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第187話 瘴気溜り

 俺は今、イーザリア大平原を疾走中だ。

 久々にパトリシオンに騎乗しているのだが、コイツってこんなに乗りやすかったっけ?

 もしかしたら今まで共に旅をしていて、オレに懐いてくれたのかもしれないな。


「あの、レイジさん。瘴気溜りってこっちの方角であっているんですか?」


「ああ。一度行ってるからな。完璧に覚えてるよ」


 オレが跨るパトリシオンに並走してくるのはラウハイーツの奴隷で助手でもあるエリスだ。

 ラウハイーツが、流石にオレを一人で行かせる訳にはいかないと、エリスを同行させてくれたのだ。

 オレとしては一人でどれだけ戦えるのか確かめるチャンスだったのだが、そのチャンスを奪われた形になったのである。

 とは言え、相棒がいれば、俺が戦ってる間に目的の【闇の結晶】を採ってきてもらうといった方法も可能になるので、いた方が楽なのは確かだろう。


「それにしてもレイジさんの馬のスタミナとスピードはどうなっているのですか?レイジさんが回復薬を与えてくれてないと、こちらの馬が全くついて行けないとか考えられませんよ」


 目的地である瘴気溜りは、以前は馬車で走って約半日の距離だった。

 馬車ではなく馬に騎乗で走れば、更に半分の時間でたどり着く事が出来ると踏んで急いでる訳だが、どうやらそれよりも早く到着しそうな勢いだ。

 それだけ飛ばしているのだが、パトリシオンは全く疲れる様子も見せずに、トップスピードを維持し続けている。

 それに対してエリスの馬は、このスピードについてくるのに無理をしているようで、結構こまめにミルファ作のポーションを投与する事で、ギリギリついてくる事が出来ているようだった。

