第188話 シルバーランク筆記試験前、最後の勉強
「レイジさん?え?もしかして……」
思った以上の早い帰還にラウハイーツは戸惑っていたが、エリスの満面の笑みに状況を把握したようだ。
「依頼の品、しっかりと届けたぞ」
アイテムボックスから闇の結晶を取り出し、ラウハイーツに手渡す。これで依頼達成である。
エリスが闇の結晶を確保を知らせてくると、オレも即座にその場を離脱した。
魔物達もオレを追いかけてきたが、魔力溜りから百メートル程離れると、それ以上追ってくる事はなかった。
まあ、離脱開始と同時にパトリシオンがオレの下へと駆けつけてきたので、奴等があの後も追ってきていても逃げ切る事が出来ただろうが。
唯一の心残りは、最初のサイクロプスだけしか持ち帰る事が出来なかった事だ。
だがサイクロプスもなかなか討伐する事が出来ない珍しい魔物なので、それなりに価値があるであろう。
今回の稼ぎとしては十分な金額になるであろう。
「えーと、ではレイジさん、今回の依頼の報酬ですが……付与依頼の金額から考えるとそこまで支払えなくて……申し訳ないのですが、500万Gで宜しいでしょうか?」
ラウハイーツの提示してきた金額に、口に含んだ茶を吹き出した。
かなり難易度高めの依頼だったとはいえ、普通に考えて多くても50万Gくらいの内容だろう。
しかも世話になっているラウハイーツの頼みだ。
無償でも構わないくらいだ。
「そんな、もらえる訳無いだろ。オレだって色々世話になってるんだから、お互い様だ」
「そんな……あ!でしたら、この闇の結晶を使ってお仲間の武器に付与するというのはどうでしょう?このクラスの素材でしたら、メイさんにはまだ厳しいかと思いますし」
その提案にオレの目が輝く。
こういう特別な報酬の方が、イベントをこなした感じがしていいと思う。
この提案は即座に了承した。
「今は立て込んでるので無理ですが、それも明日までです。その後は何時でも引き受けますので、好きな時に持って来てください。凄いのを付与しますから」
それは楽しみだ。
闇の結晶を使う付与は生命力吸収だったはず。前衛で盾になるケントにはもってこいの付与になるだろう。
さて、早く帰らなければ。
既に本日のシルバーランク試験は終わって、皆家に帰っているだろう。
「じゃあ、ゴールドランク試験が終わったら来るわ。」
「ええ、ありがとうございました。パーティの皆さんにも宜しくお伝えください」
すっかり遅くなってしまったので足早に帰路に着く。
とは言っても、街中での騎乗は認められていない為、パトリシオンの手綱を引いてだが。
ミルファら皆の結果が気になって仕方がない。
そんなオレの気持ちを察したのか、パトリシオンもオレの早足について来てくれる。
辺りが暗くなり、街灯に火が灯り始めた頃家に到着した。
パトリシオンを厩舎に連れて行き、直ぐに家の中へと入っていく。
「た、ただいま!」
慌てて家に入り、そのまま明かりが点いているキッチンへと向かう。
「あ、レイジさん、おかえり!丁度食事の用意が出来たトコだよ」
「遅くなってゴメン、皆試験はどうだった?」
オレが何よりも気になっていた事。
ミルファの顔を見た瞬間、真っ先にそれを訪ねていた。
ミルファは一瞬キョトンとした顔をして、その直後笑顔で答えた。
「バッチリだったよ!近接戦闘部門では、ルナもケントも五連勝でトップ通過だし、メイさんはヒーラー部門で王都での過去最高得点を更新したみたい」
皆の試験結果を教えてくれる。
だが、ミルファ自身の結果を知らせてはくれていない。
「で、ミルファは?」
「……私なんだけど、明日の筆記試験で問題なければ、そのまま明後日のゴールドランク試験を受けるよう言われちゃった♪」
思いもよらぬ結果だった。
弓術と魔法部門にエントリーしたミルファは、魔法では全体の二位に留まったらしいが、弓術に於いて他を圧倒する実力を見せつけたらしい。
何より、五十ある的を打ち抜くタイムを競う種目でレインアローで全てを粉砕したところ、完全にゴールドランクの領域にあると判断されたとか。
流石ミルファとしか言い様がない。
それでも、頭の弱い者がシルバーランクになっては困るという事で、一応という形で明日の筆記試験は受けなくてはならないと言う。
まあ、オレも少し見たが、一般常識を問う問題と小学校低学年クラスの計算問題だ。
相当の阿呆でない限りここは通ると思う。
「レイジさん、ケントもルナも今回勉強しなかったら危ないと思うよ」
ミルファにそんな事を言われ、皆の前日の勉強している姿を思い出す。
確かに二人は、問題の答えが分からずに頭を抱えている事が多かった。
どうやらオレが元々いた世界とは、学力の面ではかなりの違いがあるのだろう。
そんな中でもミルファとメイは、何も苦にする事なく問題を解いていたのだが。
「だよな~。一般常識は兎も角として、二人の計算力はヤバイよな」
「うん。レイジさんの知ってるコツとかってないかな?」
オレも頭の良い方ではない。前世でもそうだった。
寧ろ下から数えた方が早いくらいだ。
そんなオレでも教えられる事があるのだろうか?
「分からないけど、今日は一緒に見てみようか」
その言葉に喜ぶミルファ。
この笑顔だけでかなりやる気になってしまった。
◇
「……マジか……」
試験対策問題を見たオレは、皆が合格できる基準に達しているかを調べる為、オレが作成した模擬試験を受けさせた。
結果、ミルファとメイは九割正解し、ほぼ問題なかった。
その一方、ルナとケントは散々だった。
ルナはまだいい。正解率五割弱で、もう少し頑張ればなんとかなりそうなレベルだったからだ。
問題はケントである。
正解率二割と、一桁の計算以外はほぼ全滅という結果である。
ぶっちゃけ明日までに合格ラインに到達させるのは不可能だと思う。
殆ど諦めながら回答を見ていて、ふと気になる事があった。
「なあ、四人ともだけど、どうやって計算してるんだ?」
返ってきた答えを聞いて驚愕した。
全員が全ての問題を暗算していたらしい。
どうやらこの世界では筆算のようなやり方が確立されていないようで、全て頭の中だけで計算してるようだ。
ならば筆算を教えれば正解率は飛躍的に上がるのではないか。
そう考えたオレは即座にソレを実行に移す。
足し算、引き算は直ぐに理解してもらえた。
掛け算と割り算でルナとケントが苦戦していたが、ルナは一時間後には理解したようで、その後飛躍的に正解率が上昇した。
実際問題自体は単純な計算だけだ。
普通に考えたら間違いようがない問題ばかりなのだ。
そんな問題で正解率が低いという事は、計算の仕方そのものが分かっていないという事なのだろう。
なので、計算のしやすい方法を教えれば、万事解決という訳だ。
辛抱強くやり方を教え続け四時間、ケントも漸く理解し、最後にやった模擬試験では、七割を超える正解率をだし、何とか筆記試験の目処が付いたのだった。
合格ラインがどれくらいかは分からないが、これでなんとかなると思う。
最近再び評価やブクマをいただいてます。
お陰でやる気に拍車が掛かり、更新ペースが早くなっています。
そして新作も近々公開予定だったりもします。
その際には、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m