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第179話 二つの直依頼

「初めまして。私がこの孤児院の代表をしております、ラーゼンと申します。」


 初老の男はこの孤児院の代表のようだ。


「初めまして。シルバーランク冒険者のレイジだ。先ずは何故オレが此処に連れてこられたのか、話を聞かせてもらっていいか?」


 細かいやり取りなど一切せずに、いきなり本題を問いただす。

 ラーゼンは苦笑いを浮かべつつ、ゆっくり口を開いた。


「そうですね……では付いて来て頂いても宜しいでしょうか?」


 ラーゼンに言われるがまま付いていくと、そこには幾つかのベッドが並べられ、子供達が寝ていた。

 その子供達は見るからに具合が悪そうだ。明らかに何らかの病気だと思われる。


「これは……何の病気なんだ?」


「アスピレーションシンドローム……魔物が好む高濃度の瘴気を浴び続ける事で起こる、一種の中毒症状です。この子達はアイアンランク冒険者なのですが、先日下水清掃の依頼を受け作業中に突如大量の瘴気が溢れ出して、逃げる間もなく瘴気を一身に浴びてしまったらしいのです。

 その日の夜には症状が出始め、一刻も早く薬を投与しなければ命の危険もある非常に危険な状態なのですが、如何せんこの薬を作る材料が手に入らないのです。」


 どうやら話が見えてきた。その材料の採取依頼を出そうという訳だろう。

 だがこの孤児院の伝手で冒険者くらいいくらでもいるだろう。なのに何故オレに依頼をだすのだろうか。


「それで、その材料なのですが、それが非常に入手困難なのです。カスケイド山地の中でも最も危険とされる渓谷地域。その奥にマンドラゴラの自生区域があります。その中に希にマンドレアと呼ばれる稀少魔物が紛れている事があります。そのマンドレアの種からこの症状の特効薬を生成する事が出来るのです。

 貴方様にその採取依頼を受けて欲しいのです。」


「言いたい事は分かった。しかしおかしくないか?この孤児院出身の冒険者は結構いるだろ?それなのに何だって無関係のオレに依頼を持ちかけようとするんだ?」


「お恥ずかしい話ですが、ウチの出身冒険者の最高ランクはシルバーランクで、とても渓谷になど入れそうもありません。それに、貴方様の噂はこの孤児院にも届いております。あの渓谷部で千の魔物を討伐したとか……騎士団の方々もこの子達を思って直ぐに知らせてくれたのです。どうか……どうかこの子達を救ってもらえないでしょうか?」