 改めてパトリシオンの凄さを思い知らされる事となったのである。


「お!見えてきたぞ。あれがオレが知ってる魔力溜りだ。瘴気の満ち具合を見ても、ここで間違いないだろ?」


 エリスの馬に多少合わせつつ、三時間程で目的地周辺に到着した。

 念の為直ぐに、此処で間違いないかエリスに確認する。


「物凄い瘴気ですね。此処ならば相当良質の【闇の結晶】が採れるんじゃないですか?でも、その分魔物も相当やばそうですけど……」


 実際に、その魔物のヤバさが故に、オレ達は一度逃げ帰っている。

 いや、目的の魔物は討伐してからではあるが。

 しかしながら、オレはあの魔力溜りのヤバさにビビってしまい、そこから退散する道を選んだのだ。

 言わば、これはリベンジマッチでもある。

 これであの魔力溜りを突破出来たなら、確実にあの頃の自分を超えた事になる。

 ゴールドランク試験前にこのようなチャンスが巡ってきた事を幸運に思う。


「よし!オレが魔物を全て引き付ける。エリスはその隙を突いて中から闇の結晶を採ってきてくれ」


「なっ!何を言ってるんですか!あれ程の魔物を一人で相手出来る訳ないでしょう!幾らレイジさんが強くても、それは無謀すぎます!」


 エリスはこの作戦に反対なようだ。

 まあ、普通に考えたらそうか。

 ならば仕方ない。

 少し戦ってみせてから、隙を見て取りに行ってもらうしかないな。


「あー、分かった。ならば最初は俺の戦いぶりを見ていろ。それで納得出来たら、隙を見て取りに行ってもらうぞ」


「……分かりました。でも、危ないと思ったら直ぐに手伝いに入りますからね」


「ああ。それでいい」


 オレも死にたくはない。

 危険な時に手伝ってもらえるのは大変ありがたい事である。


 射程圏内に入ると同時に、魔力溜りに向けてサンダーショットを打ち込む。

 僅かなクールタイムを挟み、続けてフレイムショットを打ち込む。

 この連続攻撃によって、前方の魔物の内数匹は黒焦げになって倒れた。

 その奥にいた魔物が異変に気付き、周囲の魔物に警鐘を鳴らしてるようだ。

 これはゆっくりしていたら、魔力溜り内の魔物全てを相手しなくてはいけなくなる。

 早急にミッションをクリアする必要がありそうだ。


「さあ、魔物共がオレを敵だと認識したっぽいな。左周りで引き付けるから、絶対に闇の結晶を採ってきてくれよ」


 エリスは状況を理解したのか、険しい表情をしながらも右回りで魔力溜りに近付いていった。

 オレはエリスに注意が向かないよう、更に魔法を打ち込んでいく。

 だが、流石は魔力溜りの魔物。

 ダメージにはなってるだろうが、倒れる魔物は殆どいない。

 やはり複数の魔物への攻撃ではなく、ダメージの大きい単体への攻撃でないと倒すのは厳しいのかもしれない。


 魔法攻撃を続けながらも、その距離を詰めていき鋁爪剣を準備する。

 間合い一歩手前で魔法剣雷を使うと、そこから近距離での戦闘に切り替えた。

 魔法剣炎ではなく魔法剣雷にしたのは、一対一ではなく多数を相手取るのに、最も適した属性だからだ。

 雷の場合のみ、周囲にも一定のダメージを与える事が出来る。

 その特性があれば、左右から攻撃を仕掛けてきた魔物が僅かでも動きが止まり、その隙に何かしらの対応が出来ると踏んでいる。

 今のオレならばそれくらいの対応は出来るに違いない。


「飛断!」


 飛ぶ斬撃である飛断を飛ばし、その背後より一気に魔力溜りに近づく。

 疾走スキルも上がっている為、飛断とそこまで離れる事なく魔力溜りまで到達出来た。

 だが、ここからが本当の戦いだ。

 部外者の人間が自分達のテリトリーに入ってきた事で、魔物が怒り狂い始めている。

 その中でも一際大きい、三メートルは越そうかというサイクロプスが巨大な棍棒を振り回してきた。

 だが疾走を使っているオレの方が早く間合いに入ると、サイクロプスの足を切り裂いた。

 やはり魔法剣雷では魔法剣炎のような切れ味は出せないようだ。

 それでも雷によるダメージは大きく、痙攣している事から麻痺状態になったのは確実だろう。

 これでこのサイクロプスは無力化出来たので一先ず放置する。


 このサイクロプスに触発された魔物が一斉に飛び掛ってくる。

 この状況に、二ヶ月前のオレだったら恐怖で動く事すら出来なかったであろう。

 人とは僅か二ヶ月で、随分と変化するものだ。


 オレは左前方にアースウォールを使い、前方と右方向からの魔物だけに狙いを集中させる。

 これだけで一度に相手をする魔物の数がグッと減るはずだ。


「飛断!!」


 右前方から攻めてくる魔物に飛断を放ち、一先ず正面の魔物を相手する。

 二~三メートルクラスの巨体な魔物が多い為、これだけ範囲を狭めてやれば一度に相手をするのは多くても三匹ほどだ。

 これならば魔法剣雷でのひと振りで全ての魔物に攻撃する事が可能である。

 実際、直撃した一匹は倒れ、残りの二匹も麻痺と瀕死状態になっている。


 だがここで左から魔物に急襲されてしまう。

 オレの想像より早くアースウォールが破られ、魔物が一気に襲いかかってきたのだ。


「なっ!もう破られたのかっ!!だったらこれでも食らってろ!フレイムサークル!」


 オレを中心に、周囲に五メートルにも及ぶ火柱が上がる。

 左から来た魔物だけでなく、正面から押し寄せてきた魔物も一緒に焼き払う事に成功した。

 魔物と距離が出来た事で、今度は左に向かって飛断を使う。

 これで左からの魔物の足止めが出来た。

 この間に右からの魔物が押し寄せてくる。キリがないな。


 最初に近くにいた魔物は倒しているが、魔力溜りの中心近くにいる魔物はダメージを与えただけで飛ばされても再び立ち上がり攻撃を仕掛けてくる。

 しかも動きが素早く、今の戦い方でもギリギリの状態だ。

 今までルナやケントが前衛として抑えてくれていた有り難みが実感できる。

 まあ、今は泣き言など言ってる余裕はない。

 正面と右の二方向から同時に攻めてくる魔物を抑えるのが先決だ。

 ダメージの大きい範囲攻撃手段を考える。


「範囲ならば雷……それでダメージを増幅させるなら……あの方法があったな!」


 咄嗟に思いついた攻撃方法をぶっつけ本番で試みる。


「食らいやがれ、スプラッシュサンダー!!」


 扇状に放出された水流にサンダーを合成させた魔法を解き放つ。

 既に体力の削られた魔物は倒れ、強力な魔物も大半が麻痺状態になり、体勢を整える事が出来た。

 そんな折、離れた位置からエリスの声が聞こえてきた。


「レイジさ~~ん、もう大丈夫です。闇の結晶を手に入れてきました~!!」

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