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第186話 ラウハイーツの頼み

 遂にミルファらのシルバーランク試験当日を迎えた。

 試験は二日間に渡って行われ、本日は実技試験が行われる。

 ギルドの回復要員がしっかりしているので、先に実技試験を行っても問題はないらしい。

 オレは日程を逆にした方が良さそうだと思ったのだが、現実にこの順番なのだから仕方ないのかもしれない。


「じゃあ皆、あれだけ対策したから大丈夫だろうけど、しっかりな」


 オレのエールに笑顔で答え、ミルファら四人はギルドへと向かっていった。

 オレはというと、ジョブやスキルもこのタイミングで弄る必要もないので、ゴールドランク試験の準備などもする事がない。

 特に予定も無いので、孤児院の様子でも見に行こうか。

 問題がなければ、帰って来て鍛冶に勤しんでもいいし、ジオラ魔石店へ行って鋁爪剣の調子を確かめてもいい。

 もしかしたらこの王都に滞在してるのもあと僅かかもしれないので、やり忘れが無いように、知り合いにもしっかりと顔を出しておきたいと思う。

 とは言っても、他に知り合いは不動産屋のメリアとリック王子くらいか。

 リック王子に至っては、会おうと思って会えるような人ではないので、実質他の知り合いはメリアくらいしかいないんだな。


 とりあえずスラムの孤児院へと向かう。

 孤児院では既に瘴気中毒患者の半数が回復したらしく、此処を出て通常の生活に戻ったとの事だ。

 残っている患者も順調に快方に向かっており、今日か明日にでも通常の生活に戻れそうだとの話だった。

 それでも冒険者をしていた者が、冒険者としての仕事に戻るには、もう数日様子を見てからになりそうではあるのだが。


「あの、ミルファさんにこれを――」


 ほぼ回復していて帰り支度をしていた青年から渡されたのは、様々な種類の調合素材だった。


「いいのか?」


「はい。僕だけではなく、既に帰っていった人達から預かっている物も含まれています。今回治療してもらった全員から、僅かではありますが感謝の印として受け取って頂ければ」


 ここで断るのは返って失礼になるだろう。

 ミルファに代わり青年にお礼を述べ、ありがたく素材を受け取った。

 見た事のない素材や、中々お目に掛かれない珍しい素材も含まれているので、ミルファもかなり嬉しいはずだ。


 孤児院に別れを告げ、そのままジオラ魔石店へ向かう。

 ジオラ魔石店は異常な賑わいを見せていた。

 その理由はゴールドランク試験にあるようだ。

 試験に備え、装備への付与をもって少しでも己の力を高めておこうと考える者が多く、装備付与の唯一の店であるジオラ魔石店にこれほどの客が訪れる事態となっている。

 しかし、付与(エンチャント)に掛かる所要時間は数時間。

 とてもじゃないが、ゴールドランク試験までに、此処にいる全員の武器に付与出来るとは思えない。

 多分、半数程の者には諦めて貰う事になるだろう。


「レイジさん?店に来てくれたんですか?すみません。今非常に立て込んでまして……。えーと、裏口に回ってもらっていいですか?今開けますからそちらから入ってください」


 オレは特別用事がある訳ではないので、立ち去ろうとしたのだが、運がいいのか悪いのか、店の外まで様子を見に来たエリスに見つかってしまい、裏口から店の中へと誘導される事となった。

 あのまま帰っても特にやる事も無かったので、入れてもらえてホントに良かった。


 店内は通らずにそのまま作業場隣の休憩室へと通される。

 店はバイトを雇い、予約の受付や順番説明をさせているようで、短い時間であればエリスが離れても問題は無いようだ。

 とは言っても付与の予約が立て込んでいて、数日要する旨を伝えて、「はい、分かりました」と、納得する者は殆ど皆無な為、説明の為に直ぐにエリスは戻らなければならないようだ。


