうね」
それは初耳だ。
だとしたらエイルの陰翳殺なんかは、エイルのオリジナル武技なのかもしれないな。
午前中戦い続けたオレ達は、明日に疲れを残さない為に、午後からはククルとエヴァに様々な事を教える教師役に徹していた。
今後、シルバーランク試験に備えるべく計算の仕方から始まり、魔法を使う際の魔力の込め方や使うタイミングなどを教えて過ごす。
二人共、地の頭は良く、教えた事は即座に理解してくれた。
とても優秀な生徒ではあるのだが、昨夜のオレの苦労から考えれば、逆に物足りなさを感じてしまう。
ルナは兎も角、ケントは酷かったからなぁ……
数時間後、皆でギルドに向かった。
本来、午前中で試験は終わっていて、午後から行っても良かったのだが、何となくオレ達が居ない方がいいのではないかと思い、合格発表ギリギリまでは顔を出さない事にしたのである。
レイヴィンも同じ考えのようで、一緒に行く事にしたのだ。
ギルドの賑わいはオレが知る中では一番だ。
思えばブロンズランクの人数はとても多く、シルバーランク試験に臨む者も同様に多いのも道理である。
ただ、今回シルバーランク試験を受けた者の中に、それに見合うだけの能力がある者がどれだけいるのかは不明ではあるのだが。
シルバーランクになるには少なくとも単独でオークくらいは倒す事が出来なければならない。
だが、それが出来る者がそれだけ沢山いるとは思えないのである。
「さて、この中からあいつらを探さなくちゃならないのか……」
人で溢れかえっているギルド内を見渡し、少し嫌気がさした。
そんな時、離れた位置からオレを呼ぶ声が聞こえた。
「レイジさ~ん!来るのが遅いよ!昼からずっと待ってたのに」
人垣を縫うようにやってきたのはミルファだ。
あの離れた場所からよくオレを見つける事が出来たな。
「ミルファ!どうだった?」
「多分問題ないと思うよ。メイさんと答え合わせした感じほぼ正解してると思う」
「そっか。流石だ」
元よりミルファに関しては全く心配していない。
心配なのはルナとケントだ。
昨夜やった事をしっかりと覚えていて、ケアレスミス等が無ければ無事昇格する事が出来るだろう。
それでも、どうしてもあの二人に関しては不安をぬぐい去る事が出来ない。
「ルナやケント達はあっちにいるよ。トマスとフィオーラも一緒だから」
ミルファに手を引かれ、奥の資料室へと入っていく。
トマスとフィオーラも一緒だという事で、レイヴィンもオレ達の後を付いてくる。
資料室の中央、一番目立つ席に、メイを含めた五人が座り色々話し込んでいる。
このメンバーは、一緒に居る機会も多かったのもあって、かなり打ち解けているようだ。
「あ!レイジくんなのです!」
オレと目があったルナが勢いよく席を立ち、此方に駆け寄ってきた。
オレはルナの頭を撫でると、お決まりではあるがその耳を弄りまわす。
「れ、レイジくん……擽ったいのです……」
何とも可愛らしい仕草をするルナに対し高ぶる欲情を抑えつつ、声を掛ける。
「それで、どうだった?」
「多分大丈夫なのです!思ったより早く終わったので確認する時間もあったのです」
確認まで出来たのならば大丈夫だろう。
ならば問題は……
「ケントは?」
「……分かんねぇ。始まったと同時に頭が真っ白になって、気付いた時には終わってた。でも、全ての答えを埋めていたから、駄目とも言い切れないんだよな」
「何だ、それ?」
多分、相当緊張していたのだろう。
完全に意識を離してしまい、それでも答えを書いていたのか。
さて、どうなる事やら……
レイヴィンと話しているトマスとフィオーラも複雑な表情を浮かべている。
この世界の計算の仕方から察するに、パーティメンバーに既にシルバーランクのレイヴィンが居たとしても、対策を講ずるのは至難の業であろう。
ましてや、普段の言動から察するに、この二人はそこまで頭が良いとは思えない。
中々厳しい結果になりそうなのであろう。
そして、結果発表の時間になった。