第180話 カスケイド山地(2)
久々の更新になります。
これからも時間は掛かりますが、ちゃんと更新していきますので、宜しくお願い致します。
今日は久しぶりのカスケイド山地でレベリングである。
前回渓谷の魔物を一掃してからそこそこの日数が経ったので、他の冒険者が介入していない限りはかなりの魔物がいるはずだ。
それらを再度一掃し次第、今回はそれより先へ進んでいく予定である。
理由は今回受けた二件の依頼だ。
一件は孤児院の代表であるラーゼンから、マンドレアの種を。
もう一件はアノフグルト侯爵からで、シロコダイルを一頭丸ごとを所望しているようだ。
これらは全て、渓谷の奥地に生息しているようで、依頼達成には奥地へ行く事が絶対条件なのである。
「依頼の達成と私達の更なる進化を同時にこなすようにするなんてね。偶然にしては出来過ぎのような気がして仕方ないわ。」
確かにメイの言う通り偶然にしては出来過ぎだとは思う。
だが、物語の主人公はそんな奇跡の連続で成り立っているのだし、オレが本当に神に選ばれたのならば、これくらいの偶然があってもいいだろう。
とりあえずあまり深くは考えずに、目の前の出来事をこなしていくだけだ。
「此処から渓谷に入るぞ。」
「此処?……あっ!」
オレ達が今いる場所はカスケイド山地の入口で、前回帰りに渓谷から出た場所である。
つまり、渓谷の入口から入り、目的のポイントまで渓谷内を突っ切って行くという事だ。
「つまり、魔物の数が戻っていたならば一瞬にして数百の魔物との連戦になるって事だな。俺だって前回と違うってトコ見せてやるぜ!」
オレはライトレイクでの最後の二日間のケントを知らない為、ケントの現状の強さを知らない。
この自信が本物かどうか、確かめるのにも此処はちょうどいいと思う。
木々の間を縫って進んでいき、渓谷へと出ると、そこには既に結構な数の魔物が居座っていた。
「既に魔物の巣窟だ!速攻で倒して少しずつでも進んでいくぞ!」
ウインドショットを放ち、近くの魔物は纏めて始末する。
こちらのパーティ五人が渓谷に出たのを確認し、その先の魔物と対峙する。
が、そこに割って入ったのはルナとケントである。
二人は一撃で魔物を討伐すると、臆する事なくドンドン進んでいく。
だがこの渓谷は簡単に進んでいけるほど甘くはない。
戦闘音を聞きつけた魔物が、奥より次々と押し寄せてくるのだ。
まあ、これは普通に想定内ではある。
幸い入口周辺であるこの辺りの魔物は、まだまだ雑魚のようなものである。
肩慣らしをしながら徐々に進んでいけばいいだろう。などと思ったのだが……
「レイジさん、ここは私にやらせて貰っていい?」
ミルファが一歩前へ出てきた。
「構わないが、大丈夫か?これだけの相手をミルファでは厳しいと思うんだけど……」
「まあ見ててよ!」
ミルファはそう言うと弓を構えた。
矢は装着されていない。どうやら魔力矢でやるようだ。
ミルファの構えた弓矢に魔力が集まっていく。従来の魔力矢の数倍にもなるエネルギーだ。
それを解き放つ直前、ミルファの顔に笑みが溢れた。
「行くよ!レインアロー!!」
その弓から解き放たれた魔力矢は、上空で無数に分かれ、魔物の群れに降り注ぐ。
その範囲は直径30メートル程もある。ディルの放つレインアローが直径10メートル程だった事を考慮すれば、相当広範囲に渡る攻撃だという事が分かる。
これはオレが思うに、使用魔力による効果の違いだと思える。
ジョブに魔弓士を設定しているミルファは狙撃手であるディルよりも確実に魔力値が高い。
更に言えば、ミルファは狙撃手のジョブも付けているのだ。
それならばディルよりも高魔力でのスキル仕様になるのも当然であった。
「ミルファ……今のってもしかして?」
「うん!弓技、覚えたよ!!」
先日ケントが言おうとしてミルファに怒られていたのはこの事だったのか。
しかもそれがレインアローとは……それを見た時のディルがどんな顔をしていたのか、そっちがかなり気になってしまう。