 ラーゼンは頭を下げ懇願している。

 オレも此処まで頼まれて断るほど鬼ではない。

 ただ、昇格試験残り僅かで、実際態々行くほどの余裕はない。

 しかし……


「見つかるかは別として、探しに行くのは構わないぞ。丁度明日はカスケイド山地に行く予定だったしな。そのついでに探す分には問題ないさ。」


 それを聞いたラーゼンやリモンド、ライアンの両騎士の顔に笑みが溢れる。


「あ、ありがとうございます。どうかこの子達をお救いください。」


 さて、引き受けたけどどうしたものか。

 前回の行動範囲にはそのような魔物はいなかった。

 ならば、更に奥にその自生区域があるのだろう。

 そこまでたどり着くまでが問題になるだろう。

 オレ達がどれほど成長してきたのか、それを知るにはいい機会だろうが、危険である事には変わり無い。

 決して油断せずに、しっかり準備をして向かう事にしよう。


 孤児院を出て帰路に着く。

 本来はもっとスラムを見て回りたかったが、思いの外時間を食ってしまった。

 今日はこれくらいにして帰るとしよう。


 ◇


「あ、帰ってきました!少々お待ちください。……レイジさん、お帰りなさい。」


 家に着くと、門の前までミルファが出迎えてくれた。


「ミルファ、ただいま!もう帰ってたのか?」


「うん、私だけね。レイジさんに用があるって方がいて、連れてきたんだけど……大丈夫だった?」


「ああ、その為にミルファが案内してくれたんだな。ありがとう。」


 そう言うと、ミルファが満面の笑みで答えてくれた。


「いきなり押し掛けて申し訳ない。私の名前はストゥワート・アノフグルト。侯爵だ。君がシルバーランク冒険者、サウザンドキラー・レイジで間違いないな?」


 うーん、貴族の間でもサウザンドキラーの二つ名が当たり前になっているのか……もうどうでもいいや。


「初めまして。オレがシルバーランク冒険者のレイジです。こんな所で立ち話もなんですから、室内へどうぞ。」


 こんな事があるなら来客用に応接室でも作っておけば良かった。

 基本寝室以外は手つかずなので、ここはリビングに通すしかないようだ。

 しかし、この人は本当に侯爵なのだろうか?

 確かに馬車で来たようだが、御者以外誰も同行させずに単身見知らぬ人間の家に来るなど正気の沙汰ではないと思うのだが。

 今の所嘘をつく必要は無さそうだから、多分本物だとは思う。


 家のリビングへ通すとミルファがコーヒーを出す。

 王都にはコーヒーが売っていると知っていたので、先日買っておいたのだ。

 これはオレとミルファ、あとはメイの三人が好んで飲んでいる。

 ルナとケントは苦くて嫌らしい。


「それで、いきなりですが侯爵様が一体オレに何の用なのでしょうか?」


「うむ……すまん!カスケイド山地の渓谷で千の魔物を討伐した貴殿の力を見込んでお願いしたい。渓谷の奥地に潜む魔物、シロコダイルを討伐してその素材を丸ごと持ち帰って欲しいのだ。金額は言い値でいい。貴殿が求める金額を用意しよう。どうか頼めないだろうか?」


 渓谷にはまだそんな魔物がいるのか。

 奥地ならば孤児院で頼まれた場所と変わらない。ついでだから受けても構わないだろう。

 ただ、気になるのはその理由だ。

 貴族が一冒険者を訪ねるなんて、よっぽど急ぎで手に入れなければいけないようだが。


「それは構いませんが、理由が気になります。話してもらえますか?」


「……他言無用で頼むぞ……今王都には私ともう一人侯爵が滞在している。ランウェート侯爵だ。実はこのランウェート侯爵の長女と私の娘は同学年なのだが、このランウェート侯爵の娘の誕生日にメノウリザードオニキスから作られたというネックレスが送られたのだよ。

 それを知ったウチの娘が無茶を言い出してな……あのネックレスより凄い物を用意しないとパパとは絶交だって言い出してしまったのだ……」


 ああ、娘を持つ父親の辛いところだろう。

 それを言われたら是が非でもやらなくてはと思ってしまう魔法の言葉だ。

 しかも、メノウリザードオニキスって、多分アレだよな……そうなると、半分はオレにも責任があるのではと思ってしまう。


「それから色々調べたところ、シロコダイルで作るバッグは最高級品で、今は中々入手出来ないというではないか。シロコダイルの生息域はカスケイド山地の渓谷エリア。私も諦めていたのだが、先日君たちがその渓谷の魔物を一掃したと聞き、希望が見えたのだ。

 頼む!君たちが最後の希望なのだ。どうかシロコダイルを討伐し、その素材を持ち帰ってもらえないだろうか?」


「アノフグルト侯爵、運がいいですね。丁度明日、カスケイド山地の渓谷の奥深くまで行く予定をしていたのですよ。その際に見つけましたら、優先的に討伐するようにしますよ。」


 孤児院のラーゼンからの依頼もカスケイド山地の渓谷に生息するマンドレアだ。

 同じ場所ならば手間も掛からない。

 しかも前回降りた渓谷の更に奥地だ。どのような場所なのか、少しワクワクしてしまっている。

 明日が楽しみで仕方ない感じになってしまっていた。

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