「とりあえずこの部屋で待っていて下さい。ご主人様もそろそろ休憩で此方に来ると思いますので」


 エリスはオレをこの休憩室へと案内すると、即座に店へと戻っていった。

 やはり尋常じゃないくらい忙しいようで、本来仕事を離れ、オレを此処に案内しているような状況じゃないのだろう。

 なんか悪いことをしてしまったな。


 待つ事数十分。隣の部屋から物音が聞こえると、そこからラウハイーツが此方の部屋へと入ってきた。


「おや?レイジさんじゃないですか。どうしたんですか?」


 ラウハイーツはオレの顔を見て驚いた素振りを見せ訪ねてくる。


「いや、特に要はないんだけどな。今日は他のメンバーは皆シルバーランク試験に行ってるし、オレ一人で家に居てもなんだから寄ってみたんだけど……」


 明らかに忙しそうなラウハイーツを見て、今日は来るべきじゃなかったと少々後悔している。

 だが、そんなオレを見て、ラウハイーツは丁度良かったと話を始めた。


「すみません、レイジさん。火属性の魔石って在庫あったりしませんか?人気が高いようで、ウチの在庫が尽きそうなんですよ」


 どうやら依頼数に対して、在庫の魔石が足りていないようだ。

 中でも火属性の付与が人気らしく、その一種だけが足りていないとのことだ。

 この情報だけでも、オレがゴールドランク試験を受けるにあたって有益な物になると思う。


「あるにはあるけど、メイが使うようなクズ魔石ばかりだぞ。今までは売っちゃってたからな」


 そうなのだ。メイがラウハイーツに付与を教わる以前は、魔物から入手していた魔石は全て売り払っていた。

 最近は売らずに手元に残しているのだが、火属性の魔石は入手していない。

 どうやらカスケイド山地の魔物には火属性の魔石を所持している魔物はいないようだ。


「それで全然構いません。そこまで強力な付与を依頼されている訳ではないですからね。それらを売って頂けませんか?」


「ああ、てか、やるよ。こちとらラウハイーツさんには世話になっているんだ。これくらい幾らでも譲ってやるって」


 メイに対して付与のやり方を教えてもらったり、相当世話になっているんだ。これくらいなんて事はない。

 直ぐにそれらを出してラウハイーツに渡した。


「ありがとうございます。これで何とか依頼をこなせそうです」


 これで見通しが立ったとラウハイーツが笑顔を溢したその時、このタイミングを見計らっていたかのようにソレはやって来た。


「ご、ご主人様!」


 駆け足でやってきたのはエリスだ。

 どうやら簡単にはいかない付与の依頼を持ち込んだ客がいるらしい。

 普段なら断って帰すらしいが、今回はエリスでは判断出来ずにラウハイーツに確認に来たらしい。


「そのお客様なのですが、依頼金として一千万G払うと言っているので、ご主人様に確認を取りに来ました」


「一千万G!?それは受けなければ……いや、しかしそれは……」


「悪い。何をそんなに悩むんだ?そんなに難しい付与なのか?」


 金額に驚愕しつつも、受けるかどうか思考するラウハイーツに、何を悩むのか訪ねた。


「あ、いや。付与自体は他とそこまで変わらない物なんですが……えーと、その依頼っていうのが、【生命力吸収】という物なのですが、使う素材が問題なんです」


 なんか、【生命力吸収】とか、聞くだけで凄そうなのだが。


「レア素材なのか?」


「はい。【闇の結晶】という、とてつもない膨大な瘴気の発生源にだけ生成される素材を使用するのですが、コレが採れるのがイーザリア大平原の瘴気溜りなんです」


 イーザリア大平原の瘴気溜りといえば、オレ達が近くまで行くも、慌てて引き返したヤバい場所だ。

 それは易易と入手出来る代物ではないな。


「あそこか、それはオレも行けないな」


「ですよね。我々も以前近くまで行きましたが、その魔物たちのヤバさを見て、急いで引き返しましたから」


 しかしながら、あれから数千もの魔物を討伐し、相当強くなったと思う。

 もしかしたら、今の強さならばあの瘴気溜りの魔物も倒せるのではないだろうか?

 そんな事を考えていると、無意識に口が動いていた。


「ダメ元でいいなら行ってきてみようか?オレも今の自分の実力を計るチャンスだしな」


「え?いいんですか?それならばその旨をお客様に説明して、明日まで待ってもらいますし」


 自分一人での力がどれほどなのか、ゴールドランク試験前に試してみるいい機会でもある。

 この時間からなら、今日中に行って帰ってくる事も出来るので丁度いいだろう。

 オレはこのラウハイーツの頼みを引き受け、直ぐにイーザリア大平原に向けて出発した。

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