ミルファのレインアローにより、目の前から迫り来る魔物が一掃され、一気に前進する。
勿論その奥に居る魔物たちが一斉に襲いかかってくるので、勢いを殺すべくサンダーショットを使い、先頭集団の魔物の動きを止めていく。
当たった魔物の内、半数以上の魔物はこれで息絶え、残った魔物が邪魔をして後ろの魔物は動きを止める。
此処からルナとケントが以前とは全く違う動きで魔物を倒していく。
確実に急所を打ち抜き、一撃で魔物を仕留めつつ、ゆっくりながら前進していく。
急所をガードされ一撃での討伐が無理そうなら、足を狙いその動きを止めるか、弾き飛ばして後続ごと吹き飛ばして余裕を持って戦っている。
こうして距離が出来ると、オレとミルファで魔法と矢を一気に打ち込んでいく。
再度現れるかは分からないが、ストンドラゴンまではこのパターンで行けるだろう。
次々と押し寄せてくる魔物を討伐しつつ、オレ達も魔物のいる方へと歩を進める。
ようやく1キロ進んだくらいだろうか。
全体攻撃や吹き飛ばしが出来るようになった事で、前進するのがかなり楽になった気がする。
前回はケルベロスの雷の三人がいたのにも関わらず、その戦線を維持するのに一杯一杯だった。
それに比べれば今回はかなり余裕を持って前進出来ている。
これだけで、確実に自分達が強くなってると実感出来るだろう。
「レイジさん、まだ先だけどストンドラゴンがいるよ。どうする?」
少し大きめの岩に登って攻撃していたミルファがかなり先にいるストンドラゴンを発見したようだ。
皆で討伐もいいが、オレとしては単独でリベンジしたい相手である。
我侭かもしれないが、今回はオレに単独で戦わせて欲しいと思う。
勿論それを事前に皆には周知してある。全員、快く了解してくれた。
「事前に話した通り、オレに殺らせて欲しい。速攻で仕留めてみせる。」
その瞬間、皆は周囲の魔物の一掃の為の行動に切り替えた。
実際ストンドラゴンと対峙する際に、間に魔物がいたら邪魔になる。
事前にそれらを処理しておき、確実に一対一の状況を作ってくれると皆は言う。
そして、ストンドラゴンを視界に捉え、向こうもオレ達に対し敵対行動に入った時、行動に出た。
ミルファのレインアローを皮切りに、ルナとケントで中央だけを討伐していき、オレの通るルートを確保しだした。
「この道を通っていけるのです。ウチらが追いつくまでに倒しておいて欲しいのです。」
「とっとと倒してこいよ!俺達だって速攻で追いついちまうからな。」
ルナがハイオークを吹き飛ばし、後続のまものが巻添えを喰らいストンドラゴンまでの道が確保された。
横から現れようとする魔物をミルファが打ち抜いていく。
「サンキュ!行ってくるわ!」
前回同様、魔法剣嵐を使いその距離を詰めていく。
途中横からまものがオレに攻撃を仕掛けようとしてくるが、その何れもミルファによって打ち抜かれていく。
「ストームランス!」
初手は剣ではなく魔法での攻撃だ。
暴風の槍は一直線にストンドラゴンに向かって飛んでいき、そのままストンドラゴンの顔に直撃した。
物凄い雄叫びをあげ暴れ狂うストンドラゴンに、今度は魔法剣嵐による連撃を繰り出す。
ここまでは前回と殆ど同じ展開だ。
ただ、前回はこの後一気に決めようとしてオレは反撃を受けてしまった。
今回、間違っても同じ轍は踏まないと決めている。
そして振り下ろされるストンドラゴンの右前足。それを受け止めも避けもせずに、その足そのものを切り落とした。
突然前足が無くなり、暴れ狂うストンドラゴン。
オレは一歩下がり、ここで勝負を決めに行く。
「流石にコレは耐えられないだろう?飛断・嵐!」
風属性を乗せた飛断がストンドラゴン目掛けて一直線に飛んでいく。
上体を起こしたままのストンドラゴンはその体制では何もする事は出来ないだろう。
その飛ぶ斬撃によりストンドラゴンの身体は真っ二つに切り分けられ、更にはその後方にいた魔物すらも切り裂いていった。